第14回世界コンピュータ将棋選手権
TACOS自戦記

橋本 剛   平成16年5月20日記

  

決勝

いよいよ夢に見た決勝の舞台に立つ事が出来た。
一次予選で落ちていた頃、決勝戦は本当にまばゆく見えた。
選ばれた者だけの、神聖な舞台。そう思えた。
特に緊張もなく決勝は始まった。 うまくいけば4勝、悪くても2勝はしたいなどとたいして意味のない星勘定をしていた。

一回戦 IS将棋
IS将棋の棚瀬さん、岸本さんと東大将棋読み上げの安食さん
IS将棋の棚瀬さん、岸本さんと東大将棋の声担当の安食女流プロ

選手権では初となるIS将棋との対戦。決勝に出て来た事を実感させてくれる相手だ。 これまで Computer Olympiad やGPWでの対戦は何度かあるが、まったく勝てなかったという 訳でもなく東大6との自動対戦では勝率4割ぐらい。TACOS得意の展開になればいいのだが。
TACOSはISとの過去の対戦や市販の東大将棋相手には相居飛車が相性いいので居飛車で行こうとしていたが、 使用する定跡を間違えて振り飛車になってしまった。 案の定TACOSの四間飛車にISは6一金のまま左の銀を6四に繰り出してくる急戦に。 6一金の形だからか22手目で早くも定跡から外れた。 早めに定跡を外すための作戦かと思ったが、岸本さんによると狙ったわけではなくたまたまそうなったのだそうだ。 31手目、すっと7八飛を読んでいたのに気が変わって7五歩と取ってしまった。 どうも8二銀と打っていいと思っていたようだ。大会前にコードを全般的にかなり大幅に書き換えていたのだが、 局面進行度の計算も修正してろくに検証もしていなかったのがここでひびいてしまったかもしれない。 7六歩以降はかなり一方的な展開になってしまった。 だが悪いながらも頑張って粘って相手が間違えればまだなんとかなるかもと思っていたら81手目、 さすがIS将棋は急所の1五歩!と端を攻めて来た。ここで端に手をつけられたらもう持ちこたえられない。 さすがである。ここで端に来られない相手ならまだ一山あったかもしれないが、もうこのレベルでは みんな逃さないだろう。以下は幾ばくもなく終了。完敗だった。
0勝1敗。




二回戦 激指
激指の鶴岡さん、横山さんと激指の声担当の矢内さん
激指の鶴岡さん、横山さんと激指の声担当の矢内女流プロ

2回戦の相手は激指。やはり選手権で対戦するのは初めてだ。 激指3との自動対戦だと、勝つ時はいつもぼろ勝ち、負ける時はいつもぼろ負けという面白い相性がある気がする。
IS戦に続いてTACOSの四間飛車になった。あとで勝又先生にも言ってもらったのだが、どうもTACOSは相居飛車が得意だから 振り飛車はさけるべきだったかもしれない。 実は大会の2日ぐらい前に居飛車でしか現れない重大なバグを発見したのだが、そのバグを見つけるまではTACOSはどうも 相居飛車が苦手かもしれないと思っていてなるべく居飛車対振り飛車の形にしようと思っていた。この対局の時点では まだそのイメージがかなり残っていたのである。
序盤は激指がやや凝り形で3七桂から攻める形にすればTACOSが十分だと思うが、TACOSはなかなか 跳ねてくれなかった。 銀冠では大山名人が桂を3七に跳ねるのを嫌ったらしく、TACOSも3七より2九の点数を高くしているが その弊害が出たかもしれない。現代風に攻めを意識した駒組みにした方が現在のTACOSには向いているかも。
89手目6六銀が痛恨の手。解説によると4五同桂ならTACOS十分だったらしい。 先に角が取れたものの飛車と龍の差が大きくTACOS不利になってしまった。以下着実に攻められてまたもや完敗。
0勝2敗。




三回戦 KCC将棋

次は昨日負けたKCC将棋との対戦。
間抜けなことにまた使う定跡を間違えて昨日とまったく同じ展開になってしまう。 ひょっとして最後まで昨日と同じでいくんじゃないかと恐れたが40手目で何故かTACOSの手が変わった。 昨日は1四歩だった。
TACOSは気合良く6五歩から仕掛けていくが、62手目4三飛車が痛いミス。横に逃げていればまだまだ いい勝負だったと思うが、どうもこのあたり何かバグがあるのかもしれない。 自陣に飛車を打たされ、苦しい展開に。このレベルの相手に一度致命的なミスをするともうどうにもならない。 昨日よりも紛れのない一方的な展開になりまたもやTACOSの完敗。
0勝3敗。




四回戦 柿木将棋

3連敗となり、「全敗になってしまうかも」と少し弱気になってきたところで柿木将棋との対戦。
柿木将棋はまたも振り飛車穴熊で来た。昨年の2次予選から3局連続だ。対するTACOSは急戦形で早めの 飛車交換になる。36手目TACOSの8四飛車が後の展開を見るといい手だったのかもしれない。 41手目柿木将棋の9七角がおそらく疑問手で、TACOSがやや指しやすい展開になる。
だがTACOSも自分から9二香と上がって傷を作り、案の定飛車を打たれてしまう。 84手目3六歩とじっと突いたのが端っこは相手にしない急所の突き出し。 TACOS得意の展開になりそうだ。我ながらTACOSのこういう手は好きである。 以下3七香から4七歩と気持ちいい攻めが続く。 柿木将棋が飛車交換をして来たのもかなりTACOSの得になった。 TACOSは7三歩成を無視して3八香成。成香がいかにも大きい。 柿木将棋は3八香成を見て3三角成から攻めて来たが、4一飛と攻めてくれたのではじいて TACOSのわかりやすい勝ちになった。ここでは取った金を4八金と打てばまだまだ難しかったと思う。 以下はわかり易い展開になりTACOSの勝ち。とりあえず決勝で一勝をあげられて良かった。
1勝3敗。




