人工知能領域【飯田研究室】
「ゲーム場における知の力学」は,ゲーム場においてプレイヤの知と知の間に生じる相互作用を探求する学問領域である。この相互作用には,決定論的要素と確率論的要素の両面が存在する。ゲームにはスキルとチャンスの両面があることに対応している。ゲームの勝敗が,スキルだけで決まるゲーム,あるいは,チャンスだけで決まるゲームは魅力的とは言えない。洗練されたゲームは,スキルとチャンスのほどよいバランスが保たれているのである。
「ゲーム洗練度の理論」は,遊戯性の本質とも言える,ヒトの脳が感じるスリル感をほどよく高めるように,ゲームが長い歴史を経て洗練淘汰されてきたことを示す理論である。チェス・将棋・囲碁のような,千年以上の歴史を経て洗練淘汰されたゲームでは,自由度(可能手数)と長さ(終了手数)に基づいて定義される洗練度の指標がほぼ同じになる。これは洗練されたゲームを場として,プレイヤの知と知の間に相互作用が生じるゆえのことである。
「三名人モデル」はゲームの三つの側面,すなわち,競技性(名人),遊戯性(達人),哲学性(鉄人)に着目する。ゲーム理論,ゲーム洗練度の理論,組み合わせゲーム理論(ゲーム=可換群)が各々に対応すると考えられる。「ゲームの進化」を洗練度の指標によって特徴付けることができる。例えば,チェス種の歴史では,最初は見かけ上の複雑さが増すように進化し,その後,遊戯性(スリル感)が高まるように,つまり,洗練度の指標が適度な値(刺激的過ぎない)になるように進化してきた。
「コンピュータ将棋タコス」を開発し,ゲーム場において人工知と人工知の間に生じる相互作用を考察し,ヒトの知との比較を試みたい。コンピュータが関与する対戦では,名人同士の対戦のときに周囲が感じる感動が生まれないという本質的な問題がある。名人を超えるコンピュータ将棋を開発することで,この問題に付随する本質的な原理を解明したい。
「証明数を用いたAND/OR木探索」は,コンピュータ将棋の終盤の精密な先読みを支える重要な技術である。単に網羅的に先読みをするのではなく,最も重要そうな局面から先読みを展開するために,証明数を指標とするのがポイントである。AND/OR木探索に関する技術を開発したことで,詰みの有無を超高速に探索することが可能になった。さらには,詰めろおよびそれを防ぐ手を中心に先読みを行う必至探索にもこの証明数型のAND/OR木探索を拡張し,名人レベルの精度の高い終盤ルーチンを実現した。
「序盤の駒組み」において,名人とコンピュータの差が如実に現れる。名人同士の序盤戦は,多くの場合,定跡と呼ばれる,かつての経験的知識をベースに,戦型選択の微妙な駆け引きを経て,均衡のとれた中盤戦へと展開する。ときには,かつて例のない独創的な展開になり,新たな定跡が誕生する。我々は,人間同様,コンピュータにも得意・不得意な序盤の戦型があることを認識した上で,得意な戦型を序盤データベースから自動的に抽出する方法を開発した。また,大規模な自動対戦によるチューニングを通して,戦型選択の微妙な駆け引きを理解しつつ,自分の得意な土俵へ誘導できるように改善し,プロとの対戦に臨んだのである。
■代表的な著書・論文
- 飯田弘之:名人の心理,「芸術心理学のあたらしいかたち」, 誠心書房, 2005
- Jaap van den Herik, Hiroyuki Iida and Ernst Heinz:Many Games,
Many Challenges", Kluwer, 2003
- 飯田弘之:コンピュータは名人を超えられるか,岩波科学ライブラリー90, 2002
- H. Iida et al:Computer Shogi, Artificial Intelligence 134(1-2)121-144,
2002
- H. Iida et al:The PN*-Search Algorithm:Application to Tsume-Shogi,
Artificial Intelligence 129(1-2)253-277, 2001
- H. Iida et al:Tutoring Strategy in Game-Tree Search. ICCA
Journal 18(4)191-205, 1995
- H. Iida et al:Potential Applications of OM-Search:Part 1.
The domain of applicability. ICCA Journal 16(4)201-208, 1993