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世界最高強度の透明樹脂の開発に成功

世界最高強度の透明樹脂の開発に成功
-新しい概念のバイオプラスチック開発、ガラス代替による軽量化社会構築を-

ポイント
  • 低炭素社会の構築に必須のガラス代替軽量プラスチックには力学強度に問題点があった。
  • 天然には微量にしか存在しないアミノ桂皮酸(シナモン系分子)の微生物生産の手法を遺伝子組換え法により改良し効率を大幅アップ。
  • アミノ桂皮酸の2種類の光二量体から世界初のバイオ由来芳香族ポリアミドを合成。
  • 得られた世界最高強度の透明樹脂は、透明性、力学強度に優れ、フレキシブルディスプレイや自動車部品などのガラス代替材料として期待される。

 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST、学長・浅野 哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科/環境・エネルギー領域立山誠治特任講師、金子達雄教授らは、筑波大学/生命環境系 高谷直樹教授とともに、遺伝子組換え微生物を用いて生産されるシナモン類を原料としたバイオプラスチックの合成に成功し、これを用いた世界最高強度の透明樹脂を開発しました。
 バイオプラスチックは、植物などの生物に由来する再生可能な有機性資源(バイオマス)を原材料とするプラスチックで、二酸化炭素(CO)削減と廃棄物処理に有効であるとされていますが、そのほとんどは柔軟で壊れやすいポリエステルであり力学強度に問題があります。このため用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されているのが現状です。
 今回研究チームは、バイオプラスチックの材料として、堅い構造の天然物で香辛料の成分でもあるシナモン系分子に着目し、この1種であるアミノ桂皮酸をバイオマス原料を用いて大量生産する組換え微生物を新たに開発し、その生産効率を実用に近いレベルにまで改良しました。さらに、この光反応と高分子量化により、バイオプラスチックとしては世界で初めての芳香族ポリアミドを作成しました。作成におけるいずれの工程の変換効率も95%を超え、微生物資源のロスがほとんど無いことも特筆出来ます。得られた高分子の構造はトルキシル酸という珍しい骨格のものであり(下図)、硬さと適度な変形性を併せ持つ「分子バネ」のようなはたらきを示し、優れた力学物性を得ることができます。
 一般に透明樹脂の力学強度を高めることは困難とされており、添加物の使用無しにはガラスの力学強度を超えるのは困難です。一方、今回開発したバイオプラスチックは透明度が極めて高く、汎用型の透明樹脂であるポリカーボネートと同等の透明度(87%:波長400nm)を示すだけでなく、407MPaというポリカーボネートの 6倍に相当する高い力学強度を示します。これはガラスの力学強度(100-150MPa)を遙かに超えるものであり、ガラス代替材料としての応用が期待できます。さらに、耐熱温度も250℃程度もあり、工業用プラスチックとして幅広い用途が期待できます。特に、自動車などの輸送機器の軽量化や新たなフレキシブルパネル材料などへの応用が期待され、大気中の二酸化炭素の削減に貢献できると考えられます。本成果は、米国化学会発行の「Macromolecules」誌に4/22(米国時間)オンライン版で公開されます。

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本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。
 事業名:戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)
 開発課題名:「微生物バイオマスを用いたスーパーエンジニアリングプラスチックの創出」
 研究開発代表者:金子 達雄(北陸先端科学技術大学院大学 教授)
 研究開発期間:平成22~31年度(予定)
 JSTは本事業において、温室効果ガスの排出削減を中長期にわたって継続的かつ着実に進めていくために、ブレークスルーの実現や既存の概念を大転換するような『ゲームチェンジング・テクノロジー』の創出を目指し、新たな科学的・技術的知見に基づいて温室効果ガス削減に大きな可能性を有する技術を創出するための研究開発を実施しています。

