レチノクロムを蛋白質鋳型として用いた9または13位にメチル基を有 しないレチナールアナログの光異性化反応では、13位にメチル基を有 しないアナログは天然のレチナールとほとんど同じ挙動を示し、位置選 択的に11-シス異性体を与えるのに対して、9位にメチル基を有しない アナログでは11-シスへ47%の位置選択率でしか光異性化しない。9 位のメチル基の有無によってこれほど位置選択性が顕著に依存する例は 初めて見い出された。
天然のレチノクロムは光反応の中間体として、いままでに、ルミとメタ の中間体が知られていたが、新しくルミ中間体と光平衡にあるフォトル ミ中間体を見い出した。この中間体は530nmに吸収極大を持ち、125Kで 分解することが低温光分解分光法で発見した。
ハロバクテリアの細胞内pHを生きたまま測定するため、蛍光色 素BCECF/AMを用いて調べた結果、バクテリオロドプシンを吸収する光 を照射すると、細胞の内外でpHの変化があるが、必ずしも相補的に現れ ないことを見い出した。この現象はプロトンの単純な移動では説明でき ないことを他のハロロドプシンのみを持つ菌でも明らかにした。
バクテリオロドプシンの光反応でプロトンの出入りに関与するメタ中間 体は低温の電子スペクトルの観測から知られているが、その反応におけ る不斉構造変化の研究を、赤外円二色性からはじめて明らかに観測でき た。中でも、CN伸縮振動は不斉場が全く逆転する劇的な変化を示した。
光受容部分のみを置換したレチノクロムアナログを合成する時に、レチ ナールアナログとアポレチノクロムとの反応を行う。このときの色素形 成の容易さはレチナールアナログの5位におけるsp2が必要であることを 二環をもつアナログで始めて示した。