本学の知識と伝統産業
このページでは、伝統工芸産業に貢献しうる本学の「知識」についてご紹介していきます。
・4画面思考法
・感性データ評価システムの開発
・伝統産業における技術革新の知識基盤化
・科学的な視点での漆工芸品の評価:形と中身−漆を取り巻く光と成分−
夢みるだけでは始まらない。まずは、思いを言葉に「宣言」してみよう。思いを整理して実践することは、未来を創る確実な力となる。
「そうそう、こんな感じ!!こういう物を探していました。」 ― お客様の要望に応える商品をすぐに選び出せる!?
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【 感性データ解析の概要 】 |
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工芸品のお店に訪れた客から「シンプルだが伝統を感じさせるお椀で、値段はこれくらい。秋に嫁入りする娘に持たせたいのですが。」と問われたとき、数多くの製品の中からどれを提示すればいいでしょうか。上手な商談には相当長い経験が必要です。このような「経験知」は簡単に定量化できるものではありませんが、知識工学や感性工学の分野においては、その試みがなされてきました。代表的な方法は、製品や素材に対し「豪華な」「斬新な」という感性ワードがどの程度言い表しているかを被験者に回答してもらうという感性評価実験を実施して、そのデータに基づいて製品や素材と感性ワードとの適合度を求めるものです。 しかし、感性評価データには被験者の感性のバラツキに加え、言葉の使用上の曖昧性が重なるため、一般に大きな分散ができてしまいます。そこで「ファジィ対応分析」という手法を開発して感性評価実験を実施し、何種類かの工芸素材と感性ワードとの曖昧な対応関係をモデル化しました。さらに、このモデルに基づいて、複数の感性ワードで要望が表現された場合にも、その顧客の要望に近い素材を提示する方法を開発しました。 |
【 対応分析の紹介 】 ―アンケート調査によってサンプル品を評価した結果を分析した例です。 ―

| ●位置が近い ⇒対象にふささわしいワード ●半径が大きい ⇒感性がばらついている |
図から対象とワードのファジイ類似度を計算
過去を知ることで踏み出せる ―「新たな知識を創造するため」の情報提供システムの開発―
【 伝統的産業と技術革新 】
伝統的工芸品産業は、その特徴上および伝産法により、技術革新とは無縁のように思われますが非常に密接な関係にあります。これまで伝統産業が発展・存続してきたのは、職人や作家の活動を裏で支えてきた技術革新があったことが大きいと言えます。石川県の伝統工芸品産業においては、石川県工業試験場が技術開発等のサポートをしています。
陶磁器産業:九谷焼産業の例 |
漆器産業:石川県内の漆器産業の例 |
| 整形法:手引き(轆轤)+鋳込み、ローラーマシーン | 木地挽き:手挽き+機械挽き |
| 加飾法:手書き+スクリーン印刷、タコ印刷 | 加飾法:手描き+スクリーン印刷 |
| 絵具:上和絵具+耐酸性上絵具、無鉛上絵具 | 乾燥法:自然乾燥+燻煙乾燥、真空乾燥 |
【メタ知識をマネジメントするための方法論としてのi-System】
◆知識社会の時代◆21世紀は、「知識」が生産や流通といった経済活動をはじめ、様々な社会的活動の中心となる「知識社会」の時代であるといわれています。知識が社会活動の中心を担うためには、絶えず新たな知識を創造していかなければなりません。そしてそのためには、新たな知識を創造するための知識、すなわち「メタ知識」が必要です。しかし、そのメタ知識が「どのような種類(データ、情報、知識)」で「どのように収集、整理、配信」すればよいかという問題があります。
◆知識の統合と創造のためのシステム方法論「i-System 」◆
この問題の回避には、メタ知識をマネジメントするための方法論が必要です。本研究は、システム方法論の一つであるi-Systemの応用を提案します。
i-Systemとは、「欧米の構造能力パラダイム」と「東洋の弁証法的思考」を融合した方法論で、その構造は、「原理・事象の領域」「社会・関係の領域」「認識・心理の領域」、それぞれの構造下におけるアクター達の能力として「理:集成力」「縁:交流力」「想:構想力」を考え、それらに対するリーダーや分析者の「行:行動力」と知識の「知:統合力」の不可分性という「知行合一」を展開している方法論です。
【技術革新の知識基盤化のための技術開発アーカイブ・システム】
過去に行われた技術開発等に関する知識や情報を収集・保存・配信することは、貴重な知識の損失を防ぐとともに、新たな技術開発及び商品開発等の知識を生み出すためのメタ知識を伝統産業従事者に提供できます。本研究は、i-Systemを過去の技術開発に関する情報や知識(メタ知識)を、マネジメントするための方法論に適応させ、石川県の伝統産業(九谷焼や漆器産業) を対象に技術革新に関するメタ知識を収集し、そして収集したメタ知識を保存・配信するためのデータベース・システムを開発することで「伝統産業における技術革新の知識基盤化」 を試みています。
