第4回北陸先端科学技術大学院大学運営諮問会議議事要録
日 時 平成14年2月5日(火)13時30分〜15時30分
場 所 ホテルフロラシオン青山・孔雀西の間(東京都港区南青山4-17-58)
出席委員 大崎委員(会長),千葉委員(副会長),大柿委員,大須賀委員,諏訪委員,野依
委員,村上委員,山田委員
欠席委員 所委員
大学出席者 示村学長,吉原副学長,杉山知識科学研究科長,二木情報科学研究科長,川上材料
科学研究科長,片山附属図書館長,本木事務局長他
議事等
(1)示村学長から,開会に当たっての挨拶があった。
(2)示村学長から,運営諮問会議委員と大学関係者の紹介があった。
(3)示村学長から,前回の会議以降における大学の主な学事等について報告があった。
(4)示村学長から,運営諮問会議が発足してから,これまでの会議において委員からいただいた意
見等を踏まえての本学の取組について報告があった。
(5)示村学長から,本会議に対し,「本学における当面の諸課題について」の審議依頼があった。
(6)大崎会長から,挨拶があった。
(7)大崎会長から,議題である本学における当面の諸課題について,まず,大学における検討状況
をお聞かせいただいた後で審議に入りたい旨発言があり,示村学長から,配付資料に基づき説明
があった。
(8)各委員から,次のような質疑応答,意見交換が行われた。(◎:会長,○:委員,●:大学出
席者)
○ 先端大では立派な若い人材を集め,特に科学技術を中心とした教育を行い,社会に出してい
く。そのフロー,社会における需要の関係,研究者マーケットの展望をどのように考えている
のか。大学院の拡大やポスドク等の人数の増大により,随分多くの若手研究者を育成してきた
が,なかなか行き場がないと言う状況等があるなかで,やはり人のフローがうまくいかないと
教育も効果が上がらないと思う。
● ご発言のことは我々も意識せざるを得ない状況になると思う。今のところは,幸い,わりあ
い需要の多い分野を中心として教育しているということもあり,特にドクターコースの卒業生,
ドクター学位取得者は8割がアカデミアに,2割ぐらいがインダストリーに進んでいる。マス
ターコースではそれが大体逆転した状況である。
本学では,ドクターコース修了者がアカデミアばかりに行くことはできないことを建学のと
きから意識していたので,研究者養成,研究者の後継者養成だけではなく,企業等で高度専門
職業人としても働けるようにカリキュラムを編成し,教育を行なっている。しかし,ドクター
コースのアウトプットに対する需要がそのようにシフトして行ってくれるのかについては心配
をしている。
○ 企業の方からの,あるごく狭い見方ではあるが,マスターは一般的に使いやすいし,育てや
すいが,ドクターのなかで,特にマスター及びドクターコースを同じ教員に指導された学生は,
非常に考えが狭くて融通が利かないことがある。できるだけ複数の教員に指導されたドクター
が良いと思う。
● 是非,本学のドクターは使いやすいと言ってもらえるようにしたい。また,今ご発言された
ことや,学部と大学院で6年とか,9年も同じところにいたのではもうだめだということを是
非,企業の方々に大声で言っていただきたい。今は学部と大学院を同じところでというのが多
くなってしまい,本学が構造的に苦戦する原因のひとつになっている。
○ 例えば,我が国の産業のシステム等を考えた時に,どうしてもこういう分野の専門家が必要
だというエコロジーはあるが,実際,今,日本が必要としている分野の人が必ずしも供給され
ていないという印象が強い。
大学院の研究テーマの設定の仕方というのが,今までだと,わりと先生方の得意とする分野
とかのテーマになってしまい,例えばソフトウェアの分野ではパターン認識の方の人材は豊富
だが,システムやセキュリティの方の人材がいないというような状況となっている。学生の研
究テーマの設定とトータルとしてどういう分野の専門家を養成するのか,その兼ね合いをうま
い具合にフィードバックする仕組ができないか。
● 情報科学研究科では,産総研とはすでに教育研究連携に関する協定を結んでいるが,東京に
ある旧国立研究所,通総研及び産総研と強い連携を結ぼうとしている。
