ヘリウム液化室

Helium Liquefaction Room


ヘリウムガスの液化


<図1>

 臨界点より低い温度にある気体は、冷却によって必ず液化する。気体をそれ自身で冷却する方法としてJoule-Thomson効果が古くより知られている。すなわち、図1に示すように”詰めもの”あるいは抑止弁を通して気体を自由膨張させると、気体は分子間引力にさからって膨張するためその運動エネルギーは減少し、従って気体の温度が下がる。理想気体では勿論、この効果はない。理想気体からのずれを示す分子間力と分子の大きさの2つの因子のうち、前者は自由膨張によって降温効果、後者は昇温効果をもっている。2つの効果が均衡する温度はその実在気体の反転温度(Inversion temperature)と呼ばれ、例えばN2ガスで621K、H2ガスで195K、Heガスで23.6Kである。従ってJoule-Thomson効果によって気体を冷却するためには、先ずその気体の反転温度より低くしておく必要がある。

 自由膨張の過程では気体は外部に仕事をしない。いま、気体をシリンダーに閉じ込めたと考えると、その壁に衝突してはね返る分子の速度に変化はなく、従って気体の状態も変わらない。もし、そのシリンダーにピストンをとりつけ、ピストンで気体の体積を増やす過程を考えるとピストンに衝突してはね返った分子の速度は減少する。運動エネルギーの減少はとりも直さず温度の低下につながる。すなわち、力学的仕事を通して熱エネルギーをとり除き、温度を下げるのが膨張エンジン方式である。Kapitzaが膨張エンジンの代りにタービンを使ってヘリウムの液化に成功した話は有名である。
<図2>

 通常は膨張エンジンとJoule-Thomson効果を併用してヘリウム気体を液化する方式が用いられる。例えば本学・ヘリウム液化装置室に設置されているPSI社製ヘリウム液化機(図2参照)では2つの膨張エンジンと多段交換器を用いてヘリウムガスを7Kに冷却し、最後にJoule-Thomson効果によって液化が行われる。液化速度はガスの流量によって決まり、圧縮機1台では毎時約47litersの液体ヘリウムが得られる。膨張エンジンはピストンとシリンダーの間隙が10μm程度で潤滑剤なしで作動する(気体自身が潤滑剤)。Heガス中の微量の不純物がこの間隙で凝固して動かなくなるトラブルが発生することがあるので、気体の精製には特に注意が払われている。

 ※PSI社(米国)は、ヘリウム液化機のメーカーとして、米国を中心に全世界に販売しており、その製造の歴史は古く、日本では昭和30年代より導入されており、70台以上の国内実績がある。大学、研究所のような運転/停止が繰り返される条件下で10年以上の運転実績は使用者に高く評価されている。

 ※液体ヘリウムの利用に於て他の液化ガスと根本的に異なることはヘリウムが非常に高価な貴重なガスであるため、液化し寒剤として用いられた後蒸発したガスを何度も回収しくり返し用いるという点である。回収ガスを高純度に保ち回収率をあげるためには利用者の協力がなければならない。