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コミュニケーションロボットの社会的利用と評価 |
平野貴幸(現在,セイコーエプソン(株)) |
この視点に立ち,人とロボットのインタラクションに関する研究が近年盛んに行われ始めています.しかしながら,従来の研究は統制の効いた実験室内での実験がほとんどであり,現実の社会にロボットを投入した場合,人とロボットの間でどのような社会的インタラクションが生まれるかについての研究はなされていませんでした.そこで,本研究では,小学校に1ヶ月にわたってロボットを投入し,そこで自然に生まれる子供たちとロボットとのインタラクションを調査分析しました.
使用したロボットは,ATR知能ロボティクス研究所で研究開発が進められている日常活動型ロボット Robovie です.このロボビーに,さらにRFIDを用いた個人識別機能を追加しました.この機能によって,ロボビーは,今自分の目の前で一番近くにいる生徒が誰であるかを知ることができます.その結果,ロボビーは個々の生徒との過去の対話履歴に応じた振る舞いをすることができます.
このようなロボットを2台,和歌山大学付属小学校に持ち込み,小学校1年生と6年生の教室でそれぞれ2週間ずつ稼働させ,子供たちとロボビーの間でどのようなインタラクションが生じるかを観察しました.また,この小学校では全学年で英語の授業が行われていることから,ロボビーには「外国からやってきた子供」に相当する役割を持たせ,英語のみを話すように設定しました.
ロボビーの導入当初はやはり子供たちがロボビーに群がり,特に1年生では大騒ぎの状態になりました.しかし,そのような状況は長続きせず,どちらの学年についても第2週めにはいるとロボビーの周りに誰もいない状態が多くみられるようになりました.これは,ロボビーに埋め込まれた振る舞いの種類が限られていたことと,このような環境では音声認識機能がまるで使い物にならず,振る舞いの状態遷移がうまく進まず,ロボビーの動作が脈絡のないものになりがちであったことなどにより,生徒たちに飽きられてしまったためであると思われます.
しかしながら,わずかではありますが一部の生徒は最後までロボビーとのコミュニケーションを取り続け,「友達」のように接していました.また,ロボビーに英語だけを話させることにより,生徒たちはロボビーと英語でコミュニケーションすることになります.この結果として英語力の向上がみられるかもしれないと考え,期間の最初・半ば・終了後の3回にわたって英語の試験を行いました.この結果,1年生でロボビーと親密なインタラクションを取り続けた生徒たちが,有意に英語力が向上するという結果を得ました.一方,6年生については,ロボビーと最後まで親密なインタラクションをとっていた生徒の成績は特に向上しませんでした.これは,子供の発達過程とロボビーの受け入れ方の間に何らかの関連性があることを示唆している,非常におもしろい結果だと思います.
このように,全体としてあまり良好な結果が得られたとは言いがたく,問題山積という状態ですが,このような現実社会にロボットを長期にわたって投入する試みは初の試みであり,多くの貴重なデータや経験が得られました.今後は,この結果をふまえ,ロボットに真の社会性を備えるためにはどうすればいいかについての研究開発を進めていきます.
なお本研究は,平野貴幸君がATR知能ロボティクス研究所での半年間の研修として実施したものです.