その交渉のなかで人材育成に関しても,需要のある分野があれば,むしろそういう需要を持
ったところに教育プログラムをつくっていただき,我々に提示していただければ,それに向け
て一緒にジョイントでやろうと,今まで教育のセクターに出てきていない組織が,例えば本学
のような大学と組んで教育を行なうことが可能ではないかとの話が出ている。
● 本学では,学内措置による連携講座を設置しているが,これは極めて機動的につくってあり,
要らなくなれば壊すこともできる。また,教育及び研究をターゲットとしてつくることができ
るので,既存の講座でカバーしていなかった部分について,講座を超えた対応ができるよう新
しくつくったものもある。今のご指摘の点は,これによって一部対応できているのかもしれな
い。
◎ 大学あるいは国公立の研究所の教員・研究者養成という観点から見ると,ドクターはオーバ
ープロダクションだと思う。問題は,高度専門職業人に対して企業の需要が今後どうなるかと
いうことだろうと思う。これまでは立派な研究者として養成すればそれは企業の専門家になる
というのが前提で,そこをあまり区別せずやってきたわけだが,そのために,両方ともどっち
つかずみたいなものになっているのではないかと思う。本学は大学の性格から見て,「企業で
活躍できるドクターレベルの人材の養成システムはどうあるべきか」について本格的に取り組
めば,まさに先端的モデルを提供できるということにはならないか。
○ 産業技術は大変複合的になってきており,例えば,電気系の企業でも生物学や環境学科の人
間を必要とするようになってきたが,日本はまだ縦割りの性格が強過ぎるのではないか。例え
ば環境学科については,地球規模での問題を解決するということで今大学院を随分拡張してい
るが,環境産業というのはないので,そこで教育を受けた人の行き場所がなくなっている。同
じ科学技術でも,即経済活動に結びつくものと,結びつかないものがあり,結びつかないとこ
ろが大変大きくなっている。
○ 企業がベンチャーのような,何か関心のある技術や問題を勉強,発展させる際に,大企業で
は自前の研究所を持っており,対応できるが,中小企業においては,大学がそのような研究所
的な存在となるように,もっと門戸を開放して欲しいという声が最近とても強い。
○ 今議論されていることの原因には,社会のニーズが急速に変わり,大学が対応できていない
という点がある。それ以前に,大学はまだ本当に社会のニーズをつかみきっていないという点
があるので,社会が大学にどういう一種のスペクトラムを期待しているかということを大学と
社会が一緒になって考えるべきだと思う。
また,日本の産業を育成する上で,日本の企業の約90%を占める中小企業を活性化するとい
うのは大事なことである。しかし,大学を卒業した人は大半が大企業に行ってしまうので,平
均値で言えば,中小企業と大学の技術レベルのギャップはかなり大きく,中小企業と大学が直
接結びついても効果が上がらない。従って,両方がその中間を埋めるような,例えばリエゾン
オフィサーのような人をかなり増やしていかないといけない。
○ 企業が日本の大学に期待することとして,将来を支える技術を研究してもらいたいというこ
とはほとんどなく,いい学生を輩出してもらうということが一番大きい。その結果,今は最先
端の科学技術,産業技術に関して日本が非常に遅れてしまっているので,ぜひ大学のドクター
コースで世界の最先端を行くものを獲得して,維持してほしいという要求が「トップ30」と
いう話になっているのだろうと思う。しかしその場合に,ポスドクの数については,企業が実
際にポスドクとして採用し,活用していける数とミスマッチングの問題があるようである。ポ
スドクに関する企業サイドの現実の要求は,量的な充実を今求めるというよりは,世界的なレ
ベルでいう質的な充実であり,そのような意味で,教員の数,学生の数とか,「数」という意
味でどの辺りが現実的なものなのかという検証,検討も非常に大事なのではないか。また一方
では,トップ30等によって,日本が海外から良い人材を集め,それを送り出していける存在
になることができるなら非常にありがたいと思う。
◎ 日本では,アメリカ等に比べて大学院生が少ないというのが大学院拡充の1つの大きな理由
