國藤教授が先端科学技術の分野で活躍するようになった背景には、こどもの頃に知った発明や発見の喜びと、いく人もの恩師との出会いがある。
 中学生のころ、科学クラブのメンバーだった國藤少年は、あるとき“富士山頂では沸点が低いため、お米がうまく炊けない”という話を聞き、不思議だなと思ううちに、「圧力を低くすると蒸留水がたくさんできるのではないか」とひらめいた。クラブの先生に相談したところ、それはおもしろい、一緒にやろうということで、手作りで『減圧蒸留装置』を作り上げた。これが某新聞の発明工夫展で最優秀賞となり、以来、國藤少年はさらに発明に夢中になった。

 高校に進学してからは、発明にかける時間はなかったが、数学やゲームやパズルにのめりこみ、そこから得られる発見の一つひとつを楽しんだ。

 大学時代のクラブ活動は心理学研究会で創造性の研究班をつくった。担任の宮城音弥先生は天才論、狂気論で高名な教授だった。やがて安保闘争が起こると、大学を飛び出した川喜田二郎先生の移動大学に参加、大きな感銘を受けた。
 卒業後、富士通の基礎研究所である国際研に入ったのは、創造性の問題に関心が高かった北川敏男先生(国際研所長)のすすめ。そこで「発明発見を偶然に任すのではなく、科学的にやってみたい」と思った教授は、高校時代の趣味だったパズルを計算機で解くことに挑戦するようになる。エレクトラパズルをコンピュータで解いたのは、おそらく教授が世界ではじめてである。この研究がきっかけで、『第五世代コンピュータプロジェクト』という国家プロジェクトにソフトウェア関係のグループリーダーとして携わることになる。


 『W型問題解決学のモデル』というものがある。まず問題は何なのかという問題提起があり、インターネットやフィールドワークを通じた知識の収集活動があり、集められた膨大な知識を整理統合する中で、問題を解決する仮説を見つける。複数の仮説の中から、どれがいちばん適切かを判断し、それが正しいかどうかを検証する。
 人間の頭脳の中で行われている発想や問題解決のプロセスを、コンピュータ上でシミュレーションできれば、それが可能になると教授は考えた。
 『第五世代コンピュータプロジェクト』の目的のひとつは、コンピュータにこうした仮説を生成させ、それが正しいかどうかを検証させることにあった。
 教授らは実際にそうしたことが可能なシステムを作り上げ、コンピュータが三段論法的な推論をしたり、仮説を生成し、それを検証することができるということを、確認したのである。



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 ところが、1985、6年から90年にかけてニューロネットが取りざたされるようになった頃、教授はある限界を感じた。
 「コンピュータの電子は光と同じスピードで進みます。ヒトの頭脳のパルスは1秒間に20メートル、30メートルしか進まない。そんなに遅い“チップ”を使っているにもかかわらず、知識経験の豊かな人は、コンピュータが膨大な時間をかけて計算する問題を、ほんの数秒で解いてしまいます。それはなぜだろうという疑問を持ったのです」。
 ベテランの医師は、患者の顔色や様子を見るだけである程度の診断ができる。しかし同じことをコンピュータにやらせようとすると、世界最速のコンピュータでも、生物が生まれてから死ぬまでという気の遠くなるような時間がかかるのだ。
 そこで教授は発想を変えた。人間の得意なことは人間に任せて、コンピュータが得意なことはコンピュータに任せよう、と。
 「大量のデータを記憶したり検索したりすることはコンピュータに、直感的に仮説を見つけることは人間に任すようなシステムを作ったほうが面白いのではないのかと考えました」。
 これが90年から、國藤教授が世界をリードしてきた発想支援システムという研究分野の発端である。
 現在、國藤研究室を含む創造性開発システム論講座では、発想支援システム、アウェアネス支援ツール、ナレッジマネジメント、そして知識システムの基礎研究など、おどろくほど多様なテーマの研究がなされている。これは「存在するありとあらゆる要素技術を駆使して創造性支援システムの構築を目指す」というモットーに基づく。
 こうした研究は、インターネット上の膨大な知識を使いこなすためのユーザフレンドリーなソフトとして、あるいは人と人、人と知識が出会う展示物会場のガイドシステムとして、企業など組織での知の活用を促すグループウェアとして、わたしたちの知的な活動をサポートしてくれている。また中にはRoboCupプロジェクトに参加して世界大会に出場している学生もいる(※1)
 このようなツールを作り上げるにはハードとソフトの両方が必要とされる。またより複雑なシステムを作るにはハードソフトの知識に加えて、医学や心理学的な知識も必要になる。國藤研究室では、まさにそうした幅広い知識を備え、そして遊び心もあるスタッフが一歩先の技術を作り上げていこうとしている。
 さらに教授は、これらの技術をセンサー技術と組み合わせて、バーチャルリアリティとリアルリアリティの融合を目指すという夢のような目標を語ってくれた。センサー技術を採用したエンターテイメントロボットや、インターネットで香りや触感を感じさせるなど、SF小説のような話だが、100年前に自動車がこれだけ広まるとは考えられなかったように、近い将来きっと現実のものになるだろう。まさに先端科学の夢がここから生まれていこうとしている。
 國藤研究室では、グループウェアやコミュニティ・コンピューティングについての新たな支援方法を実現するにあたり、アウェアネス技術を組み込む研究が増えています。アウェアネス(Awareness)の一般的な英単語としての意味は、「気づくこと」や「意識」などです。グループウェア研究におけるアウェアネスは、「気づき」といった意味で用いられ、特に、ユーザの周囲の状況やユーザに関連する情報への気づきを指します。 このアウェアネスは、グループウェアなどを利用した協調作業支援を考えてゆく上で、重要な概念として、昨今注目されています。協調作業を円滑に進めるためには、自分の周りにどのメンバーが居て、その人たちは今何をしているのか、それによって協調作業に必要な情報がどう変化するのか、などといった状況への気づき、すなわち、アウェアネスが必要となるからです。
 國藤研では、WWW空間や電子会議環境を題材に、同期的なアウェアネス支援を組み込んだ研究が多く行われています。一方私の研究では、組織内において有益な情報が埋もれてしまっていることに対する策として、眠っている情報の存在とその利用価値への気づきを非リアルタイムにもたらす、情報取得アウェアネスを実現しています。
門脇 千恵
創造性開発システム論講座 助手

