という言葉が唐突に思い浮かんだ。さて誰の言葉だったか。兎にも角にも暇さえあれば宅を抜け出して海に向かう。泳ぐわけでもなく(たまには泳ぐが)、サンダルを履いたまま少し海には行って波と戯れる。遠くの方を眺めて今日は蒼くてきれいだと思う。その程度のことをして、30分くらいしたら満足して帰ってくる。何が楽しいのかよくわからない。
今日は風も落ち着いてよい天気だった。海に行ってみると、昨日の強風の影響なのか、潮が満ちているのか、波が高かった。普段は乾いている岩も波に洗われている。面白いから岩の上に立って波が足下を洗っていくのを眺めていた。それにも飽きたので乾いた岩を探し、座って海を眺めていた。どこからか猫がやってきて、挨拶したらそのまま居着いてしまった。体をすりつけてもたれかかってくる。私の体の陰が快適だとわかったらしく、背中に張り付いたまま動かなくなった。
まだ水温が低いし、泳いでいる人も少ないから眺めるだけにして帰ろうと思った。しかし地元のおじさんが元気よく飛び込んでいる。それなら大丈夫だろうかと思い、立ち上がってゆっくり水に入った。そのまま飛び込んだ。猫は去っていった。5分ほど波と戯れて上がった。まだ少し水が冷たかった。
「海を抱きしめていたい」とは誰の言葉だったか。戻って調べてみたら坂口安吾の小説の題名だった。正しくは「私は海をだきしめてゐたい」だ。安吾のこの短編は好きだ。自分もいつか海で遊んでいて溺れ死ぬんじゃないかと思うことがある。元気なうちに事故死するとしたらたぶんそうなるだろう。
最近のコメント