(後編)中小企業のIoT導入の道を開き、IoEで農業や地域の課題解消に挑む


前回に続き内平教授のIoTの研究を紹介する今回。内平教授は現在のIoTシステムに欠けているところを指摘し、その解消に向けたAIを使ったシステムの研究を続けています。AIによってIoTが威力を発揮する分野はさらに広がるとする、その様子を見ていきます。

 

人間の感覚が素晴らしいセンサーとして機能
「音声つぶやきシステム」でIoTからIoEへ

現在、IoTの情報収集というと物理センサーに注目が集まりますが、「物理センサーだけで全てのデータを取るのは難しいのではないでしょうか」と、内平教授はデータ収集における物理センサーの限界を指摘します。そのうえで「人間は五感を持ち、どんなセンサーより感じ取る力があります。ですから人間を素晴らしいセンサーとすることで、物理センサーと合わせて初めて意味のあるIoT になると思います」と話し、IoTの今後の可能性を強調します。

音声つぶやきシステム

内平教授は人間をセンサーとする取り組みとして「音声つぶやきシステム」を開発しました。これは医療・介護の現場で、患者や入居者の表情の変化や発言等、スタッフの気づきを記録し応用するシステムとして手掛けたものです。介護施設で試行評価を行うと、スタッフの連携、ケア記録ほかの品質が向上し効果が確認されました。
「音声つぶやきシステムは人間の活用を主眼に置いています。その背景には、IoTを機械だけの閉じたシステムではなく、人間が関わることでより使いやすくできる、との考えがありました」と、内平教授はその開発の経緯を打ち明けます。

前編で内平教授は、現在のIoTの開発に求められているものとして、現実のビジネスと様々なデータを読み解くAIシステムをトータルに設計すること、と指摘していました。
「音声つぶやきシステム」はまさに、仕事の現場でのつぶやきや表情等の非定型データをAIが処理し、その結果を現場にフィードバックするもので、今のIoTの開発ニーズを満たすものと言えます。
これは人間センサーによる気づきの情報と従前の物理センサーからの情報の融合であり、IoTの高度化というよりIoE(Internet of Everything モノと人のインターネット)を意味し、その本格的な到来はIoTの未来を大きく広げるものだと内平教授は指摘します。

 

農業分野で進められているIoEの実地研究
農業問題の解消に向けて期待がかかる

二つのセンサーを融合した内平教授のIoEの研究は、農業の分野で進められています。
現在、農業では従事者の高齢化や就農者の減少といった問題を抱え、その対策として、省力化と高品質化を目指したIoTの導入が進行しています。そこでは、様々な物理センサーを使って温度や湿度、土壌の状態等の環境データを収集し活用されています。
一方で、農作物の生育状況や病害虫による被害等は人間が目視で行っているのが現状で、ここでは物理センサーではなく人間が持つ五感がものを言います。
今回の内平教授の研究では、物理センサーが収集する気温、湿度、土壌等の状況と人が音声でつぶやく実際の農作物の状況を合わせてクラウド上のAIが分析、判断することで、様々な気づきをフィードバックする、新しい時代のIoT、IoEによる農業ナレッジマネジメントシステムの実現に向けた取り組みが行われています。

農業ナレッジマネジメントシステム

 

経験者の潜在的な知識がIoT、AIによって顕在化
IoEによる知識の継承は様々な業界で応用が可能

農業分野に限らず、いろいろな業界で少子高齢化等の進行による影響が出てきています。
例えば製造業では、高度な技術を持つ熟練作業者が引退する事態は珍しくありませんが、そのようなケースでも、熟練者が発するつぶやき等のデータと物理センサーによるデータを融合させることで、知識や技の継承がなされることが期待されます。
内平教授は「人間センサーと物理センサーの融合の取り組みは世界的にもユニークな研究ですが、これこそ将来のIoTの本流になると思います」とIoTのこれからを見据え、さらに「世界がこの二つのセンサーを合わせたIoT、IoEを取り入れる時代が必ずくると思うので、この分野で先頭に立ちたいですね」と意欲を見せます。

これからのIoT

一方で、「IoTニーズの高まりを肌で感じていますが、ビジネスの現場では、自社の製品やサービスにどのように活かせばいいのか分からないという、期待と現実の間にギャップがあるように思えます」と、IoTの導入に向けたハードルの存在を認める内平教授は、「そのギャップを埋めるのが僕らの仕事なんですけどね」と、IoTの活用促進に向けた自らの使命を口にします。
そして、「今後、農業での活用は有望なので、人間センサーと物理センサーの融合に関心がある方と、ぜひお話ししてみたいですね」と、企業等との共同研究について積極的な姿勢を示す内平教授でした。

内平研究室メンバー

 

<シーズレポート> 中小企業のIoT導入の道を開き、IoEで農業や地域の課題解消に挑む(前編)はこちら。

 

本件に関するお問い合わせは以下まで

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:ricenter@www-cms176.jaist.ac.jp

■■■今回の研究に関わった本学教員■■■

知識マネジメント領域
内平直志教授
https://www.jaist.ac.jp/areas/km/laboratory/uchihira.html