DNAで2進数計算を行う(DNA分子による知能の実装)

DNAは生命の設計図でありそのDNA情報に基づいて「生きる」システムが運用されています。情報分子としてDNAを考えると、4種類の塩基G(グアニン),A(アデニン),T(チミン),C(シトシン)を配列として組み合わせることによりいくらでも複雑な情報を自由に表現することができます。我々の体の中ではこの複雑なDNAの情報を巧みに蛋白質が必要な時に読み出すことで生命システムを維持しています。その生命システム運用の際に情報分子であるDNAは制限酵素、耐熱性重合酵素、連結酵素といった酵素によって正確に操作されています。逆にこれらDNAを操作する酵素を組み合わせた遺伝子工学が現在のバイオテクノロジーの根幹を支えています。一方で酵素を用いたDNA情報操作の際には至適酵素濃度、至適pH、至適温度といった様々な規約条件、制限を受けています。そこで酵素を用いた遺伝子操作と全く異なる手法論として光を用いた遺伝子操作法を提案し、既に光でDNA同士を繋げたり、DNAを切断する基本技術の開発に既に成功していました。今回、この「光DNA操作」を利用した光で駆動するDNAマシンを造り出すことに成功しました。DNAで実装したDNAマシンを用いることで2進数を正確に計算することができます。このことは情報を蓄積する役割を持つDNA自身が酵素や蛋白質の力を一切借りることなく光を用いて情報操作できることを意味しています。情報を持つ分子が自分自身で情報を操作できるこの光駆動型DNAマシンシステムはバイオ分子による知能の実装に向けた第一歩としてとらえることができると思います。

論文

Autonomous DNA Computing Machine based on Photochemical Gate Transition
Shinzi Ogasawara, Takehiro Ami and Kenzo Fujimoto*
J. Am. Chem. Soc. 2008, 130(31), 10050
DOI: 10.1021/ja802583z

Non-enzymatic Parallel DNA Logic Circuits>
Shinzi Ogasawara, Yoshiaki Kyoi and Kenzo Fujimoto
ChemBioChem 2007, 8(13), 1520
DOI: 10.1002/cbic.200700319