■専 門/CSCW (Computer Supported Cooperative Work
■主な研究課題/アウェアネス支援方法 コンテンツ/ユーザ挙動分析の方法論 ワークプロセスに連携した組織情報共有手法
  インターネットの普及にともなって、インターネットから多くの情報を得られるようになりました。しかしその一方で必要な情報を見つけ出すことは困難になってきています。たとえば新聞社のニュースサイトで気になる記事を見つけ、その記事に関連する情報を知りたい時には、ポータルサイトでキーワードを入力して検索することが多いと思います。しかし的外れな結果ばかりで、結局思考錯誤しながら様々なキーワードで検索を繰り返した、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。 こうしたケースでは、検索したい内容は分かっていても良い検索結果を得るためのキーワードが分からない、ということが最も深刻な問題です。
 そこで本研究室では、 キーワードを入力するのではなくニュース記事等のテキスト情報をそのまま用いて検索を行う手法について研究を進めています。使い方はマウスで検索したいテキストをカット&ペーストの要領で指定するだけなので、 どのようなキーワードを使えばいいのか分からない場合でも手軽に検索を行うことができます。
 検索の手法としては、マウスで指定されたテキストから重要な単語(重要語)を抽出し、重要語を用いて検索を行います。 重要語はテキスト中の単語の頻度とサーバ上の出現傾向を用いて推定します。
 またこの手法をもとに、ミーティングなどの場で対話の内容に関連する情報を適時取得する方法についても研究を行っています。この研究は対話内容に関連する情報への気づきを支援し、知識利用を活性化することで知識創造を促進することを目的としています。
金井 貴
創造性開発システム論講座 助手

■専 門/アブダクション、帰納推論、法的推論
■主な研究課題/アブダクションと帰納推論 の統合、アブダクションを用いた法的推論、 情報探索支援ツールの研究


知識科学研究科 教授
國藤 進(くにふじ すすむ)
東京工業大学工学士(1971)東京工業大学工学修士(1974)東京工業大学博士(工学)(1994)
<略歴>富士通(株)国際情報社会科学研究所(1974)、(財)新世代コンピュータ技術開発機構研究所主任研究員(1982)、富士通(株)国際情報社会科学研究所第二協力開発室長(1986)、同第二研究部第二研究室長(1988)、(株)富士通研究所国際情報社会科学研究所第二研究部第二研究室長(1990)、同第二研究部長付(1991)、北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授(1992-1998)、同情報科学センター長(1992-1998)、同知識科学研究科教授(併任)(1997-1998)、同情報科学研究科教授(併任)(1998-1999)、同知識科学教育研究センター長(2000-)
<専門> 発想支援システム、グループウェア、および知識システムの研究
<研究テーマ> 発想支援システムの研究、グループウェアの研究、知識システムの研究
<キーワード> グループ意思決定支援システム、収束的思考支援ツール、発散的思考支援ツール、 アウェアネス支援ツール、ナレッジマネジメント支援ツール


「人間のありとあらゆる創造的な活動をサポートするシステムを
作りたいと考えています。」