在学生・修了生の声(上町 裕史さん)

独自の研究を認めて育ててくれた恩師に感謝

既存のリチウムイオン電池を超える新素材を開発

松下電器産業の中央研究所時代、私はリチウムイオン電池を超える次世代電池を開発するプロジェクトに携わっていました。研究を進めるうち、私は正極の素材を改良することで、より高性能な電池が作れるのではないか、と考えるようになりました。

既存の要素技術を組み合わせて従来の素材を改良しようという、研究所の方針に飽き足らず、私は分子設計によってまったく新しい素材を作り出す道を選びました。そこで会社を辞め、高度な研究設備を有するJAIST材料科学研究科(現・マテリアルサイエンス研究科)に博士入学することを決意したのです。そのとき明確な展望があったわけではありません。ただ、硫黄をポリマー(有機分子が繰返し連なった構造体)にすることで、より軽量で蓄電能力が高い正極材が作り出せるのではないかという見通しがあるだけでした。

三十半ばでの社会人からの博士入学は異例でしたが、私の研究のビジョンに大きな関心を示してくださった三谷忠興教授(現・JSTイノベーションプラザ石川館長)の紹介により、岩佐義宏教授(現・東北大学教授)の研究室で指導を受けることになりました。

JAIST発のベンチャーの期待を担う

岩佐研究室で物理特性からのアプローチをもとに研究を深め、蓄電能力を既存のリチウム電池正極材料の二~五倍に高めるなど実用化への手応えを実感した私は、博士号を取得した後、2007年に株式会社ポリチオンを立ち上げました。起業後もJAISTとの関わりは続き、藤原明比古准教授との共同研究や先端科学技術調査センターからのサポートを受けております。

船出して間もなく、大きな勇気を与えてくれたのは、この研究がNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「新エネルギーベンチャー技術革新事業」に採択されたことでした。さらに2009年、( 財) 石川県産業創出支援機構(ISICO)が主催する「革新的ビジネスプランコンテスト」で優秀賞をいただいたことで、今後の事業展開への大きな自信となりました。

私の研究はJAISTでの博士研究が基本になっているだけでなく、起業やその後のビジネス展開においても、JAISTからの全面的なバックアップをいただいています。

JAISTでの三谷、岩佐両先生との出会いがなければ、今日の私はありえなかったでしょう。また、起業後の藤原先生、先端科学技術研究調査センタースタッフの支援にも感謝しております。これからもJAIST発のベンチャーとして、期待に応えていきたいと考えています。

(掲載内容および所属・役職はインタビュー当時のものです)

Photo: 上町 裕史さん
上町 裕史さん
材料科学研究科
博士後期課程 2006年修了

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