<開発の背景と経緯>

 植物などの生体に含まれる分子を用いて得られるバイオプラスチック注1)の中には、材料中にCOを長期間固定できるため、持続的低炭素社会の構築に有効であるとされています。しかし、バイオプラスチックのほとんどは柔軟なポリエステルで耐熱性や力学物性が劣るため、その用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されているのが現状です。例えば、ポリ乳酸は代表的なバイオポリエステルですが、その主骨格は一般的な工業用プラスチックに用いられる高分子に比べて柔軟であり、その力学強度は60 MPa程度です(参考・各種プラスチックの力学強度:ポリカーボネート:62 MPa、PMMA: 60 MPa、ナイロン11:67 MPa、フッ素化透明ポリイミド129 MPa)。この克服のために強化剤の添加や結晶化処理などをした材料が使われてきました。しかし、これらの処理は透明性を低下させることが問題となっています。
 研究チームはこれまで、剛直な構造の桂皮酸(シナモン系分子)から得られるバイオポリエステルにガラス繊維を混ぜ込むことで、145MPaの力学強度を持つバイオプラスチックを作成してきました。しかし、透明性は全く無く添加物を必要とするために工程は複雑という欠点がありました。
 自動車は2万点以上もの部品から構成されていますが、中でも樹脂に代表される高分子系材料は、金属に比べ軽くリサイクル可能であることから、自動車の軽量化、温室効果ガス抑制につながるため、金属部品の代替材料として注目されています。特にハイブリッド型自動車や電気自動車では、エンジンからモーターへの転用により部品への要求耐熱条件が下がり、金属および無機材料はあまり使われなくなりつつあります。そこで、芳香族ポリアミドなどの高性能なスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)注2)を微生物から開発し金属部品を代替すれば、生産時のCO固定化と自動車の軽量化に伴う大規模なCO排出削減が可能です。
 今回のプロジェクトでは、天然には存在しないシナモン類であるアミノ桂皮酸を大腸菌を用いてバイオマス原料から生産する手法を開発しました。これは、石油化学的にも生産できますが工程数が多く極めて高い価格(約10万円/kg)となります。一方、遺伝子工学的手法で作成すれば食品添加物並(約2~4千円/kg)となると予想できます。さらにこの物質に光を照射し、化学重合することで力学強度が最高で407MPaにもおよぶ透明芳香族ポリアミドを得ました。この値はガラスの力学強度(100-150MPa)を遙かに超えるものであり、ガラス代替材料としての応用が期待できます。同時に、エンジン周りの耐用温度である250℃を超える軟化温度を示し、高耐熱プラスチックとしての利用価値もあります。さらに剛性の指標であるヤング率は12GPaに達することも分かりました。かつ、高屈折率(1.65)、紫外線分解性などの特殊な機能も持ちます。

<作成方法>

 遺伝子工学注3)的技術を用いて、様々な種類の4-アミノ桂皮酸の合成酵素(papABCとPAL)の組合せを検討することによって、ブドウ糖を原料として天然には存在しない4-アミノ桂皮酸を効率的に生産できる組み換え大腸菌を開発しました。また、4-アミノ桂皮酸を塩酸塩化し高圧水銀灯で照射する方法だけでなく、N-アセチル化して光二量化注4)させる手法も開発し芳香族ポリアミドの2種類のトルキシル酸誘導体原料を、両方ともバイオマスから合成しました。これらをモノマー材料として用い、世界初のバイオ由来芳香族ポリアミドを得ました。さらに、これらをキャスト法注5)によりフィルム化して透明膜を得ました。

<今回の成果>

今回の成果は大きく分けて以下の3つに分けることができます。

1)天然には存在しない4-アミノ桂皮酸を改良型遺伝子組換え大腸菌から大量生産する方法を確立
 4-アミノ桂皮酸は天然には存在しないアミノ酸であるため、この生産経路を人為的にデザインしました。まず、抗生物質の構成要素として特殊な菌(放線菌)が産生することが知られている4-アミノフェニルアラニンをバイオマスであるブドウ糖を原料として生産する組み換え大腸菌を作製しました(図1)。この際、複数の放線菌のpapABC遺伝子の組合せや芳香族化合物の生産に関わるシキミ酸経路を最適化することにより、生産効率を改善しました。こうして発酵生産できた4-アミノフェニルアラニンを、植物や赤色酵母のフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)を生産する組み換え大腸菌を用いて、さらに4-アミノ桂皮酸へと変換する生物変換を行いました。これにより、芳香族アミンである4-アミノフェニルアラニン(4APhe)と4-アミノ桂皮酸(4ACA)をバイオマス原料から生産することが可能となりました(図2)。

