第15回世界コンピュータ将棋選手権
TACOS自戦記

橋本 剛   平成17年6月13日記

  

決勝

今回は直前にいろいろと問題が多く発生してややネガティブな思考になっていたが、 無事決勝に来られてほっとした。
決勝ではなんとか上位に一つは勝ちたいと期待していたが…


一回戦 KCC将棋

初戦の相手KCC将棋には現在3連敗中。そろそろ一つ入れたいところだが…
49手目TACOSの2三飛成は定跡手だが、飯田先生によるとあまりいい手ではないらしい。
定跡を外れたあたりでは57手目の局面を読んで自分がいいと思っていたようだ。確かにTACOSの評価関数ではこの局面は桂損しているものの竜が大きくかなり優勢だと思っており、この当たりの判断はなかなか難しいと思った。 その後はうまく5筋に攻めを集中され、大差で完敗。昨年のIS戦しかりで、KCCは定跡の選択が実にうまい気がする。
0勝1敗。




二回戦 備後将棋

二回戦の相手は備後将棋。予選では負けはしたもののいい将棋を指せた。一矢報いたいところだが…
23手目に早くも痛恨の悪手2五飛が出てしまった。読みを調べたところ△5七角成に▲5五飛から 竜を作った後水平線気味の勝手読みをしていたせいだった。痛い。
31手目1五歩もひどい手だ。向こうから端を攻めたいところなのに…
案の定端から来られ苦しい展開に。 その後悪いながらも多少紛れの期待できる雰囲気になってきたが、 94手目8七歩と打たれて万事休す。ここまでは悪いながらも淡い期待を抱きながら見ていたが、この手を見て期待はふっとんでしまった。
結局序盤のミスを挽回できないまま完敗。 厳しい連敗スタートだ。
0勝2敗。




三回戦 GPS将棋

次は一回戦でYSSを撃破し好調のGPS。おそらく一晩でだいぶ改良して強くなっているだろうなと予想しつつ対局に臨んだ。 これに負けると「全敗」の2文字がちらつく怖い対局だ。
30手目7五同飛と飛車で歩を取ってしまったのが悪手。この形では飛車交換が避けづらい。 こういう場合銀で行くように調整していたつもりだったが、最近の改良でまた飛車で取るようになってしまっていたのかもしれない。 飛車交換しても悪くないと思っているのか。 こうなったからにはしょうがなく自陣飛車で耐えるが、こちらだけ飛車を自陣に打たされてTACOS不利に。 だが実際には相手も指す手が難しい展開だ。
39手目7四歩はややありがたい手。歩は手持ちのままの方がいやだった。 飛車先の交換ができ、だいぶ盛り返した。7八の銀の動きを封じたのが大きい。 49手目4六歩は金が左に行っているのでさすがに悪手だろう。4七に空間ができるとこちらは手を作りやすくなる。 こちらが5五角とのぞいたのがいやらしい手で、4六角の後の5七角成が受けにくい。 ここでGPSは3六飛打。この手でGPSチームから悲鳴が聞こえた。ここに飛車を手放すようでは完全に逆転だろう。この飛車はいずれ殺されそうだ。 ここでは▲4五歩とでも逃げて△4六角には▲4八金と我慢するぐらいだったか? 8五の金も質駒になり、 TACOS 好調。
72手目7八歩打で相手を焦らせると、GPSは1六歩と端に活路を見出しに来た。 その後78手目角を逃げないで1六歩と取り込んだのがうまい手で、 角を取られても先手には持ち駒が角しかなく次の1七香打がべらぼうに厳しい。 その後はうまく絡んで相手を必死に。 何とか決勝で片目を明ける事ができた。

1勝2敗。




四回戦 激指
激指チームの皆さん
激指チームの皆さん

いよいよ3強との対戦。長嶋君が対3強用にそれぞれTACOSの勝ちやすい定跡を自動で用意してくれていたが、それが吉と出るか…
相矢倉で早めの5五歩に、 TACOS は何故か取らなかった。すかさず4六銀と出られ、5四の歩を金で取りにいかないといけないようでは 早くも TACOS が苦しい。相手の銀も棒銀で実にあっさりと捌かれてしまった。2四に歩を打ったのも明らかに損だろう。
順調に悪くなってしまったが、45手目7五歩は激指のやや指しすぎと鶴岡さんとも意見が一致した。▲7四桂からの攻めがあるが、 △7六桂の筋も生じるので紛れる指し方だろう。 TACOS は7四桂の以下の攻めをそれほどたいしたことないと思っていたようだ。 62手目は激指も△2二桂と読んでいたようだが、勝又先生によるとこれは悪手らしい。コンピュータ同士読みがシンクロしたか。 71手目3五歩打は取ると▲5七角で3五の銀を取る手と▲7六飛で金を取る手があり準両取りがかかる。 これに対しTACOSの8六歩は負けを早めた悪手。 TACOSの評価ではここで△3二玉とこの△8六歩がほぼ同じ点数だったが、ここは△3二玉と辛抱した方が良かっただろう。 その後一時的に銀を得したものの相手玉は安全になってしまい、わかりやすくなってしまった。 結局はいいところなく完敗。

