第3回北陸先端科学技術大学院大学運営諮問会議議事要録



  日  時  平成13年7月11日(水)13時30分〜16時
  場  所  ホテルフロラシオン青山・芙蓉西の間(東京都港区南青山4-17-58)
  出席委員  大崎委員(会長),千葉委員(副会長),大柿委員,大須賀委員,諏訪委員,村上
        委員,山田委員
  欠席委員  所委員,野依委員
  大学出席者 示村学長,吉原副学長,杉山知識科学研究科長,二木情報科学研究科長,川上材料
        科学研究科長,與那原研究協力部長(事務局長代理)他

  議事等
(1)示村学長から,開会に当たっての挨拶があった。
(2)示村学長から,運営諮問会議委員と大学関係者の紹介があった。
(3)示村学長から,前回の会議以降における大学の主な学事等について報告があった。
(4)示村学長から,本会議に対し,「本学における産学連携について」の審議依頼があった。
(5)大崎会長から,挨拶があった。
(6)大崎会長から,議題である本学における産学連携について,まず,大学における現状やその取
  組の状況をお聞かせいただいた後で審議に入りたい旨発言があり,示村学長から,配付資料5に
  基づき説明があった。
(7)各委員から,次のような質疑応答,意見交換が行われた。(◎:会長,○:委員,●:大学出
  席者)
  ○ 現状説明でご発言のあった,外部資金導入の戦略における「科学研究費補助金等の誰でもア
   クセスできるものと共同研究等によるものとのバランスを考える」とは具体的にはどういうこ
   とかお伺いしたい。
  ● 産学連携による共同研究等については,活発に実施できる者,実施できる分野のテーマを持
   っている者は積極的に実施すればよいと思うが,特に受託研究の場合,企業の単なるプロブレ
   ムソルバーになるのではなく,サイエンスやテクノロジーの基礎をきちんと学理的に固めてい
   く過程において,結果として企業の問題解決につながる,ということに留意すべきであると考
   えている。
    また,共同研究等に携わることによって,本来の基礎的な研究及び教育がディスターブされ
   るべきではなく,しかも大学では,教員が自律的にそのスレッショールドをコントロールする
   のであるから,教員は自覚を持ち,自分の中でバランスをとっていかなければならないという
   ことである。
  ○ 先端大の支援財団は,地元産業の振興につながるような地元と大学の技術交流,産学連携に
   期待し,地元の企業等が資金を集めてつくったものである。
    支援財団としては,寄附金を出して下さっている地元の方々に,地元と先端大との産学連携
   の成果を目に見えるもので示していきたいと思っているが,今後も地元が連携を希望する場合,
   先端大はそれに応えていくだけのキャパシティがあるのか,また,先端大における将来の産学
   連携の方向性についてお伺いしたい。
  ● 産学連携における大きな問題の一つには,大学がどのような力を持っているかを産業界に上
   手に発信できていないこと,また,産業界が抱えている問題を必ずしも大学が上手に理解して
   いないことがあると思う。そこで現在,産学連携につながっていく可能性がある研究等につい
   て,できるだけ普通の言葉で,効果的に外に発信するにはどのようにしたらよいかについて,
   地元企業と共同研究を行っている。
    また,産学連携を主な業務としている先端科学技術研究調査センターが,民間企業等におけ
   るニーズ等の調査を行うなど,大学の外とのリエゾンを図っている。
    産学連携については,すでに手一杯なほど活発な仕事をしている者もあるが,トータルとし
   てはまだ可能性は十分あると考えている。教官数と基本的な使命である教育研究とのバランス
   から,各大学には産学連携におけるリミットというものがあると思うが,本学と地元との連携
   を今後も引き続きお考えいただきたい。
    本学では産学連携を研究の活性化・活発化に役に立つとともに,結果的にお金もついてくる
   という姿勢で努力していきたい。
  ◎ 今の話は非常に大事なことだと思う。大学を独立行政法人化した際には,外部資金で研究者
   を雇用できるシステムにしなければ,大学の発展性はないと思う。
    また,企業と大学の研究者で問題意識の共有があると,今より共同研究等に携わる教官が増
   えるかもしれない。そのためには大学と企業間で,人事等のいろいろな交流が必要ではないか
   と思う。
  ○ 今の日本の大学には,ヨーロッパを見たり,アメリカを見たり,何々を見たりということで,
   自分たちの基本のプリンシプルというものがなく,ただ周りばかりを見ているという印象であ
