日本認知科学会・学習と対話研究会・第47回研究会

テーマ: 日常生活の認知工学:野島久雄の思い出とともに

日時 2012年 7月14日(土)13:30~
場所 成城大学 3号館321教室
   アクセスマップ  http://www.seijo.ac.jp/access/access.html
   キャンパスマップ http://www.seijo.ac.jp/access/campusmap.html
企画 青山征彦(駿河台大)・新垣紀子(成城大)


企画趣旨

認知科学の前編集長である野島久雄氏が昨年末、逝去された。野島氏は、 ノーマン『誰のためのデザイン?』の翻訳で知られているが、 自身も家庭や公共空間など、ごくごく日常的な場面をフィールドとした研究を展開してきた。 この研究会では、野島氏の研究を振り返りながら、日常生活に対して認知工学がどのようなアプローチをしていくべきかを考えていく。


プログラム

司会 青山征彦(駿河台大)

13:30
野島久雄の認知工学:これまで、そしてこれから青山征彦(駿河台大)・新垣紀子(成城大)
13:50 思い出工学とタイムカプセル:9年の時を経た「時の機械」の開封に向けて新垣紀子(成城大)・他
14:10 ワーク・モチベーション・エンジニアリング構想鈴木宏昭(青山学院大)・他
14:30 休憩
14:50 日常生活のポリティクス:エージェンシーと境界生成をめぐって青山征彦(駿河台大)
15:10 思い出深い生活財のゆくえ加藤ゆうこ(CDI)
15:30 家庭における初心者のICTサービス利用行動 -心理モデルの構築とサポートデザイン-中谷桃子・大野健彦(NTT)
15:50-16:00 質疑応答

参加費・参加方法


お知らせ

当日までに寄せられた野島先生の研究を振り返ってのコメント、これからの認知科学、認知工学の研究についてのコメントを掲載します。

野島さんとの出会いは「誰のためのデザイン?」よりも古く、確かネットワークのコミュニティ形成の話を聴いたのが最初ではないかと思う。民族学博 物館での「ゆもか研究会」の活動は記憶には新しいが今では懐かしい。「家の中を<認知科学>する」は我々の家展展示の大きな礎となった。また、スタンレー・ミルグラムの伝記「服従実験は何だったのか」も強く印象に残っている。野島さんをWikipediaに書いたことで、せめての故人の弔 いとさせて貰いたい。
(慶應義塾大学 安村通晃)

企業・組織・地域における成長の科学とデザイン論
日常に情報機器が浸透し、その使いにくさ分かりにくさが問題になりHCI研究が盛んになった。状況的認知論や仕事場研究により、人々が埋め込まれた活動環境における学びや振る舞いの解明が進んできた。それら認知科学の成果がHI設計に取り入れられ、情報機器は格段に分かりやすくなってきた。しかし、企業・組織・地域における学び・熟達・成長の設計へのフィードバックはかなり遅れている。日常の営みにおける人々の学びの設計は,企業・組織・地域の学びの設計との連動・連携を想定して行わねばならない.そういう領域に認知科学が乗り出す時期ではないか。
(常磐大学 伊東昌子) 

私は野島久雄先生をかなり以前から存じ上げていたのですが、直接お話したのは青山学院大学大学院文学研究科の2001年度の授業「情報教育研究」を履修したときでした。履修生は私を含めて二人でしたので、授業というよりも自分たちの研究テーマに即した話合いという状況でした。そのとき「家の中の認知科学」(「思い出工学」を含む)の講演資料をいただき、このような研究もあるのだと思いました。本当になつかしい思い出です。
(立教大学 吉岡有文)

野島さんに初めてお会いしたのは,本郷の社会心理学科に進学したときでした。野島さんたちが始めた『社会心理学評論』の仕事がまわってきたこと,UCSDに留学するときには三宅さん夫妻を紹介していただいたこと,帰国後は厚木のNTT研究所で話をさせていただいたこと,ICレコーダをいち早く紹介していただいたこと,成城に来ていただいたこと,ゆもかにも誘っていただいたこと,あまたの学恩(「借り」とほんのすこしの「貸し」)が思い出されます。
(成城大学 南保輔)

