(後編)学生のアイデアをビジネスへ。2019年「M-BIP」最優秀賞受賞アイデアのフォローレポート


今秋開催する「Matching HUB Kanazawa 2020」で行われる学生のビジネスアイデアコンペティション「Matching HUB Business Idea & Plan Competition(以降、「M-BIP」)」。前回は、昨年の模様と各賞を受賞したアイデアを紹介しました。
今回は、最優秀賞を受賞した徳島大学の学生によるアイデアが、その後、産学官連携本部(以降、産連本部)によってどのようにフォローされているかを見ていきます。今年の「「M-BIP」」応募の参考にしてください。

 

運動不足により短命化が進む動物園の動物
動物の健康回復を目指したエサやり機を発案

11月5日(木)、6日(金)、JR金沢駅前のANAクラウンプラザホテル金沢において、北陸地域の活性化と人材育成を目的とした産学官金連携イベントMatching HUB Kanazawa 2020が開催されます。「M-BIP」は同マッチングイベントのプログラムの一つで、全国から集まった学生の熱のこもったプレゼンテーションが繰り広げられます。

昨年の「M-BIP」で最優秀賞といくつかの企業賞を獲得したのは、徳島大学 総合科学部2年前田晏里さん、藤川達矢さん、理工学部2年毛笠龍之介さんによる「サルのストレスを解消し、来園者を笑顔にする給餌装置『kuru・kuru』」でした。
同アイデアを思いついたきっかけは、徳島大学内のイノベーションプログラムで出された課題、「ベアリングを活用した製品の開発」を考えていた時に訪れた動物園で目にした光景でした。
動物園の動物はあまり動き回ることがなく、見応えがないと感じた前田さんが調べてみると、動物の運動不足が原因で、それが動物の短命化にもつながっていることが分かりました。
そこで前田さんと毛笠さんは、動物の運動不足の解消を目指した、エサやり機と遊具を合わせた給餌装置を考えつき、まずはサルの給餌装置の開発を目指すことにします。

あまり動き回らない動物たちを不思議に思い…

ここで避けて通れないのが、「M-BIP」に限らず、アイデアコンペティションは独自性が条件となること。開発メンバーは、2018年10月にプロトタイプ機を製作するとともに類似の製品がないかを調査し、一方でユーザー評価のヒアリングを進めました。その後、2019年4月に試作品を完成させ、アイデアの独自性を確認して5月に特許の出願を完了し、秋の「M-BIP」に挑みます。

昨年の「M-BIP」でプレゼンテーションに臨む前田さん
試作品が完成しテストが繰り返される
試作品のテストを進める一方で取り組んだ数々の調査

 

ビジネス化に向けた受賞者の要望をヒアリング
産連本部は即座に要望の協力先を選定し行動

「Matching HUB Kanazawa 2019」の2日目、11月12日(火)の夕方に「M-BIP」の最優秀賞ほかの受賞アイデアが発表されて約ひと月。徳島大学側の要望を聞いた産連本部はすぐにスキームを整え、昨年のうちに行動に移します。徳島大学側の要望は、同アイデア実現のための出資企業と、精度向上のための実地テストを行える施設の紹介でした。
この求めに対して産連本部が協力を打診したのは株式会社ビーイングホールディングス(以降、ビーイング社)といしかわ動物園で、ビーイング社には早速年末に足を運んで話し合いを始めています。
年が明けると、産連本部はいしかわ動物園ほかの関係先と連絡を取り合い、3月5日(木)に金沢で開かれる「第4回 Matching HUB 全国展開推進会議」で、ビーイング社の喜多甚一代表と徳島大学の前田さんの面談をセッティングしました。

「M-BIP」受賞後、香川県のしろとり動物園で運用が始まる
 

新型コロナウイルスの影響で面談はリモートに
活動が制約されるなかで懸命なやりとりが続く

日本人初の新型コロナウイルスの感染が1月28日(火)に発表され、直後にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号での集団感染が明らかになると、一気に新型コロナウイルスへの不安が国内に拡がりました。当然、その影響は産連本部の取り組みにも及びます。徳島大学の前田さんや毛笠さん、教員のみなさんは3月の直接の面談の機会をとても貴重なものと考えており、予定通りの開催を希望していました。しかし、徳島大学が全ての出張を自粛する判断を下し、やむを得ず「web会議システム(Zoom)」での面談となります。

全国の「Matching HUB」関係者と「M-BIP」受賞学生が金沢で一堂に会する「Matching HUB 全国展開推進会議」の第4回目が、3月5日(木)にホテル日航金沢で開かれました。今回は、新型コロナウイルスの影響があり、NEC社の協力の下、全国各地をZoomで結ぶ形で行われましたが、特に支障をきたすことなく、無事に終えることとなります。

同会議が始まる5時間前、ビーイング社の喜多代表には本学の金沢駅前オフィスにお越しいただき、徳島にいる前田さん、毛笠さんほかメンバーと2時間に渡りZoomでの面談が行われました。面談では、喜多代表から鋭い指摘がいくつも出され、彼らがその一つひとつを熱心に聞き入り、メモをとっていたのが印象的でした。

全国展開推進会議に徳島からリモートで参加した前田さん

 

飛躍的なブレークスルーを果たした『kuru・kuru』
次の段階に向け、前田さん達の意気込みはさらに熱く

3月の喜多代表とのZoom面談以降、産連本部と前田さん、毛笠さんほか徳島大学関係者はZoomを使って進捗の確認と、サポートを続けました。
この間に、受賞アイデアの「kuru・kuru」は大きなブレークスルーを見せます。当初のアイデア名「サルのストレスを解消し、来園者を笑顔にする給餌装置『kuru・kuru』」は、「サルとヒトが共に楽しめる『kuru・kuru』」と端的かつ分かりやすいものに改められ、装置自体にも磨きがかけられます。
一方で、既に「株式会社KAI」と法人化されていたものの、遅れていた事業化、事業継続の絶対条件となる収益化の対応もしっかりと考えられます。この大きな発展を目にした喜多代表は、とても感心されたご様子でした。

サルにフォーカスし、リファインされた給餌装置

だからといってこのままでビジネスにつながるわけではありません。ビーイング社で出資を担当する部署からは、出資を検討するうえで必要となる、収支計画等の様々な数字に関する指摘、質問が寄せられます。ビーイング社からの指摘を受け、株式会社KAI社内では情報が共有され、双方の真摯なやりとりが続けられています。

「事態が落ち着き次第、金沢に足を運びたいと思っています。その際には、より成長した姿でお会いできることを目指し、これからも精進します」、と最近のメールを結んだ前田さん。徳島大学発のベンチャー企業でも、初めて現役学生である毛笠さんが社長となり陣頭を指揮する「株式会社KAI」のこれからも目を離せません。

 

今秋の「M-BIP」にも、学生らしい斬新なアイデアが数多く寄せられることを期待しています。
募集要項は近日中にアップしますので、ぜひチェックしてください。

 

昨年の「M-BIP」の様子と受賞したアイデアを紹介した前編はこちらから

 

=本件に関するお問い合わせは以下まで=

北陸先端科学技術大学院大学 産学官連携本部
産学官連携推進センター  Matching HUB 事務局
Tel:0761-51-1070
Fax: 0761-51-1427
E-mail:jaist-net@www-cms176.jaist.ac.jp