2)微生物からは得ることの極めて困難な芳香族ポリアミドを合成
 芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を両方とも同じ原料から得ることは困難です。しかし、今回一般に微生物に対する毒性が高いために合成困難とされる上記の2種の芳香族モノマーを両方とも4-アミノ経皮酸の光二量化法により合成しました。この桂皮酸の光二量化という方法は極めて効率の高い反応で、ほぼ100%の変換効率で芳香族ジアミンである4,4'-ジアミノトルキシル酸と芳香族ジカルボン酸である4,4'-ジアセトアミドトルキシル酸を得ました。芳香族ジアミンのエステル化後に一般のポリアミド合成条件下で芳香族ポリアミドを得ました。(合成ルート:図3)。

3)史上最も高耐熱のバイオプラスチックを分子設計
 得られた芳香族ポリアミドをDMFなどの極性溶媒に溶解させ、得られた高粘度溶液をシリコン基板などの平坦な基板の上に載せて乾燥するキャスト法によりフィルムを得ました(図4)。このフィルムの物性を以下に列挙します。

・引っ張り強度:356MPa
・ヤング率:11GPa
・破断伸び7%
・光透過率:93%(光の波長450nm)
・10%重量減少温度:370℃
・ガラス転移温度:273℃

 つまり、この力学強度はガラス代替として最も注目されている透明樹脂であるポリカーボネートの力学強度(62MPa)の約6倍もあり、化学実験で用いるパイレックスガラスの力学強度(約120MPa)を超える値です。最近透明樹脂としてクローズアップされたナノセルロース膜の223MPaをも凌駕する値であり、この数値は透明樹脂の中で最も高い値と言えます(表1)。さらに耐熱温度も273℃であり、前回の我々の発表による耐熱温度よりも低めではありますが、充分に工業用途として利用出来るレベルにあります。
 他方、そのほかのバイオ由来カルボン酸であるフランジカルボン酸や脂肪族カルボン酸を当該芳香族ジアミンと反応させて構造を変えて調べて見たところ、フランジカルボン酸においては力学強度が163MPまで下がってしまい、脂肪族カルボン酸に関しては測定不可能なほど脆いサンプルとなってしまいました。つまり、上記の両方のモノマー構造が重要ということになります。これらの2つのモノマーに加え第三のモノマーとして脂肪族カルボン酸を加えて半芳香族ポリアミドを合成したところ、以下に示すように極めて高い値となりました。

・引っ張り強度:223-407MPa
・ヤング率:8-12GPa
・破断伸び7-37%
・光透過率:83-90%(光の波長450nm)
・10%重量減少温度:356-359℃
・ガラス転移温度:243-252℃

特にアジピン酸を導入した場合には透明度87%で力学強度407MPaを確保した優れた透明材料となりました(表1:)。
 さらに、これらの芳香族ポリアミドは溶液中で特殊な紫外線を照射することで、原料にまで戻すことが出来るなど、化学リサイクルの可能な環境に優しい材料であることもわかりました。

<今後の展開>

 今回の成果により、微生物由来分子である4-アミノ桂皮酸の光二量体が高強度透明樹脂の原料として有効であることが証明されました。今後、この芳香族ジアミンとほかの種々のカルボン酸誘導体を反応させることで芳香族ポリアミドだけでなく他のさまざまな高強度バイオプラスチックを合成します。その一部をデモンストレーションで公開します。また、今回の微生物由来芳香族ポリアミドは高屈折率でありレンズやセンサーなどのガラス代替材料としても有効利用できると考えられます。そして、自動車、航空機、船舶の部品などの様々な輸送機器のガラス代替する物質として設計する予定です。これによる軽量化はCO排出量削減、産業廃棄物削減などの展開が期待できます。

<参考図>

図1 4-アミノフェニルアラニンの構造を天然物(抗生物質)の化学構造(左)と組み換え大腸菌を用いた4-アミノ桂皮酸の合成ルート(ブドウ糖(グルコース)から4-アミノ桂皮酸を合成する経路)。


図2 A.ブドウ糖(glucose)を原料とした4-アミノフェニルアラニン(4APhe)の発酵生産.B.4APheの4-アミノ桂皮酸(4ACA)への変換反応.C.回収・精製したバイオマス由来4-アミノ桂皮酸


