計算工学領域【前園研究室】
■研究室概要
「ナノテク」や「ドラッグデザイン」といった言葉で象徴されるように,近年,電子レベルのミクロな性質を理論的に予見して,分子や固体材料などに望ましい機能を持たせるよう人工的に設計してしまうといった研究が盛んです。電子レベルの性質は量子力学として知られる基本的な方程式で支配されていますが,この基本原理に基づいて物質の性質を理論的に研究する分野は「観測事実を理論的に解明する」といった受け身の研究から「基本法則に基づいて量子的性質を設計する」攻めの分野へと大きく変貌を遂げています。
■ナノテク基礎の量子シミュレーション
本研究室で扱っているのは,いわゆる量子シミュレーション手法―「量子力学に従う数多くの電子の振る舞いを大規模コンピュータでシミュレーションする研究」を行っています。このような研究はナノテクノロジーを支えるコンセプトの一つとして,実験合成に先立ち思い通りの物性に狙いを定める「量子デザイン」のツールとして,近年ではナノテク,バイオ,製薬といった産業現場からも大きな関心がもたれています。
■量子シミュレーション手法の最右翼
量子シミュレーション手法には,「実用的で計算コストも安いが大雑把な予測しか出来ない」ものから,「計算コストは高いが非常に信頼できるもの」まで,数々の階層があります。本研究室が扱うのは,このうち最も信頼性が高いとされている手法で,他のより安価な手法に「お墨付き」を与えられるような「ツールのためのツール」として注目されています。コンピュータが高速になり,量子シミュレーションが,これまで以上に多彩で新しい対象を扱うようになったため,そのような未知の対象にも安価な手法を信頼して使ってもいいのだろうか?という事を気にする人が増えてきたためです。また本研究室で扱っている手法を用いて,より実用的な手法が新規の系にも使えるような「取替え用キット」を開発することも可能なため,近年大きな注目を集めています。ところが,この手法を使いこなせるグループは世界的にもまだ少なく,日本では,この研究室だけといっても過言ではありません。
■大きな期待を集める大規模計算アプリ
コンピュータは今や社会に深く浸透し,これに関わる科学の研究対象も非常に多彩となりました。これは本研究科スタッフの顔ぶれで分かるとおりです。この中でコンピュータの処理速度自体を高める研究は,物理学,化学,工学といった科学計算シミュレーションを最先鋒のユーザとして意識しながら発展してきました。科学計算を行う研究者は,コンピュータ・アーキテクチャ研究の検証部隊とも言えます。逆に本研究室のテーマが,この数年で急激に大きな関心を集めたのは,パラレル・コンピューティングのおかげで,それまで絵空事でしかなかった超精密・大規模計算が実用の域に入ってきたためです。今,世界の高速計算競争にあって大規模科学計算を用いた研究は,性能や使い勝手を実証するターゲットアプリとして重要度を増しつつあり,同時に物理や化学の研究者といえども大型コンピュータに関する深い理解なくしては世界のトップレベルでの理論研究は遂行出来なくなってきています。JAISTが誇る我が国トップレベルの高速計算機と情報科学研究学府の膝元にあって,物理学や化学といった枠組みを力強く踏み越えていける「計算科学者」の養成を目指しています。
■代表的な著書・論文
- "Equation of state and Raman frequency of diamond from
quantum Monte Carlo simulations", Ryo Maezono, Andrea
Ma, M.D. Towler, and R.J. Needs, Phys. Rev. Lett., 98, 025701(2006).
- "Phase diagram of manganese oxides ", Ryo Maezono,
Sumio Ishihara, and Naoto Nagaosa, Physical Review B 58, 11583(1998).
- 「量子モンテカルロ法による第一原理計算法」, 前園涼, 固体物理39779-790(2004),アグネ技術センター.