Daily Archives: 2014年6月9日

130歳の誕生日、あるいはハープのようなピアノ

うちにあるPleyelのピアノは130年前(1884年)の6月7日にパリ近郊の工場からロンドンに向けて出荷された。ゆえに6月7日を誕生日とみなす。(すっかり人間扱いしている。。。)130歳の誕生日となる2014年6月7日、一人ピアノと向き合って、その声に耳を傾けた。

130歳とはいえ、非常に張りのある歌声である。(セミ)コンサート用で筐体が大きいというのも一因であろうが、もともと歌う楽器なのだ。ピアノが届いて二ヶ月、よい音を求めて試行錯誤してきたが、はっきり言えるのは現代ピアノとは違う楽器であるということ、叩いてはいけないということだ。バルトークなんか弾いたらえらいことになる。音が割れてしまって、響きも平板だ。ところが静かに歌うメロディなどは人間の声かと思うほどみずみずしく、伸びやかである。若々しい。

どういう風に弾いたら良い音がするのか、考えてきた末の、現時点の理解は、「これはハープだ(と思って弾けばよい)」ということである。弦を指で弾く(はじく)ような気分で鍵盤に触れるといい音がする。もう少し付け加えると打弦時よりも、鍵盤からの指の離し方を意識した方が音を作りやすい。これは最近、琴を弾かせてもらったときにぴんと来た。

フランスの演奏技法は伝統的に手首を柔らかく使うものであるが、要するに弦をはじいているのだと考えれば納得がいく。イネガル(跳ねるような装飾)も弦をひっかいていると考えればよいのではないかという気がした。ピアノをハープとみなすのは独特のもののような気がするが、100年くらい前はそういうものだったのかもしれない。あらためてピアノをみるとたしかにペダルのところはハープが意匠されている。

ペダルのところはハープの形になっている

ペダルのところはハープの形になっている

これは単なるデザイン以上に、楽器の由来を象徴するものなのだなと思った。

そういうわけでいまだ悪戦苦闘中というか探索が続いている。いろいろ弾いてみてあうんじゃないかと思ったのは、フォーレとかフランクといったフランスの同時代の作曲家たちの作品。ゆっくりとしたメロディが複雑に絡んで長いトーンのなかで空間が広がっていくようなものが適しているような気がする。これが意外にリストの作品にも適していて、リストはPleyelを嫌っていたかのようなことを書いている人もいるが、少なくともこの頃(1884年)のPleyelピアノはリストの要望に応えているのではないかと思う。

Pleyelといえばショパンだが、これがなかなか難しくて、ノンペダル奏法を駆使しないと美しくならない。ショパンは自らを古典派とみなし、バッハの作品を好んだというが、実際作品に向き合ってみるときっちりとした作りになっていて、曖昧性がないことに気づく。宅のPleyelで弾くと騒がしくなってしまうので、たぶんさらに50年くらい前の楽器まで遡っていかないと本来の響きは出ないのだろう。

というわけでシューマンのアラベスク(最後のところだけ)をこっそり公開。静かに演奏しております。ピアノ再調整の二日前でコンディションは今ひとつですがそこはご容赦を。
シューマンのアラベスク(最後のところだけ)