国際会議に行こう!!

駒澤大学 文学部 自然科学教室
上原 隆平
uehara@jaist.ac.jp

はじめに

何年前のことか,さっぱり思い出せないのですが, どこかの懇親会でH陸先端大学院大学のA野先生とお話をしていたときのことです. A野先生がふと『僕は昔は公費が使えなくても毎年FOCS/STOCに通っていた』とか何 とか漏らされたことがありました.当時の私は「自分の発表がある国際会議にしか 行かない(行けない?)」という状況だったので,非常に感銘を受けました.

さて突然話は変わりますが,非常に幸運なことに、 私は現在駒澤大学の在外研究制度を利用して Canada の University of Waterloo に滞在させていただいております (2003年3月には日本に帰ります.いやホントに). 在外研究制度を利用できることになったとき,私はこの浅N先生の話を思い出し, 一念発起して『在外期間中はたとえ自腹でもFOCS/STOC,ついでにSODAに行くぞ』 と家族に宣言しました.

結局2001年度はギリシャで STOCICALP, LasVegasでFOCS, WaterlooでCCCG (開催校だったので,ボランティア学生に混ぜて もらって,働いていました), SanFranciscoで SODA, 2002年度はMontrealで STOC, スペインでICALP (自分の発表があったので…),Vancouverで FOCSISAACに参加し, あとはBaltimoreで SODAALICE (今回が1回目の,数えあげと列挙アルゴリズム専門 の会議です.マニアックで楽しそうです.) に参加する予定です. 結局2年間で11回も出ることになりますね…. 自分でもちょっとあきれました.

N本大学のTさんにEATCS Bulletinに載っていた ICALPの写真を 見つかってしまって,LA会誌に 2002年度ICALP について何か書け,と言われたのですが,せっかくなのでもうちょっと いろんな会議に参加してみて感じた雑感などを書きたいと思います.

重要なお断り 国立大学では,在外研究期間中に, 申請していない外国に行くのは非常に困難だ,ということを 複数の先生方にお聞きしました. 駒澤大学の事務に私が確認したところ『自腹で行くぶんにはいくらでもどうぞ』と きっぱり言われたので,私学はけっこう大丈夫なんだろう,と思っています. しかし大学によって(もしかして担当の事務の人によって…?)規則は違う と思いますので,実行される方は注意が必要です (しかし在外研究期間中に, 研究結果を発表できる機会が奪われているというのも理不尽な気がしますね…).

楽しい会議

私にとっての『会議に出ることのメリット』を思いつくままに書いてみます.

最新の結果を本人から直接聞くことができる:

これは言うまでもないような気もしますが…. ただこれにはいろんな意味あいが含まれているように思います. ちょっと考えてみただけでも,

などなど,いろんなメリットがあるように思います.いろんな意味で勉強になる, という感じでしょうか.それから,運が良ければ, 特別講演を聞けることもあります.今回の会議の中で言えば, 2002年の Vancouver で開催されたFOCS Agrawal氏による``PRIMES is in P''の 特別講演 がありました.

日本人研究者と意外とお近付きになれる:

LAなどで顔だけは知ってるんだけど…という程度の日本人研究者の方と, ぐっと親密になれることが,よくあります.異国で一緒に楽しい夜を過ごした りして,日本で普通にお会いするときよりも,ぐっと楽しめます.

そういえばいつも原稿を頼んでくる日H大学のTさんとも, むかーしむかし,とある国際会議(開催地は静岡でしたけど)で同室になったときに 知合いになったのでした. 当時は二人とも大学院生で,Tさんにはホテルのベッドでの『正しい寝方』を 教えてもらったっけなぁ….

仕事(?)ができる:

時差その他で,ホテルでぽっかりやることがなくなってしまうことがあります. だいたいホテルで一人で過ごす夜はヒマですし. こういうときにはなかなか仕事が捗ります. 論文を読むのもよいですし,やり残していた仕事をやるのもよいです. 実はこの原稿も2002年11月の FOCS/ ISAACに参加中の夜中のホテルで ほとんど書きあげました.

家族をつれて行くと…:

家族をつれて行くかどうかは,開催場所や時期などにもよるので,なかなか 微妙な問題ではあります.私の場合,在外研究中は なるべく家族もつれていくことにしました.カナダの学校は休みに 鷹揚なようで,平日に私の仕事のついでに家族もつれていく, と言って休んでも,まったくオッケーでした.

