マルタの暗い面

9月4日夜遅く、Mから連絡があった。結局、税関に罰金540ユーロ(約7万円)を払って赦してもらったという。ピアノを取られそうだったから他に方法がなかったとのこと。Aさんに送ってもらった手紙と書類をマルタの税関に見せたが、「マルタにはマルタの法律があります」といって一顧だにしなかったという。ピアノは今、マルタで最高の業者に梱包してもらっている。イギリスから先、日本までの輸送を早急に手配しよう、という文でメッセージは終わっていた。

税関と裁判で争うという選択肢もあったと思うが、Mもほかの荷物と一緒にピアノを運び出したかっただろうから、罰金を払って解放してもらうほかなかったのかもしれない。イギリスへの引っ越しを控えて多忙な中、税関や文化遺産管理局に行って交渉したり、輸出業者や弁護士と対策を相談したりしていたのだから、それ以上のことを彼に求めるのは酷だろう。

しかし、マルタ税関のやり口は道義に反する。そもそもピアノをアンティーク品だと言い張るなら、最初にMが手続きしに行ったときに書類の不備(記入の間違い)を指摘すべきだった。税関がアンティーク品か楽器かの判断ができなかったので文化遺産管理局に判断を仰いだというのであれば納得だが、そうだとしたら文化遺産管理局が判断を下した後にMが嘘をついていたと弾劾するのはおかしい。後になって「間違い」とわかったことを以て、最初の時点で「嘘をついた」という結論を出すことはどんな詭弁を弄しても不可能だろう。最初の時点では申請の仕方が正しいか間違っているか判断できなかったのだから。

Mからの申請を文化遺産管理局に回し、アンティーク品だと言わせた上で申請を差し戻し、虚偽の税を申告したと訴えるのは作為だ。彼らは最初からそれがアンティーク品だと知っていた。(アンティーク品とするつもりだった。)ただ自分たちはそのことを知らないという芝居を打ち、判断を別の部署に任せたのだ。そして判断が下された後、自分たちが騙されていたとわめいて相手を非難する。なんという卑怯なやり口だろうか。彼らは最初から罰金をせしめるつもりだったのだ。Mが自分の家財としてピアノを運び出したら彼らは手を出せない。ピアノ代金の50パーセントを税として徴収することはできないのだ。だからMが嘘をついたと主張して、罰金をとることだけを考えていたのだ。

もちろん彼らとて我々がそのことを見抜いていないとは思っていないだろう。しかし見抜かれていたとわかっていても、主張を引っ込めるようなことはしないだろう。そんなことをしたら儲けを失うことになる。彼らにはおそらくそれなりのノルマがあるのだ、目標税収のようなものが。自分たちが詐欺を働いているということがわかっていても、罪の意識にさい悩まされて行いを改めるようなことはしないだろう。彼らを罰する人はいないのだから。国ぐるみで詐欺を働いているのだから。彼らは権力を与えられ、それを濫用しているのだ。

私はマルタの人たちからいろいろな点で恩義を受けているが、税関との一件でこの国の暗い一面を見せつけられて裏切られた気持ちがした。Mが言うように、マルタは事あるごとに外国人から金をむしり取ろうとする。正当な理由は何もない。お前たち外国人は金を持っているんだから少しくれよという乞食の精神があるだけだ。いっそのことユーロは外国人用の貨幣、地元民は昔ながらのマルタリラを使い、あらゆる物についてユーロとリラで違う料金設定にすればよい。30年前の中国がそんな感じで二種類の貨幣が流通していたが、それに倣えばいいのだ。

Mがマルタを出る理由がわかった気がした。

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