   る。短期でも中期でもよいが,大学が一体どういう在り方をすべきなのかということを,一度
   真剣に考えるべきだと思う。
    今,大学を新しい時代に合ったものにしようと議論され,多くの大学が産学協同に走ってい
   る。産学協同は確かに大学を社会にアピールする上でも重要である。しかし,今まで大学は学
   術論文さえ出していればよいと思っていた,とよく批判的に言われているが,本当によい論文
   が出れば,国際的な企業が共同研究を申し込んでくるなど,世界に開かれるかもしれない。そ
   う考えれば,現実の問題がどこに,どのように存在するのかをきちんと見出した上で,大学と
   いうのは一体何をすべきかということを,もっと本質的な側面から考えるべきではないか。
  ◎ 同感だが,先端大は産学連携の推進が基本任務の一つにあると,基本認識として持っておら
   れるのではないか。
  ● 産学連携,産学協同というものは,ある意味でロケットのブースターのようなものであって,
   大学の基本的な推力は,基本的な科学研究の力とその蓄積であるべきだと思う。そのように考
   えると,結果的に大学においては,産学連携と本来の教育研究とのバランスが問題とならざる
   を得ないと思う。
  ○ 今まで日本の大学が果たしてきた教育機関としての役割には,大変すばらしいものがあった。
   しかし,現時点で,アメリカにおける大学の在り方やベンチャービジネス等の出現を見ると,
   何かあれに近いようなブレークスルーの仕組みをつくり出していかなければ,これからの時代,
   日本はますます国際競争力を失ってしまうのではないか,と非常に危機感を覚えている。その
   ために,日本の大学も民間のニーズ等があれば,受託研究や共同研究等の外部資金を得て人を
   雇用するなど,企業研究所のような利益を生み出す組織の拡大について,いろいろな面から詰
   めていく必要があるのではないか。
  ○ 大学の基本的なファンクションは維持され,プラス,地元あるいは産業界への貢献というこ
   とで,受託研究や共同研究を主として考えているが,もっと特許について考えられてはいかが
   か。特許が生み出す利益を自由に使えるようになれば,外の力を利用し,大学の先生の最低や
   らなければならない仕事は維持でき,プラスの部分も大きくしていくことができる。1回1回
   で消えてしまう受託研究費や共同研究費ばかりではなく,特許のロイヤルティーをうまく利用
   していくことも考えたらよいのではないか。
  ◎ 特許は取ればよいというものではなくて,メンテナンスにお金がかかるので,取ってもらう
   とかえって迷惑ということもあるのではないか。現時点では,大学は科学技術振興事業団に実
   用化等を任せる等しているが,将来は個々の法人が特許の管理までやるべきだと思う。
  ● 企業の場合,学会発表等も含めてすべてコントロールでき,本人は気が付かなくても特許の
   専門家の目で見て,特許にしておいた方がよいということまで整理ができる。しかし,大学の
   場合,基本的に学会発表が優先的であり,しかも発表の決定権は本人にあるような状況で,本
   当にプロフィットを生むような特許をつくっていくには限界があると思えるので,大学がお金
   になる特許を持つのは難しいと思う。
  ○ 共同研究や受託研究を実施していると,確かに大学の先生は,研究の成果をすぐ論文で発表
   したいとおっしゃる。企業側はその相談を受け,その成果が非常によい特許になり得るという
   ことになれば,先行の何かがないか調べたりして特許を申請するわけである。論文等で発表し
   ても,その後半年間は特許の申請は通用するし,また,共同研究等の相手企業等に相談をすれ
   ば,よい解決策が生まれるのではないか。
  ○ 特許はあまり難しく考えずに,何かクレームがつけば申請後も修正する機会は何度もあるの
   で,まずは出してみて,基本のところを押さえる。特許については関心を持つことがスタート
   だと思う。
  ◎ 大学における研究は,特に国立大学の場合には公開が原則であり,そのため共同研究等の成
   果をいつまで伏せておけるのかということと,その間の共同研究者における優先実施権の取扱
   いは重要な問題である。大学の公開原則を害さない限りで,どこまで企業の立場に立てるかに
   ついて,何かルールをつくった方がよいのではないか。
  ○ 大学にとって公開性は大事な使命なので,特許と論文の公開性が両立する方法を確立しない
   と,共同研究は弊害になるというとらえ方も当然起こり得る。
  ○ 先端大は,ある意味では,サイエンスというよりもエンジニアリングを行うところであると