図3 4-アミノ桂皮酸からの4、4'-ジアミノトルキシル酸ジメチル(4番「バイオ由来芳香族ジアミン」:左ルート)および4、4'-ジアセトアミドトルキシル酸(6番「バイオ由来芳香族ジカルボン酸」:右ルート)の光反応による合成、および重縮合による芳香族ポリアミド(7番)の合成ルート。


図4 芳香族ポリアミドの合成直後の写真(左)、キャスト後に得られた透明フィルムの写真(中央)、繊維化後の写真(右)

表1 今回作成した透明樹脂と一般的な透明樹脂の物性


透明樹脂 重量
平均分子量
(x 10-4)
10%
重量減少
温度 (oC)
ガラス
転移温度
(oC)
ヤング率(GPa) 力学強度(MPa) 破断伸度
(%)
透明度
(吸収端波長)
(%)

7 2.1 370 273 11.4 ± 1.6 356 ± 33 7.2 ± 3.7 93
(336 nm)
8 5.4 355 198 8.0 ± 0.3 163 ± 71 13.6 ± 6.8 81
(391 nm)
9 5.1-9.1 365-370 151-159 ND ND ND ND
10-C6 6.5 359 243 12.1 ± 4.1 407 ± 188 36.9 ± 19.1 87
(373 nm)
10-C7 6.2 358 250 10.7 ± 1.0 284± 42 17.3 ± 7.6 83
(370 nm)
10-C8 2.9 356 252 8.7 ± 1.0 223 ± 36 7.7 ± 2.7 90
(350 nm)

ナイロン11 6.5 - 29 1.3 67 - -
フッ素化ポリイミド 1 - - 292 3.3 114 - 87
フッ素化ポリイミド 2 - - 309 2.4 129 - 17
フッ素化ポリイミド 3 - - 327 2.9 122 - 87
ポリカーボネート 3.1 - 150 1.9 62 200 89
PMMA 9.3 - 121 2.3 60 3.1 90
ZEONEX® - - 140 2.4 63 - 91
ナノセルロース - - - 13 223 90
(ca. 310 nm)
<用語説明>

注1)バイオプラスチック
 植物や動物など生物に由来する再生可能な有機性資源(バイオマス)を原材料とするプラスチック。生体分子であれば石油由来でも、安全性、生分解性の意味で同等であるために広義のバイオプラスチックとされており、実際に流通している。これと区別する意味でバイオマスプラスチックという名称もあるが、バイオ燃料とは異なりカーボンを材料中に長期にストックすることが可能である。

注2)スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)
 特に強度に優れ、耐熱性のような特定の機能を強化してあるプラスチックの一群。耐熱温度が150℃以上であるものをスーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)と呼ぶことが多く、その最もポピュラーなものがポリイミドである。

注3)遺伝子工学
 遺伝子を人工的に操作する技術。特に生物の自然な生育過程では起こらない人為的な型式で行うことを意味している。遺伝子導入や遺伝子組換えなどの技術で生物に遺伝子操作を行うことを一般に指す。甘味料であるアスパルテームは遺伝子工学的技術により大量生産したものであることから分かるように、生産物はすでに世の中で流通している状態にあり、プラスチックに用いても何の問題もない。

注4)光二量化
 光を吸収した結果、2つの分子が結合し1つの分子となる化学反応。2つの分子が十分近い距離にあり、かつ反応点の位置や向きが適切な状態にある必要があり、この反応を示す分子種は少ない。一方、桂皮酸類の光二量化は効率よく起こるため最も古くから知られる。特に、適切な結晶構造を持つ桂皮酸類はほぼ100%の反応効率を示す場合がある。今回はこのケースである。

注5)キャスト法
 フィルムとして得たい物質を溶媒に溶かして得られた溶液を基盤の上に垂らすか吹き付けた後に乾かす方法。ポリイミドフィルムを得るためには、前駆体であるポリアミド酸の溶液を本方法で得たフィルムを熱処理によりイミド化するのが一般的である。ポリイミドそのものは高耐熱であり成形加工も困難であるが、前駆体のポリアミド酸の成形加工性が高いためにキャスト法によりフィルムを得ることができる。

<論文名>
 " Ultra-strong, transparent polytruxillamides derived from microbial photodimers"
 (微生物性光二量体からの超高強度で透明なポリトルキシルアミド)

平成28年4月22日

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