表面の科学なしには中身を語れないのです−視点を変えて見てみよう−
伝統工芸品を鑑賞したり評価したりするとき、眼を含む感覚が必要とされます。すなわち、経験的な知識の蓄積を基に五感を働かすことになります。その感覚の中でも「視覚」は最も重要です。非接触で、形・明暗・色の三次元情報を得ることができるため工芸品の損傷を極度に小さくできる特色があります。
【形】
先ず、形について見てみましょう。我々が左右の目を用いて物を見るのは立体視をするためです。通常、写真は平面ですが、陰影をつけると頭の中では立体を構築できます。最近ではコンピュータの画像技術の発達に伴い、等高線から立体を構築することや多点撮影によって立体を作ることができるようになりました。その立体像に対して、自由に視点を変えて見ることができます。
| この画像技術を用いると、顕微鏡で微小な物体を立体化してみることが可能です。この操作は、焦点を多段に変化させて写真撮影して、微小領域の物体の画像を三次元に構築します。例えば、漆器の表面を多段撮影して三次元構築して斜めから見るように回転すると、図に示すような立体像を得ることができます。この技術で伝統工芸品の評価や鑑賞をすると、単に虫眼鏡で見るのとは違った、デジタル化による評価が可能となるのです。 | ![]() |
【光】
光には通常光と異常光があります。複屈折を起こす異常光は直線偏光と円偏光に分かれます。円偏光は1/4波長板を通すと直線偏光として観測できますが、通常、人の目には差別できません。それに対して、直線偏光は偏光ガラスを通して偏光強度を減少させて観測できます。例えば、水面の反射光混入によって見えなかった水中のものを見ることができます。釣り人が偏光サングラスを使うのはこのためです。同じことを伝統工芸品の評価に使うことができます。
【光沢】
【漆成分】
| 漆成分について、漆は産地によって成分が異なります。これが工芸品に反映することは推察できますが、同じものであっても温度、湿度、酸素、遷移金属量によって工芸品はかなり大きな影響を受けます。ここで、漆の化学成分を見てみましょう。 | |
| 右図に示すように、主成分であるウルシオールは化学構造として、フェノール部と脂肪族鎖部からなります。フェノール部はカテコールであり、酸化されやすく重合に関与します。脂肪族鎖長はC15からなる直鎖状(97%)であり、二重結合が8位にあるものが96%に及びます。重合の過程は、@銅原子を含むラッカーゼ酵素が酸素と結びついた触媒から始まり、Aウルシオールのカテコール水素をラジカル引抜してフェノキシラジカルを与えています。B生じたラジカルは連鎖反応を脂肪族側鎖やフェノール部と起こして網目状高分子となります。 | ![]() |
| 漆の成分と類似したものの一つとしてカシュー油があります。カシュー塗料として知られている主成分はカルダノールですが、原料であるカシューナッツに主成分として含まれるアナカルド酸を熱分解してより安定なカルダノールを得たものです。 | |
| カルダノールは重合しにくいため、ホルムアルデヒドを加えて重合する塗料に変えています。天然素材としてのカシュー油そのものの利用はほとんど見られません。 | ![]() |
【抗菌作用】
ウルシオール類の抗菌作用について、ウルシオールやアナカルド酸は抗菌作用を示すとされています。院内感染で問題となっているメチシリン耐性菌(MRSA)に対してアナカルド酸の最小発育阻止濃度(MIC)は6.25μg/mLを示し、数ppmで殺菌効果を示します。大腸菌などに対しても同様の性質を示します。これに対して漆器ではこのような性質を示すかどうか調べられましたが、新しいもの(塗布後数ヶ月)は抗菌性を示しますが、古いもの(塗布後10年)は効果が認められないという報告があります。なお、カビに関しては効果がほとんどありません。
【塗布成分の分析】
漆器の塗布成分の分析は高分子の分析となります。微量化が進む分子分析の中で質量分析はピコグラムの試料を分析できます。しかし、高分子に対しては無効です。ただし、試料を熱分解してその成分を分析することは可能です。たとえば漆器の塗布部分を500℃で熱分解して発生したウルシオールの分子断片を検出することはできます。また、質量分析とクロマトグラフィーと組合すと試料毎のパターンができ、産地を推定することまで可能となります。試料の微量化によって、化学的な分析が容易になったことで、感覚だけによる成分評価が再現性良く可能となる段階に入ったといえます。
形と中味は表面と材質成分の関係です。材質は表面と深層部で同じと考えると表面は材質を反映していることになります。漆器の製作工程を照らすと均一な考えでは十分な説明はできませんが表面の科学なしには中身を語れないことも事実なのです。