野島先生がNTT研究所に入社した頃、私は米国にいました。新入社員のノジマさんから、日米間が接続されたばかりの電子メールが届きます。内容はInfo-Macのファイルを送って欲しいという要請でした。磁気テープにファイルを入れてスタンフォード大学内の郵便局から何度か送りました。帰国後に野島先生に会うと、既にJUNETの中心となるnttlabを運用していました。野島先生の説明を聞いて私もjunet-adminのメンバとなりました。
(早稲田大学 後藤滋樹)

野島久雄さんと認知科学 野島さんは、よい意味で「趣味人」でした。日常生活の中の人の様々な営みに興味を持ち、それを「学問」にできる人でした。認知科学は様々なサブ フィールドがあり、なかなか「認知科学が専門」と言える人はいません。でも、野島さんは社会心理学、認知心理学、人間工学などのサブフィールドで 活躍されましたが、どの分野にも収まりきらず、「認知科学」としか言いようのない独自の研究フィールドをつくってきました。言語発達や認知発達 は、直接ご自身が取り組むテーマではなかったにもかかわらず、非常に興味を持って、私の研究を理解し、いつも的確な助言をくださいました。「オタ ク」的に独自の世界をつくりながら、非常に広い視野を持って、彼にしかできない、ユニークな方法論を打ち立てていました。それが「認知科学者」に もっとも必要とされる資質ではないかと思っています。
(慶應義塾大学 今井むつみ)

野島さんとの関わりで、できればちゃんとやってみたいことは、NTT研究所時代の野島さんと共有していた「日常」を研究することです。その日常の中心には図としての「研究」がありますが、その周りにある地としての趣味や生き方、社会関係の作り方なども含めた、ばらばらに扱えない本当の日常があります。そこでのいろんな考え方や行動の「すれ違い」を見て行くことを通して、共有していたものが何か、見えて来るかもしれません。そんな認知(工学、科学)の研究を可能にする土壌がこの25年かけてできあがってきたのではないか、と思う今日このごろです。
(放送大学 三宅芳雄)

「日常生活の認知工学」の研究会に際して
宗教的、社会的、産業的な革命を人類は経験してきたが、今起りつつある情報技術の進展は、生活のあらゆる面(日常生活、社会生活、教育、コミュニケーション、遊びなど)でかつて経験した革命よりも大きな変革を人々に与えている。このような環境のもとで成長している人はどのような意識を持ち、どのような未来を築こうとするのか。認知科学的な側面からの研究は遅れをとっていないだろうか。時代の流れに鋭い感覚を持っていた野島さんがいないのは惜しまれる。
(中京大学 筧一彦)

野島さんについては、やはりまず「誰のためのデザイン」の翻訳の社会的意義について言及しないわけには行かないでしょう。1990年にこの訳書が出版されたことで、認知工学という実践分野のあり方が具体的に提示され、以後の国内におけるユーザビリティ活動の活性化を後方支援していただく形になりました。それと同時に、思い出工学についても、近年盛んになってきたUX(ユーザエクスペリエンス)との関連で重要な意義をもっていると、考えています。まだ思い出工学とUXの関係は必ずしも十分に認識されていないようには思いますが、個人の思い出を構成する要素としての人工物との関係性、また人工物を経由した他の人々との関係性は、UXの最終段階として重要なものであると考えています。(なお、このあたりについては現在執筆中の本で言及するつもりです)。
(放送大学 黒須正明)

「成城の森」生涯学習講座で2006年からご一緒ささていただいてました。「思い出工学」について制作を通じて議論する講座で、固定ファンも増えていました。2009年2月のワークショップでは、先生の手術の思い出話を講座のファンの方々と一緒にお聞きすることができました。現在、この実践での知見を研究としてまとめているのですが、力量不足でうまくまとめられておりません。先生に成果をお見せできなかったことが大変心残りです。
(多摩美術大学 永井由美子)

2004年7月に「ゆもか」の会で野島先生とご一緒したことにより、私のこれまで意味も意義もあまり気に留めていなかった「記録すること」や「日記を書くこと」に対して、その意味付けが変わりました。きっと思い出や記録物をアカデミックに考えることがあるというのが、一種のカルチャーショックだったのかもしれません。この結論が出ないままに野島先生が御逝去されたことはとても残念ですが、残された者が何らかの形で後世への布石を打てたらと願っています。
(大妻女子大学 内田直子)