「ありたい姿」を発信しよう

内平直志
2004年3月
(JAIST東京社会人コースで近藤修司先生の講義を聞いて)

突然、「あなたのありたい姿って何ですか?」と聞かれたらどう答えますか。質問の意図がわからず、戸惑いながらも「社長になりたい」「歴史に残る大発明をしたい」「楽してお金をもうけたい」等いろいろな反応があるでしょう。この「ありたい姿」は北陸先端科学技術大学院大学のMOT(技術経営)コースで仕入れた言葉ですが、上手い表現だと思い、自分の解釈を加えながらラボ内で使っています。

「ありたい姿」とは、「自分、グループ、会社、社会がこうありたいという具体的なイメージ」です。「ありたい姿」は内部から湧き出るものであり、よく使われている「あるべき姿」とはニュアンスが違います。また、「ビジョン」は本来「ありたい姿」と同義だと思いますが、"偉い人"から一方的に与えられるという誤ったイメージを生み易いのに対し、「ありたい姿」は自らの主体性が伝わります。そして、「現実の姿」と「ありたい姿」のギャップが、創造的な緊張を生み、それが個人の活力と情熱の源になります。

ここで、私は、「ありたい姿」の必要条件に、他人が共鳴し、仲間に加わり、応援してくれることを加えたいと思います。例えば、単に「社長になりたい」だけでは、「ありたい姿」ではありません。しかし、「社長になって、こうゆう理想の会社を作りたい」であれば、それに共鳴し応援してくれる人がいるかもしれません。

実は、「ありたい姿」の重要性を痛感したのは、1999年に始まった東工大との産学連携プロジェクト「サイバー金融システム」でした。プロジェクトのリーダーであった故白川教授は理想主義者かつ情熱家で、決して世渡りに長けたタイプではありませんが、本質を捉えた金融システムの「ありたい姿」を提示しました。そこに我々が飛び込み、事業部、金融機関、政府関係の人々の共鳴を呼び、共同研究がスタートし、我々が立ち上げた勉強会・研究会に多くの人が集まり、国プロの予算を獲得し、他社との共同商品開発も実現しました。今振り返ると、戦術的には素人(=研究者)で、いくらでも潰れる機会はあったはずですが、その都度「ありたい姿」に共鳴し、助けてくれる人がいたため、不思議に糸が繋がってきました。「ありたい姿」とそれを裏打ちする「しっかりした技術」、「個人の情熱」があれば、なんとか道は拓けるものだなと実感しました。

昨今、分社化や他社との協業および産学官連携の拡大に伴い、研究開発のスタイルが階層型からネットワーク型に大きく変わりつつあります。多くの関係者の利害が絡むと、自分達の思惑通りに物事は進まず、苦悩するケースも多いと思います。そんな時こそ、原点に戻って「ありたい姿」を確認し、発信することが重要ではないかと思っています。