づけになったが,アメリカでは,研究者養成のPh.Dコースと,各種職業と結びついている職
業コースというのが截然と分かれているので,それを全部足して日本と比べるのは意味がない
と思う。日本も形の上では高度専門職業人の養成をドクターコースで実施していると言ってい
るが,各大学の実践としては,どちらかといえば,研究者は自分の跡継ぎ養成に偏っていると
いうのが実態だと思う。従って,そこを洗い直し,将来を見通せば,今のドクターの数が多過
ぎるということはないと思う。大学院は今,需要を考えながら再構成するべき時期に来ている
と思うが,これは個々の大学単位ではなく,政府レベルでまじめに取り組んでもらうべきだと
思う。
○ ドクターについては,日本は量的には決して多くない。しかし,純粋学術研究,例えば基礎
物理のようなところに非常に多くの人が集中しており,そのような分野ではドクターがオーバ
ーフローして行き場がないようになっている。日本ではドクター数の分野別におけるバランス,
需給のバランスに非常にミスマッチがある。
○ 本学には,知識を生み出す環境,方法論,その周辺にある様々な人間の活動等を研究し,早
く良い知識をつくり出すプロセスのようなものを研究する知識科学という世界がある。本学こ
そ,他の2研究科とうまく知識を科学とつなぎ,新しいレベルの高い研究成果を生み出すプロ
セスの研究をしていけば,今日の課題がかなり解決できるのではないかと思う。企業でも大き
な問題を解決しようとすると,他の世界の知識や考え方を取り入れると非常にうまくいくこと
が往々にしてある。
◎ 大学院における教育コースを,アメリカやイギリスはプログラムとしてとらえている場合が
多いが,日本では研究科・専攻ということで,組織でとらえている。日本においても,大学院
の教育プログラムをもっと柔軟に構成していく手法というものが取れないか。
● 従来の大学院及び大学の考え方というのは,研究のユニットがそのまま教育にもつながって
いるが,それを本学では,初めからある程度切り離し,教育のカリキュラムは研究室に任せる
のではなく研究科全員の責任だという考え方をもっている。これをもう1歩進めようというの
が本学のアクションプランの「研究科,専攻,講座,センターの枠組みを超えた多様な研究組
織を導入」という方策で,教育プログラムは研究科全体が責任を持つものであるが,研究は研
究科という単位は関係なく行うという考え方である。
○ 今の日本で一番欠けているのは,システム的な考えができる人が非常に少ないことではない
か。これを充足するには,大学院の教育においても,自分の専門分野だけではない勉強を義務
づけることが必要ではないか。
○ 国立大学の独立行政法人化の中で,北陸3県の先生方が集まり,懇談会を開催することは大
変すばらしいことだと思うが,全ての大学が独立行政法人化ということで,均一な,均質な組
織にならないように,本学がそういう役割を担っていただきたい。
○ 単独での独立行政法人化への移行という本学の選択は,本学の性格からして非常に適切な選
択であると思うが,地理的に近い北陸3県で相互関係をつくるというのではなく,世界の最高
水準の大学,研究機関等でコンソーシアムをつくるとか,もう少し踏み込んだ,バイラテラル
な研究交流ということを少し超えたようなコンソーシアムをつくり,相互で足りないところを
付加していくというような対応をされたらどうか。また,国際的な側面でこれから特色を出し
ていくために,中国を大学経営の中でどう考えていくかというのが非常に大きな問題になるの
ではないかと思っているが,中国をもう少し踏み込んで考えるということはできないのか。
研究テーマということでは,本学の今の知識,情報,材料というセグメントは非常にいいコ
ンビネーションになっていると思うので,むしろその中でのスクラップ・アンド・ビルドの仕
組みをもう少し工夫することを考えるべきだと思う。
(9)以上のような意見交換等の後,大崎会長から,閉会の挨拶があった。
(10)最後に,示村学長から,本日の審議に対する謝辞及び今年3月末での委員の任期満了に伴う
謝辞があった。
以 上
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