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電離真空計について

                         M2 村尾美紀

電離真空計にはいくつかの種類があり、大きく分けると、熱陰極電離真空計と冷陰極電離真空計がある。この中で熱陰極電離真空計は、広い範囲にわたってかなり圧力と出力電流との比例関係が成り立ち、絶対圧力との校正の問題を別にすれば、相対的にはかなり精密な圧力測定が行うことができる。

1.熱陰極電離真空計の測定原理

最も普通の熱陰極電離真空計は図1に示すように、真空管の三極管と同じような電極構造となっており、この型は三極管型熱陰極電離真空計と呼ばれる。

図1 三極管型電離真空計

f+,f-:フィラメント、G,G’:グリッド、C,C:フィラメント フィラメント:陰極、電子を放出する。グリッド  :陽極、フィラメントから放出された電子を集める。コレクター :陰極、電子と気体分子から生じた正イオンを集める。

中央に熱電子を放出するフィラメント、そのまわりをらせん状のグリッドが取り囲み、一番外側にコレクターがある。

フィラメントから出た電子は、陽極であるグリッドに入り電子電流となる。グリッドに入る際、電子と衝突した気体分子から正イオンが生じる。正イオンは陰極であるコレクターに集られイオン電流となる。と気体分子密度(圧力)に比例する為、を一定に保ちを測定すると真空容器の圧力を測定することができる。

次に、上のことを詳しく考える。以下では、真空容器の温度は特殊な場合を除いてほぼ一定とする。

フィラメントから毎秒個の電子が発生し、グリッド(陽極)に向かって放出されているとする。この電子が距離を飛行する間に、気体分子と衝突せずにグリッドまで到達する確率をとすると、ボルツマン分布を用いて

 (1)

:電極間距離 :気体の分子密度 :衝突断面積

と表せる。

したがって、電子の気体分子の電離に関与する確率は

 (2)

と表せる。

この衝突断面積は気体の種類および電子の運動エネルギーにより異なる値である。そこで、衝突断面積の平均値をとして陽イオンの数を考えると

 (3)

と表せる。

ここで、生成する陽イオンは全て1価とし、イオンコレクタで捕獲する陽イオンの割合をとすると、観測される陽イオン電流

 (4)

また、分子密度は圧力と絶対温度との間に

の関係があり、(4)式は

 (5)

:放出電子電流(陽極に流れ込む電流)

        :電離真空計の感度係数 

        :イオンがコレクターに入る確率(集イオン確率)

したがって、フィラメント電流を制御して、電子電流を一定に保つと(5)式よりイオン電流を測定すれば、真空容器の圧力が測定できる。

感度係数はゲージの形状、イオン化される気体の種類、電子のエネルギーに依存する定数であり、一度校正しておく必要がある。

感度係数が変わる要因の一つである種々のガスに対する感度係数は、通常は窒素ガスを標準として表わされる。

窒素ガス以外のガス(A)の感度係数を、窒素に対する感度係数をとすると

 (6)

ここで、を比感度係数(相対感度係数)という。

表1に主な気体の相対感度係数を示す。

表1 電離真空計の相対感度係数

2.電離真空計の測定限界

熱陰極電離真空計では、電子電流を一定に制御すれば、(5)式よりイオン電流の測定さえ可能であれば、いくらでも低い圧力、または高い圧力が測定できるはずである。

しかし、電離真空計には測定限界が存在する。

〇圧力測定の下限

図2 軟X線効果

通常、フィラメントから放出された電子は150eV程度のエネルギーでグリッドに衝突する。

この程度のエネルギーの電子がグリッドを叩くと、制動放射によって軟X線がグリッドから放出される。こうして放出されたX線がコレクターに当たると、そこで光電効果によって光電子がコレクターから放出される。コレクターから電子が放出されることと、正のイオンがコレクターに入ることとは、電流の向きとしては同じである。

すなわちイオン電流として測定にかかる電流は、コレクターに流れ込む真のイオン電流と、放出される光電子による残留電流との和であり、

 (7)

に比例し (5)式より(7)式は

 (8)

のときは残留電流はほとんど無視できるが、のときには残留電流によって感度が著しく低下してしまう。すなわち、測定圧力の下限は

 (9)

である。よって、軟X線効果による光電子が、圧力と無関係にコレクターから放出されて残留電流になり圧力測定の下限ができる。

〇圧力測定の上限

圧力が高くなると、電離によって生じたイオン電子の対がそれぞれの電極に流れ込むことによる電流が、電子電流に対して無視できなくなる。

電子電流として測定されるの中には、本来の電子電流の他に気体分子の電離によって生じた(グリット側で測った場合)または(フィラメント側で測った場合)が含まれている。(またはに比べエネルギーが低く、電離能力のないものと考える。)

図3電離真空計の各電極間の電流

以上のことから、

 (をグリッド側で測る場合)

 (をコレクター側で測る場合)

となり、とすると

 (をグリッド側で測る場合) (10)

 (をコレクター側で測る場合) (11)

が得られる。すなわち、高い圧力領域では、電離真空計の感度係数は、または の比率で低下する。はおよそ1程度の値であり、

すなわち

となるような圧力範囲では感度係数が減少してしまう。したがって、が圧力測定の上限である。

3.B-Aゲージ(Bayard-Alpert gauge)