   いう捉え方をしているが,先端大がエンジニアリングにおいて,本当にこれから世界と戦える
   のかということを考えた時に,そのためには産業界との連携や特許の取得等の取組も必要であ
   るというインセンティブを,個々の教官等に,いかに共有させるのかについて考えていく必要
   があるのではないか。
  ○ アメリカなどの場合,そのようなインセンティブの最たるものは,「大学からベンチャーキ
   ャピタルを起こして,自らそこに飛び込んでいく」ことである。日本でも,大学からベンチャ
   ーキャピタルを起こすということが当たり前になればよい。
  ◎ 大学の先生というのは,自分の興味関心を発展させるというところで,それが息の長い,す
   ばらしい成果に結びつくという基本的特徴がある。だからと言って,よくキャリオシティ ドラ
   イブン(curiosity driven)という言葉を使うが,それぞれの先生も問題意識を持って研究に取り
   組んでおり,エンジニアリング等の社会に直結するような研究分野の場合,共有した上での考
   え方の違いはあっても,企業と問題意識を共有できないことはないと思う。問題意識の共有が
   インセンティブの基礎だと思う。
  ○ 先端大は限られた数の研究科の中に,少しずつ分野の違う先生が数多く集まっている。先端
   大には何人もの先生が一つの研究に関わり,わずかな時間だけ,あるいはわずかな視点の違い
   等を寄せ合って,知恵を大きくしていくことができるという素養があり,他大学より優位に立
   てる点の一つではないかと思う。
    また,以前,先端大と共同研究を実施した際に,テーマを決めるのに大変苦労をした。先生
   方は,産業界に興味があるか,自分のシーズ的なポテンシャルが通用するか,ユニークな論文
   が書けるかでテーマを決めてしまうので,企業におけるニーズのぶつけ方をよほど工夫しない
   と,なかなかマッチングしない。かなり両者が歩み寄る努力をしないと,この問題はよい解決
   法にたどり着かないのではないかと思う。
  ○ 今まで大学の研究者は,自分の興味のある分野で研究していれば生きていけたので,自分の
   過去の履歴を超えてまで,新しいものに取り組もうという意欲が大きくなかったと思う。エン
   ジニアリングにおいても,大学は本当の意味で,要求されている方向にまだ向いていないとい
   う印象は非常に強い。これから,産学協同等を通してだんだん考え方そのものを変えていかな
   ければ,大学はよくならないと思う。先端大はそういう意識があり,努力していると思うが,
   全体的に大学はまだ立ち遅れていると思う。
  ○ ある大学と長期間に亘る,複数の研究者等が参加する研究を実施したことがある。大学は企
   業を通して,その分野の動向を知ることができ,企業は内面的なものに資産を得るなど,結果
   的に投入した経費,資源,時間等と研究のアウトプットとのバランスについての評価は難しい
   が,大学も企業もそれに優るリターンが,そのような仕組により出てくるという経験をした。
   企業にとっても,複数の先生方と長期間ともに研究を行うということの意義は非常に大きいと
   思う。
  ● 本学では,他大学では専攻ぐらいの規模のところを一つの研究科としており,そこに非常に
   たくさんの教官がいるということで,研究層に,幅もさることながら,厚みも非常にあるとい
   うのが強みである。大学の研究は,個々の教員がどれだけきちんと自分の仕事を行うかという
   ことが基本だが,そこをばらばらにしたままでは本学の強みが発揮できないので,できる限り
   プロジェクトを組んで力を発揮できるように,それを奨励するための研究費の配分の仕方とい
   うインセンティブをつくっている。
  ○ 日本では,大学で教育された学生が,企業に行くときのミスマッチングをミニマムにする仕
   組みがまだ十分ではない。ドイツでは,ドクターコースを終えた学生が,マッチングファンド
   で企業と一緒に研究し,その結果,学生が適材適所に収まるという,いわゆるアカデミアの世
   界と産業界とのギャップが非常に少ない中で,次の人材が世の中に出ていくという仕組みがあ
   る。連携講座という機能を通し,そういう仕組みが進められれば,大きな改革につながってい
   くのではないかと思うし,先端大はその担い手になり得るのではないかと思う。
  ● 本学の社会に対する最も重要なミッションは,博士号を持った者を大量に輩出するとともに,
   優秀で,かつ実世界に出て行って自分の技術と腕を試したいという意欲を持った者に育てるこ
   とである,と思っている。本研究科では,そのような人材を育成するためには,民間企業等と
   の共同研究が有効的ではないかと考え,学生を主役とした民間企業等との共同研究の研究プロ
