研究内容

  生命は長い進化の過程で非常に多様な機能を作り上げてきました。その一つに、筋収縮、心筋拍動、バクテリアの遊泳や細胞分裂など生命活動に必須な「動き」に関わる機能があります。これらは、モーター蛋白質と呼ばれる大きさ数ナノメートルの非常に小さな蛋白質が集積してマイクロメーター(バクテリア)からメーター(筋肉)サイズの運動装置を作り上げています。モーター蛋白質は水中に溶けた化学エネルギーを高効率で力学的な仕事に変換する分子機械で、従来の人工モーターにはない優れた特徴を持ちます。当研究室では、この生体由来のモーターと微細加工技術を融合させたバイオハイブリッド型のマイクロマシンの作成を目指しています。次に具体的な研究成果について説明します。


キネシン・微小管を利用した輸送素子の開発

図1.キネシン・微小管のマイクロトラック[動画]

 キネシンはモーター蛋白質の一種で、神経軸索内の微小管をレールとして物質輸送を司ります。キネシンをガラス平面に固定し、微小管とATPを添加すると、微小管はガラス面上をランダムな方向に動きます。これに半導体作成の基本技術であるフォトリソグラフィーを導入し、ガラス基板上に溝状の微細なパターンを描き、キネシン分子をマイクロトラックに集積させることで微小管の動きをマイクロパターン内に閉じこめることに成功しました。さらに「矢じり型」パターンを使うことで運動方向を整流した一方向回転運動や微小領域間の物質輸送が可能であることを示しました。この成果によりキネシン・微小管の微小輸送としての可能性が大きく広がり、現在この技術を応用した微小輸送装置の開発が広まっています。


バクテリアを動力源とした微小回転モーターの開発

図2.バクテリアで駆動される微小回転モーター[動画]

 滑走バクテリアとよばれる固体表面に付着して移動するバクテリアが存在します。このような運動能を持つ微生物もマイクロマシンの動力源の候補として考えています。シリコン、シリコン酸化膜の微細加工技術を応用し、大きさ数十マイクロメーターの微細な構造を作成しました。生化学的な処理を駆使し、このバクテリアを微細構造に連結し、微小回転モーターの作成に成功しています。このモーターは毎分2~3回安定に回転し、エネルギー源として溶液中のグルコースを利用する、世界で初の微生物で動く人工モーターです。バクテリアのような生きた細胞を使うことで、自己修復や自己複製などの従来の人工のシステムにはない機能を付加できると期待しています。

タンパク質で作る光学素子(ディスプレイ) ー保護色機能の再構築ー 

図3.タンパク質により描画された絵

 我々は生命現象の一つの「保護色」機能に注目しています。ある種の生き物は外敵から身を守るために体色を変化させる機能を有しています。この機能を司る細胞はメラノフォア(色素細胞)とよばれており、モータータンパク質という「動く」タンパク質が色の変化を作り出しています。 色素細胞の内部にはモータータンパク質を含む様々なタンパク質が組織的に配置化され、色変化という見事な機能を作り出しています。我々は、このモータータンパク質などのナノメータの部品をガラス基板上に組み立て、人工的に保護色機能の分子システムを再構築することに成功しました。 http://www.jaist.ac.jp/news/press/2013/post-374.html

 

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