project: 身体運動の動的側面(大域動力学の確立に向けて)

co-worker(s): 國吉康夫(東大)


人間の身体運動は、我々にとって最も身近な非線形動力学系です。あまりにも身近すぎて、どうやって動かしているかわからないくらいです。学部4年の頃聞いたセミナーで、多賀厳太郎氏のセミナーを聞いて、興味は持っていましたが、シミュレーションのみの研究に限界を感じて、機会があったのでつくばの電総研でヒューマノイドロボットのグループに参加しました。
そこではまだロボットは実験できる状態になかったので、導入されたばかりのモーションキャプチャー装置を使って、人間の運動を調べることにしました。とりあえずの対象は、起き上がりです。今ではフルサイズのヒューマノイドロボットでも起き上がりをするものがありますが、当時はまだフロンティアでした。しかし、起き上がりを通じて、新たな運動の設計論をつくろうというのが本当の目的です。
その構想は、國吉康夫らのアイデア「大域動力学(Global Dynamics)」と統合して、身体の力学をなるべく生かして、必要な箇所でのみ簡単な制御を行う(介入とよぶ)というコンセプトとして、その確立を目指して実験と理論の両面から研究が進められています。
力学を生かす、ということは、例えば身体のもつ連成振子のダイナミクスを利用することがあげられます。歩行にしても、足の振りの周期は同じ特性を持つ振り子と同様な周期であることが知られています。ですから、ロボットで通常行われているようなリアルタイムにフィードバック制御をかけるよりも、筋肉の張力を操作するなど間接的な制御で、必要な時にだけ制御をかける方が自然と思います。また、そうでないと人間の運動のような柔軟性をもった制御は難しいと思います。
最近は聞きませんが、一時非線形動力学で controling chaos という話題がブームになったことがあります。ただし、ここでは制御によってカオスを消す、というもので余り興味を覚えませんでした。なぜ、制御によって「思うとおりのカオス」にする研究を誰もしなかったのでしょうか。金子邦彦は、「イチローの振り子打法は、実はカオスを利用している」というエッセイを書きましたが、もしかしたら証明できるかもしれません。起き上がりではカオスは本質的な役割をもっていないと思いますが、ごく狭い領域に限定されたカオスであれば、その不安定性を利用して、細かいチューニングが出来るのではないかと考えています。


publications:

Tomoyuki Yamamoto and Yasuo Kuniyoshi
Flexibility of Human Rising: towards understanding and design of complex dynamical behaviors
to appear, proceedings of CLAWAR03 (CLimbing And WAlking Robots)


Tomoyuki Yamamoto and Yasuo Kuniyoshi
Stability and controllability in a rising motion: a global dynamics approach
proceedings of IROS2002 pp. 2467-2472

Tomoyuki Yamamoto and Yasuo Kuniyoshi
Global Dynamics: a new concept for design of dynamical behavior
proceedings of second international workshop on Epigenetic Robotics 2003
pp. 177-180
http://www.lucs.lu.se/Abstracts/LUCS_Studies/LUCS94.html


Tomoyuki Yamamoto and Yasuo Kuniyoshi
Harnessing the robot's body dynamics: a global dynamics approach
Proceedings of IROS (Intelligent RObots and Systems) 2001
pp. 518-525