(9)より、圧力測定の下限が存在する。測定下限をさらに下げるには、を下げるか、を上げるかの方法が考えられる。

B-Aゲージは三極管熱陰極電離真空計と比べての値を1/5001/1000に下げることによって、測定下限を下げたものである。

図4 B-Aゲージの構造

B-Aゲージの構造は三極管熱陰極電離真空計と異なって、フィラメントが一番外側にあり、コレクターは中央に取りつけられた細い1本の線である。グリットは形状、位置は変わらず、らせん状の細い線がコレクターを取り囲んでいる。細い線のコレクターを使用することによって、グリッドからの軟X線を受ける立体角を小さくし光電子の発生を低減している。

したがって、の値を下げ、圧力測定の下限を下げている。

さらに下限を下げた電離真空計には、モジュレーション型B-Aゲージ、エキストラクターゲージ、オービトロンゲージなどがある。

4.電離真空計の測定精度を妨げる要因

電離真空計の測定精度を妨げる要因には次のようなものが考えられる。

1)測定する気体の種類による誤差

電離真空計の感度係数は気体の種類によって異なる。これは、電子衝撃による電離の確率が違う為である。測定する気体の種類が解っている場合には、N2に対する感度係数(表1)を用いて窒素圧力換算圧力として求められる。しかし、比感度係数が1.0より大きく異なる気体成分の多い場合は測定誤差となる。((6)式)

2)熱フィラメントが影響するガス放出の誤差

熱陰極電離真空計には、電子源として熱フィラメントは必要である。しかし、フィラメントが高温であるために、電極及びケースに壁面からのガス放出し見かけの圧力が高く測定してしまう。これを避けるためには真空計の脱ガス処理を行う必要がある。

また、フィラメントが高温であると、気体分子との反応によって、もとの成分ガスとは異なった種類のガスが発生する原因となる。これは、圧力測定に影響を与える。

動作温度の低いフィラメント材料としては酸化トリウムを被覆したタングステンやホウ化ランタン(LaB6)などがある。これらは電子放出の仕事関数が小さく、より低温で電子を放出するので、通常陰極として用いられるタングステンと比べて数百度低い温度で使用できる。フィラメントの温度を下げることはいろいろな化学反応を著しく減少させる。

3)グリッドでの表面電離イオンによる測定誤差

電離真空計はフィラメントを発した電子が気体分子をイオン化し、このイオン電流を圧力として測定するものである。しかし、電子がグリッドに入射される際、グリッド表面に吸着していた気体分子も同時にイオン化されてイオン電流が発生する。このグリッドからイオン電流は、本来のイオン電流と区別することが困難であり、真空容器の圧力に関係しない残留電流の一部となる。これが、測定誤差になる。特に高真空から超高真空では真空計自身からのガス放出の割合が大きくなる。

また、グリッド表面の汚染が激しいほどグリッドからのイオン電流は大きくなり、電子電流が低いぼど誤差が大きくなる。したがって、この場合も脱ガス処理を行う必要があり、真空計の脱ガス処理には電子衝撃や通電過熱の方法がある。特に電子衝撃法は、単に温度を上げることによる脱ガスの他に、高いエネルギーの電子で吸着分子を叩き出す効果もある。

4)真空計の取り付け場所による誤差

真空容器内の圧力は一様でなく場所により異なる。特に測定する系内が高真空領域以上になれば真空容器表面のガス放出が支配的となり、場所によるガス放出速度の差によって圧力の不均一を生じる。また、気体の流れのある場合は真空計の導管の方向が流れと平行か垂直かで測定圧力が大きく変わる。

図5(a)のように導管の方向と気体の流れと垂直になるような取りつけ位置が望ましい。

図5 真空計の取りつけ位置

  1. が正しい。(b)(c)は実際の圧力とは異なることがある。

5)真空計の持つ排気速度による誤差

真空計自身は微小であるが排気速度を持っている(0.11[ls]程度)。これにより、真空計から出たガスを追い出すことができる。しかし、電極部がガラス管球内に収納されている型の真空計(ノルマルゲージ)では導管部分のコンダクタスが充分でない為、ガラス管球内のガスも測定していまう。特に、超高真空領域では実際の圧力よりも大きく測定してしまうことがある。これを避けるためには、電極部をそのままフランジに取りつけて真空容器内に組み込む型の真空計(ヌードゲージ)を用いるとよい。電極部が真空容器内にある為、真空計から出たガスの排気は充分である。

5.電離真空計の使用上の注意

  1. 圧力が高いときに測定を行う場合
  2. 圧力が高い場合には他に、1個の電子が続けざまに2回以上気体分子を電離する頻度も多くなり、感度係数はさらに複雑な変化をすることが、実験的に確かめられている。

    したがって、測定限界ぎりぎりの高い圧力の場合には、注意が必要である。

    また、熱陰極を用いているために高い圧力の領域で動作させると、フィラメントが焼損する恐れがある。この対策として、真空計の制御電源に、圧力が一定値を超えると自動的にフィラメント回路を切る保護回路が付いている。しかし、これを過信しない方がよく、必ず他の手段でおおよその圧力を確かめておく必要がある。

  3. 脱ガスを行う場合

真空計の脱ガスは、グリッドの通電加熱か電子衝撃の方法によって、グリッド及びコレクターを加熱することにより行う。これをやり過ぎると電極の温度が上がり過ぎ、電極が破損する恐れがある。したがって、電子衝撃はゲージ内圧力と電極温度に注意しながら慎重に衝撃電力を調整する必要がある。