1勝3敗。




五回戦 竜の卵
中谷さん
中谷さん

竜の卵とは2000年の第10回大会以来、5年ぶり2回目の対決。 実は竜の卵の記念すべき選手権デビュー戦の相手がTACOSで、そのとき竜の卵は一次予選を全勝で抜けた。 何故かそれ以来まったく対戦する機会はなかった。
この久しぶりの対局、先手の2手損角換わり?になった。 飛車先が切れ、TACOS好調な展開に。50手目5三金はあまり見かけない手だが、この場合はありか? TACOSの欲深い3五歩を見て竜の卵は7一角から6三歩と攻めてきた。 TACOSはこの歩成が間に合わないように攻めないといけない。 その後TACOSの猛攻が始まり、角をぶった切って玉頭から殺到するTACOS得意の展開に。 78手目7七に銀が打てて優勢を意識した。先手は6三の歩が空振りしている感じだ。 と金も攻めに加わり、90手目6七歩打が厳しい手。 ▲5九銀と逃げると以下△7七金▲6九玉△6八金打▲同 銀△同歩成▲同飛△同金▲同玉△6七銀打▲5九玉△4六歩と攻めるらしい。 銀得になり、TACOSがそのまま押し切った。5年前の雪辱を晴らす勝利だ。

2勝3敗。




六回戦 YSS
山下さん
山下さん

続いてはお化けマシンで注目のYSSが相手。だがYSSは予想外にもすでに3敗しておりすでに優勝戦線から脱落している。 こちらはなんとか上位に勝ちたいところ。
TACOSは4六歩と突いたが、TACOSがこんな手を指すのを見るのは初めてだ。 長嶋君の対AI将棋自動定跡チューニングによるものだろう。大丈夫だろうか、と心配していると案の定 4七銀とバックしてしまった。恐れていたことが起こった。何だこの手は? ひょっとしてTACOSが変な手を指しやすい展開の方がお互い訳がわからなくなって混乱に乗じてTACOSが勝つこともたまにあるということなのだろうか? この手を見ると定跡チューニングは失敗のように見える。今後の課題だ。
7九角も意味不明。囲いの認識がおかしいのか読みが混乱しているようだ。 相手の攻めが厳しく、だめだこりゃという感じになってきた。 だが48手目△9九角成では△7五飛とされた方がいやだった。本譜は馬を銀で抑えてまだ紛れがありそうだ。 こちらも馬を作り、なんとか見られる将棋になってきた。
69手目がこの将棋で一番のポイントだった。ここは▲3五歩と攻めればむしろこちらが有望だったらしい。 調べたところ▲3五歩以下もそれなりにいい順を読んでいたのだが、末端となる局面の評価が低すぎた。相手は狭いので攻撃の駒をもっと高く評価しないといけない。今後の重要な課題だ。今のTACOSのレベルでは飛車を取りに行くのはしょうがない気もする。桂香を拾って攻める順は相当魅力的だ。だが敵に角を渡すと先手陣は持たない。
4六角成となって相手の馬が手厚すぎる。YSS相手にこうなってはだめだ。 以下うまく指されて負け。途中惜しいところもあったが完敗だ。なかなか上位には勝てない。
2勝4敗。




七回戦 IS将棋
IS将棋の棚瀬さん
IS将棋の棚瀬さん

最終戦はIS将棋と。すでに激指の優勝が決まっており、どこか和やかなムードが漂う試合となった。 ISには3年前の Computer Olympiad で一度勝った事があるが、それ以外はまったく歯が立たない。なんとか上位に勝ちたいが…
39手目7五歩打が面白い手。取れば馬を作っていいという読みだろう。その後 TACOSは読みどおり馬を作り、自分が相当いいと思っていたようだ。実際は馬を活かせるかどうか難しく、殺される可能性も高い。 49手目ぼやっと3七桂と跳ねたのがぬるい手。ここは▲5五歩から▲4六銀と攻めれば良かったようだ。 その後は馬が生角に変えられてしまい、やがて殺される羽目に。
死んだのはしょうがないとして、2三角成がTACOSの欠点の出た手。▲7四角成から銀桂との2枚換えを読んでいたが、 どうもこちらの方が相手の陣形を乱して得だと勘違いしたらしい。玉が5三にいるのだからそれは明らかにおかしいのだが、これも今後の重要な課題だ。 IS相手にこれではいけない。3五歩からと金を作られジ・エンド。これも完敗だった。
2勝5敗。




戦い終わって
決勝では上位に一つぐらいは勝てないだろうかと淡い期待を抱いていたのだが、またしても実力どおりの結果になってしまった。 今年のTACOSは優勢になってからの指し回しがよく、相手の攻めを切らせて大差になる将棋が多かった。その反面 負ける将棋はほとんどが完敗。昨年よりははっきり強くなったのだが、他のプログラムも全体的にどんどん強くなっており 今後もよほど気合を入れていかないと追いつけないどころかすぐ取り残されてしまうと感じた。
それにしても激指の全勝優勝は見事だった。勝又プロとの角落ち対局も見ていて鳥肌が立つ見事な寄せだった。 数年前に比べて上位のプログラムは何か別次元の強さに達した感がある。
幸い開発メンバーも順調に仕事をこなせるように成長しており、いい循環が生じている。 今後もいい循環をさらに推し進めてTACOSも何とか同じ次元に到達させていきたい。
表彰式
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