五回戦 YSS
YSSの山下さんとAI将棋の声(元)担当の高橋女流プロ
YSSの山下さんとAI将棋の声(元)担当の高橋女流プロ

YSSはこの時点で唯一の四連勝。上位四チームに一つぐらいは入れたいと思って臨んだが… TACOSの居飛車穴熊に対してYSSは四間飛車から6五歩、7五歩と突き出し三間へ飛車を持ってくるという いやな作戦。早々に居飛車穴熊を完成させたTACOSは、40手目4四角と変な角出をしてしまう。 ここに角が出てはまずい。実は居飛車でやたら44に角を出たがっていたので直前に駒組みテーブルを だいぶ修正したのだが、それでも出てしまった。修正が甘かったようだ。 このレベルだとこういうミスが命取りになる。5五歩と仕掛けられてからはもうぼろぼろだった。 YSSとやると仕掛けの時点でもう全然だめでぼろぼろになってしまう将棋がたまにあるが、 この将棋もまったく見所もないまま終わってしまった。
1勝4敗。




六回戦 金沢将棋

次はここまで全敗と調子の悪い金沢将棋との対戦。 昨日TACOSが相居飛車で勝った事もあり、金沢将棋の方が四間飛車にしてきた。
TACOSの41手目6八角はわざと仕掛けさせようということかもしれないが、 さすがにやりすぎだろう。普通に飛車先突いたり3六歩突くぐらいでゆったりしてほしかった。 この辺評価関数か何かに問題がある感じがする。すかさず仕掛けられて悪くなった気がする。 55手目は5五歩か6四角かで迷っていたが、結局5五歩と指した。だがその後の展開を見ると よくなかったか。 57手目6四歩は指した時私もなかなかいい手だなと思って見ていたが… 取れば6五歩。TACOSの読みでは5二銀と引かせて3二角と打って悪くないとなっていた。 だが金沢将棋は平然と同銀。確かに取られて攻められると一気につぶされそうだ。 これを取られてとがめられないようでは苦しすぎる。 以下一方的に攻められて負けてしまった。
1勝5敗。




七回戦 永世名人
最終戦は永世名人と。順位はともかく決勝で2つぐらいは勝ちたい。 昨日と同じTACOSの先手だ。
出だしは昨日とまったく同じ。吉村さんに聞いたら序盤はまったく何もいじっていないとのこと。 中盤までは明らかにこちらが悪かったからそれも当然か。
37手目こちらの3七銀で昨日と手が変わった。 長嶋君が飯田先生と相談して夜のうちに対策を 入れておいてくれた。それがうまく働けばいいが… 対策は相手4手角の形に対して棒銀。 TACOSはこちらの思惑通り迷わず一直線に棒銀に行く。 43手目1四歩に同銀は昨晩こういう風になればいいなと話していたとおりの展開で、 ここで長嶋君ガッツポーズ。
相手も銀を取ってはやられるとわかっているのだろう、なかなか取ってこない。TACOS好調だ。 52手目相手はいろいろと利かしてとうとう銀を取ってきた。望むところだ。 1三歩と垂らしたのもいい感じで、TACOSはこういう展開は得意だろう。 TACOSは24歩から4四飛車とずばっと飛車を切って攻めていく。 昔からこういう展開は得意だ。 めずらしい飛車と飛車への割打ちも出てTACOS好調。 77手目6二角成としたところでは水平線気味の8五歩を相手してほしかった。 角で行ったのはこの方が4二銀成の先手になっていいと いうことだろう。 81手目同歩と取ったのには少し感心した。落ち着いていていいと思う。 自玉の危険を察したのだろうがなかなかしっかりしている。 相手も強引な攻めで来たが、93手目、ぱっとみ詰みそうには見えなかったが 詰みを発見し一瞬で訳のわからないまま終わってしまった!TACOSの勝利だ。 この詰みはNHKのサイエンスZEROで2回も放映され、この詰みを説明してる 自分のインタビューも映してもらった。今の選手権ではたいして珍しいことでも ないのだが、初めて見る人には面白いだろう。 最後はTACOSの快勝で選手権を締めくくってくれた。総合7位だった。
2勝5敗。




戦い終わって
表彰式
表彰式

7位となり、本当はもう少し上に行けるかなと思っていたので大満足という 訳ではないが、念願の決勝進出を果たし、晴れの舞台でも2勝できたのでまずは 満足している。直前に詰み関係のバグが見つかって大修正をしたが間に合わず、 そのせいで内部で詰みを読むところにだいぶ制限を加えていたので寄せ合いで 負けてしまう将棋が多いのではないかと心配していた。だがその欠点が出た将棋は あまりなく、むしろ振り飛車戦で仕掛けのあたりで変な手を指して負けてしまう欠点が 多く出てしまった。まともに動くようになって一ヶ月も足っておらずその調整不足 が出たのだと思う。今後はこのあたりの欠点を修正していき、じっくり時間をかけて 調整を行い、来年の選手権では堂々と「優勝を狙っている」と宣言できるレベルにして参加できるよう 頑張っていきたい。