   ジェクトを走らせ,その過程で学位論文を作成させ,ドクターの学位を授与するというプログ
   ラムについて検討を行っている。将来的には,企業の現職研究者を学生として受入れ,大学に
   おいてPh.Dを目指して研究すること自体が,実際の研究・開発につながるという仕組みを
   是非つくりたいと思っている。このプログラムに企業が乗ってくれて,かつ,国の経費により
   実施できればよいと思っているが,企業の方のご意見をお伺いしたい。
  ○ 企業の方から見ると,共同研究の目的は成果を出すことで,ドクターを取ることではない。
   ドクターはあくまで,結果である。
  ◎ 他の国でも,研究プロジェクト参加型の研究者養成は行われており,日本でも,指導教官の
   プロジェクトに参加して,論文を書く博士課程の学生は多いと思うが,今の話は論文博士の制
   度をより組織的に,かつ産学協同の中で行うというものでおもしろいと思う。ドイツには大学
   院というものはないが,DFG(ドイツ研究協会)がファンディングし,共同プロジェクトを
   組ませてドクター養成をしており,かなりうまくいっているようである。私も日本でそういう
   ものを導入してみてはと提案したことがある。
  ○ 私はすでに企業との共同研究に学生を参加させており,学生は企業のためだけのことではな
   く,それを一般化した問題について研究しており,非常にうまくいっている。先端大でもその
   ような試みを積極的に行い,ケースを増やせばよいのではないか。
  ○ 一番のネックとなる問題は,産業界の方がそういう人を手弁当で出すかどうかではないか。
  ● 大学における制度上の問題は何もなく,今までも共同研究が走っている中で,企業の人を学
   生として受入れることは行っている。このプログラムは,企業が自前で共同研究のための経費
   を出すというものではなく,プロジェクトの運営費を国から得ることができないかというもの
   である。
  ○ このようなプログラムは,国とか,公の経費を利用して実施するようなものに向いていると
   思う。企業というのは,製品とか,何か新しくものができないかということが第一次優先にな
   り,人材を育てることは二番手になってしまうような傾向があると思う。
  ○ 企業から見ると,日本における問題点の一つに,共同研究や委託研究等をこなすのは,本当
   にピカピカの先生方のごく一部ではないかという一般論がある。
    従って,日本の大学とは何らかの格好で奨学金を出し,就職の時期に優秀な人材を送り込ん
   でもらうというようなお付き合いが多いのに対して,大きなプロジェクトやテーマを決めて,
   かなりのお金をつけて頼むのは海外の大学や研究所が多いという構造的な問題がある。
    その意味では,先端大において,外部資金のうち寄附金に比べ共同研究等の方の割合が高い
   ならば,その先端性が証明されると思うが,それに関して他大学と比較したデータはあるか。
  ● 大学に個別に聞き取りをして,データをとったりすること以外に方法がないので,的確なデ
   ータはないが,本学は奨学寄附金に比較して,共同研究及び受託研究の占める割合が非常に高
   く,どちらかと言えば,奨学寄附金は頭打ちからむしろ漸減状態になっている。奨学寄附金は
   インフラを支える研究費へ回すということも行っており,それが減ると,そのような構造も変
   えなければならないという問題点はあるが,きちんと目的の定まった共同研究や受託研究にお
   金が回っていくことで,奨学寄附金が減っているのであれば,体質としてはむしろ健全だと考
   えている。
  ○ 枠組みを先に決めて,実施するような産学協同の仕方はよくないと思う。新しい可能性の開
   発という意味で,学長が幾らかのお金を持っていて,学長に相談したら,それはよさそうだか
   ら実施してみようというぐらいのことができるような,例えば学長裁量経費等で自由にできる
   ような組織にしておくとよいのではないか。
  ● 本学では,研究費に関しては均等に配分するよりも,むしろプロジェクトに配分する方を多
   くしている。プロジェクトの最終的な採択権は学長にあるので,そこである程度先を見通して,
   こういう分野は少してこ入れしておいた方がよいという判断もできることになっている。
(8)以上のような意見交換等の後,大崎会長から,閉会の挨拶があった。
(9)最後に,示村学長から,本日の審議に対する謝辞があった。
                                          以 上



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