■ 幻の作家 −「ガケップチ・カッフェー」−

 最近、何にびっくりしたって、前田由美子と大前田りんが同一人物だと知った時の驚きといったらなかった。キムタクと静香の結婚の5倍は驚いたぞ。いや、僕が知らなかっただけなんだけど。

 前田由美子は1977年から80年ごろにかけてりぼん増刊号に描いていた人で、他の少女漫画とは一味も二味も違ったぶっきらぼうな描線が非常に個性的だった。初めて読んだのは「ジェシカ」という短篇。確かなデッサン、ヨーロッパ的なセンス。一読してファンになり、以来僕の最も好きな作家の1人である。やがてりぼんに描かなくなって、てっきり引退したのだろうかと思っていた。
 一方、大前田りんを初めて読んだのはモーニングに載った「微熱少年」だから1986年くらいかな。ぶっきらぼうな描線がいい味を出していて、非常に印象的な作家であった。寡作な人で、何年かして「ガケップチ・カッフェー」を発表するもその後はとんと見なくなったが、最近まであったモーニングのウェブ上のマンガサイトで「ガケップチ…」がUPされていたのは嬉しかった。(追記:現在もe-mangaというサイトで読めます。02. 3. 18記)

 いやー、まさか2人が同じ人だとは! 言われてみればなるほど、描線とかペンネームとか画面の片隅の落書きのギャグセンスなどに共通する部分が多い。とはいえ絵柄が多少変わっていたし、りぼん時代は頑なに欧米の話ばかり描いていたのに対し、モーニングでは舞台を日本に移したということもあり、うかつにも同じ作者だとは夢にも思わなかったのだ。装いを変えて目の前にいるのに「どこに行ったんだろう」と探していたわけで、まるで「どろんこハリー」だ。

 さてなんだか作品の感想が2の次になってしまったが、この人の作品の一番の魅力は”雰囲気”だと思う。いつまでたっても巨大な目の中に星をちりばめた主人公が幅を利かせる日本の漫画界で、この人の絵は洋画にも通じる雰囲気を持っていて心地よい。そしてストーリーテリング。本作の舞台は田舎のさびれたドライブインとその周辺、登場人物もほとんど主人公の男女2名だけ、しかも両者の過去も不明というきわめて限定されたシチュエーションで、これだけ読ませる技量はすごい。2人の感情の機微の描写がうまいのだ。男と女、両方のココロを描ける稀な作家。
 古本屋で見かけたらぜひ手に取って見て下さい。絶対損しませんよ。(00. 11. 27)


■ 大前田りん「ガケップチ・カッフェー」1巻(1993 講談社)

After 5