家族をつれて行くメリットは,後でブツクサ言われない,とか, 家族にお土産を買って行かなくてもオッケーとか,そういうメリットもあるのです が,家族をダシにして他の研究者の方と親密になれることも,ままあります. 私はけっこうBanquetに家族をつれていくようにしていたのですが, 何かと話題ができてよかったです. でもこれはケースバイケースなので,何がなんでもつれて行くと 後でかえってブツクサ言われるかもしれませんね.

旅行は楽しい:
旅行を楽しめるようになると,会議の楽しさもぐっとますような気がします.

苦しい会議

『楽しい』ばっかりじゃ嘘っぽいので,私にとっての『会議に出てつらいこと』も 思いつくままに書いてみましょう.『楽しい』と表裏一体の部分もあるのですが.

フトコロが苦しい:

これは自腹ですと,どうしようもありませんね…. 会議代はEarly Registrationと会員割引以外は 工夫のしようがないですし. 私の場合は特に在外研究中なので,基本的には公費が使えません. ですから1000Kmくらいは車で行く,とか, べらぼうに安い航空チケットやホテルを血マナコになって 探す,とか,涙ぐましい努力しかありません.

あとは規定集を隅々まで読む,と言うワザもお勧めです. 私の場合は駒澤大学の規定集の中に「在外研究期間中は年に1回, 『国内』出張旅費が使える」という一文を発見しました. そんなわけで私はToronto〜Vancouver間を公費で 『国内』出張することができました.飛行機でざっと6時間, 日本からなら,インドの端あたりまで行けそうです. たぶん駒澤大学での最長不到(≠不当)距離ではないか, と自負しています.

でもLA関係者の先生方の中には,私なんかよりもずぅ〜っと 予算の獲得や,運営の上手な先生方がいらっしゃるので, そういう方々にこっそりいろんなことを教えてもらった方がよいです. LA会誌にも書けないようなワザをお持ちの先生方は, 私にもこっそり教えて下さい:-)

日本人研究者と意外とお近付きになれる:

あんまりお近付きになりすぎると,後日仕事が舞い込んできたりすることもありま すよね….あ,これは決してあの件とかこの件とか,特定の件のことを言ってる わけじゃありません.ましてや,(以下自粛).

家族をつれて行くと…:

家族とまったく遊んであげないわけにはいかないので,仕事オンリーというわけに いかなくなるのは,やむを得ない気がしています.気持ちの切替がうまくできると よいのですが….このあたりは私もまだまだ修行中です.

旅行は楽しい:

あまり楽しみすぎると,会議に出てるんだか何してるんだか,わからなくなっちゃ いますね….自腹の場合は特に『会議で勉強して元を取ろう』と 意気込みましょう!!

会議は踊る

この2年間で参加した会議の中で, 特に印象に残った会議の感想なぞを書いてみます.

2001年の STOC/ ICALP:

私にとっては初めての STOCだったので, いろんな意味で勉強になりました. STOC/FOCSと言えば私にとっては特別な会議なのですが, 実際に参加してみると他の国際会議と 同じところもあれば,やっぱり違うところもあります. でもこれは口で説明するのは難しいです…. 参加しないとわからない,ということにしておきましょう.

2001年のFOCS:

9月に例のテロがあり, そのすぐあとの10月にLasVegasで開催されました. もしかして中止になっちゃったりしないのだろか…と 思ったのですがそんなことはありませんでした. WaterlooのP先生に念のために相談してみたら『テロにあって死亡する確率よりも, Torontoの空港に行く途中で交通事故で死亡する確率の方が はるかに高いよ』とあっさり言われてしまいました.

そんなわけで,結局普通に開催されて,普通に終わりました. でもちょっと普通でなかった点としては,日本人参加者が (たぶん)私一人だったことです(ちなみに家族はつれて行きませんでした). もしかしたら日本からは参加できなかったのかもしれません. 町の中にも日本人旅行者は皆無で,JTBはじめ, 日本人相手の店はどこも閑古鳥が飛んでいました. 現地の人に聞いてみたら,それでも町の人出は普段の90%くらいだそうで, どうも日本人観光客だけがすっぽりいない,という状態だったようです.

なお,出入国は非常に厳しかったです.普段の倍くらいは時間がかかりました. (でも当時はナイアガラの国境を車で越えるのに8時間以上 並んだそうですから,まだマシかも?) LasVegas空港ではスロットマシンの間を,迷彩服に防弾チョッキを来て マシンガンその他で完全武装した兵士が巡回していましたし, 手荷物検査も何度も何度も何度もやりました. 昔 EuroCOLTでイスラエル(イスラエルはEuropeなのか?と私に聞 かないで下さい)に行った時のことを思い出しました.

私の場合は会議の後に一人で『グランドキャニオン究極ツアー』に参加して ヘリコプターに乗ったりしていたので,緊張感のない日本人でしたが:-)

2002年のSTOC:

狙ったかのように近所(Montreal)でやってくれたので, 家族連れで車で行きました.ちなみにカナダでは1000Kmくらいは近所なので, 車で行くのが『普通』です(←ウソかも).

2002年のFOCS/ ISAAC:

狙ったかのように国内(Vancouver)で やってくれたので,公費で行けたのがうれしかったです:-)

ところで,2002年の夏``PRIMES is in P''という ビッグニュースが飛び込んできました.続報を聞くにつけ, どうも本当らしい…という感じだったのですが, このFOCSの Banquetの後,9:00 p.m.から (a.m.じゃありません)その結果を最初に発表したうちの一人である Agrawal氏本人による 特別講演が行なわれました. 会場は聴衆の熱気にあふれていて, 個人的にも非常に感銘を受けました.

ちなみにAgrawal氏は物腰は柔らかいのですが,ユーモアのある謙虚な方で, 「実用上は,すでにあるRandomizedなAlgorithmで十分だ」とか 「この部分は不幸なことに非常に難しいのだが,好運なことにすでに 他の人によって解かれていた」とか,かなり控え目な物言いをしておられました.

私が夏にニュースを聞いた時に,まるで現在の暗号システムが崩壊する かのような調子のトンチンカンな反応があちこちで見受けられたので, たぶんいろんな人におかしなことを聞かれたり言われたりしたんだろう なーなどとつまらんことを思いました.

なお,8月に彼らがO(log12n)時間の アルゴリズムをWebで発表して以来, 11月現在ですでに3回くらい結果が改善されている,とのことでした. 『私が最後に聞いた話ではO(log6 n) 時間まで来ている』とか. これまたすごい話です. オンラインの Draftしかない状況で, すでにこれですからね….

2003年の ALICE/ SODA:
狙ったかのように近所(Baltimore)なのですが, 1月なので雪が心配です.電車か長距離バスに挑戦して見ようかなーなどと 思っています.

おわりに

私はLAの会誌には『自分よりも後輩の研究者にちょっとでもタメになりそうなこと』 を書けばよいのだろう,と勝手に思っています. 実は STOC/ ICALP, FOCS, SODA, STOC, ICALP と出席した段階では, 自分よりも若手の日本人研究者に,ほとんど会いませんでした(O阪大学のM野さんは, 広い意味で同年代ってことにしておきます). そんなわけでTさんに記事を頼まれた時に, 恥をしのびつつ『もっと国際会議に出ましょう…たとえ自腹でも』という テーマで書くことにしたのでした.ところが今回Vancouverでの FOCS/ ISAAC に行ってみたら,日本人参加者が非常に多く(20人以上!!), 特に私よりもずっと若手の研究者の方もずいぶんおられました. そんなわけで,うれしく思う反面,記事を書く動機がだいぶ薄れてしまいました. あわてて『``PRIMES is in P'' をナマで聞いた』と言うのを 追加したのですが,今回の記事はなんとなく途中で勢いが失速しています. でもそれは,そういう『うれしい事情』ですので許して下さい.

おまけ

私は,LAの会誌にURLを書くたびに『こんなの手で再入力するのは面倒だよな〜』 と常々思っておりました.だいたいURLって文章の中にも参考文献の中にも収まり が悪いですし.そこで,私がLAの会誌に書いた記事については 独断でWebで公開することにしました.具体的には

http://www.jaist.ac.jp/~uehara/etc

から,昔書いた記事も,そしてこの記事そのものも, たどって見ることができます.以前の記事の中のURLは, すべてハイパーリンクにしておきました. また,この記事中にはURLは一つしか出てきませんが, Web版では,それぞれの国際会議のページへのリンクも張っておきました. もちろん ``PRIMES is in P''のドラフトへのリンクもあります. よかったら使ってみて下さい.あ,それから,他の方もできたら Webで公開しませんか….相互にリンクを張っていけば,LA会誌 のオンライン版ができあがっていって,何かと便利そうです. もちろん紙版は紙版で,ヒマな時にパラパラ見る,とか, いろいろメリットがあるので,なくなると困るんですけどね….


Last modified: Fri Dec 20 12:00:21 EST 2002
by R.Uehara (uehara@jaist.ac.jp)
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