NHC国際会議顛末記 その1 プログラム委員長のお仕事

徳山豪
東北大学大学院情報科学研究科

上原さん(以下、敬称は「先生」でなく「さん」を使います)から、 「どうやって講演者を集めたのかノウハウを教えて」という要求があって、 この文章を書いています。 NHC国際会議では 21名の世界のトップ研究者(国外から19名)を招待講演者として集めたので、 傍から見れば大変な作業に見えたかもしれない。 でも、「難しいことなかったのよね、 だから今後同じようなお役目をやる人も心配しないで引き受けてね」というのが趣旨です。

特定領域研究の初年度は実際の活動期間が短いですから、初年度内に大きな国際会議を開催しようとすると、 時間的に準備が切羽詰ったものになります。 「新世代の計算限界」でもヒアリングが終った6月14日の直後から リーダーの岩間さんは国際会議の準備に向けて活動を開始していたようです。 私がその辺の事情をはじめて知ったのは、ICALP国際会議の席上(7/12)で、 ご存知マグナス・ハルドーソン(アイスランド大学)から“Hi Takeshi, Can I ask you a favor?”と声を掛けられた時です。 直前のSWAT国際会議(7/8-10、デンマーク)でも一緒だったので、SWATのSpecial Issueの査読でも頼まれるのかしら と思っていると、「SWATで岩間さんから、国際会議のアレンジを頼まれた。 ついては、計算幾何学などの講演者を紹介して欲しい」とのこと。それくらいならお安い御用なので、 ”Sure, I will help you whatever I can.” とドンと胸を叩いたのがことの始まり。 ちなみにSWAT会議では岩間さんと私は「エーイ、人事は尽くした。もう天命を待つしかない。 後のことは採択されてから考えよう。ともかく乾杯」といってビールを飲みまくっていたはずなのに…

ともかくこの時点では、PC Chairはマグナスで、私は単なるHELPだったのですが、 特定領域の採択の内示があり、帰国して7月20日、来ました、岩間節のお電話が..

「お願いがあるんだけど。 あのさあ、例の国際会議だけど、マグナス、どうもすごく忙しいらしいんだ。 で、徳山さん、一緒に計画してくれない? 講演者を集めるだけで、あとのLocalな事は全部うちでやるから。」

“Whatever I can” と請合ってしまっているし、Noとはとても言えません。 岩間さんの要求は、ともかく一流の研究者を多数呼ぶ。米国DIMACSやドイツ Dagsthulで行うワークショップのように研究者同士(日本側も含めて)が Discussionできるようにする。だから午後にはDiscussionできる自由時間をたっぷり取る。 期間は2月中旬(後日2/28--3/3に変更)で、「4日間やる」とのこと。 「後は全部任せる」ということでした。

会議全体のストーリーと特定研究の3つのグループ (モデル、アルゴリズム、下界)それぞれに対応するテーマを考えて 「最近、斬新なモデルや画期的なアイデアの論文を発表している研究者」かつ「講演が上手い研究者」を お互い考えてくるという事で、まずは候補者のリストを考えて私がまず送ったのが8月初め、 ところがマグナスがSODAのPCやらで超多忙で、彼からのコメント付きで候補者リストを送ってきたのがもう9月はじめ… そこから分野の重複を絞って出来た初期リストが約30名になりました。 ちなみに、会議では若手が多かったですが、年配の人でも、最近面白い仕事をしている人には声を掛けました。 たとえば、「Richard Karpのエントロピー基準での近似アルゴリズムの発表(ICALP04)は面白かったから呼ぼうか」とか…

次は招待状の文面ですが、これは英語の問題もあり、マグナスが作成。 条件ははっきり書いてあり、基本的に交通費(科研費ですからDiscountエコノミー)、 宿泊費、定額の講演料を払う。「Theory Communityの相場を崩さないように」という事を踏まえて、 講演料は通常の役務対価相当。 招待講演は彼らに取っても名誉ですし、業績になりますから、お金を積む必要はないということ。 ただ、例えば上述のKarpさんにこの条件で招待状を出すのは少しびくびくしたのは事実。 この時点で、会議の仮の名前を決めないと招待状が書けないので、 まずは独断で“Recent Trends in Theoretical Computer Science”にしました。 これは後では会議の副題になりました。 手紙はこんな風に始まります。

It gives me great pleasure to extend an invitation to you to speak at the following symposium, to be held in Kyoto, Japan, from February 28 to March 3, 2005.

The title of the meeting is "International Symposium on Recent Trends in Theoretical Computer Science" and is sponsored by a project titled "New Horizons in Computing" recently awarded funding by the Ministry of Education in Japan for five years. This is meant to be a grand kick-off of this project.

次の問題は、どのような順番で招待状を送るか…OKを頂いて、 後から「招待者が多すぎたからごめん」とは言えないので、 オンラインアルゴリズムを設計しないといけない。 まずはラウンド形式のオンラインアルゴリズムを採用する事に決定し、 分野や会議のテーマを考え、候補者の少ない分野や、 どちらかというと来てくれる確率の低い人から先に招待状を送ったのが22人ほど。 この時点でマグナスと私は14名の招待講演者を考えていたので、 目標歩留まり50%でまず11名確保してと思っていると、 岩間さんから「14名では少ない。朝8時半から会議を開始すればもっと呼べる」 とお叱りが.… で、10名ほどから参加不能の返事が来た時点で追加(岩間さんや定兼さんからのご推薦もあり)して、 計35名ほどに招待状を送りました。 ちなみに、岩間さんは計算理論の研究者とは思えないほど、Worst Caseを想定しないお方です。 18人(特定研究評価者のDiazさんを入れて19人)全員揃ったのが11月10日。 最初の招待状を送ってから50日目。 講演題目は講演者にお任せしたのですが、Computational Biologyのモデル2件、 Stochastic Programming 2件、Streamや二次記憶アルゴリズム3件など、 まとまったストーリーで新しいモデルの話が紹介されて、私としては予定通りで大満足でした。

最中で一つだけトラブル。2日目だけ主会場が確保できない事態が発覚したことで、 おかげで本当に「8時半開始」になってしまいました。 その辺の事は伊藤さんが書いてくれると思いますが、2日目にやるイベントを考えなくてはいけなくなって、 スケジュール上どうしてもこの日にというリクエストのあったお二方の講演の外に、 エクスカージョンとShort Talkセッションを企画。 私とマグナスの心配は、Short Talkが山のように集まるのではないかという事。 ところが実際には、応募はたったの2件(あとは、私が指名して話してもらった)。 マグナスと二人で、「日本の研究者には自己顕示欲がないみたいだね」と嘆いたのですが、皆さん、どう思われますか? 例えば将来STOC-FOCSに論文を通したいのなら、国際ワークショップやセミナートークで 「PCに入りそうな人」の前で話しておくのは非常に大切なのだけど…

いろいろとエピソードやらTIPやら..

その1:
マグナスによる人物評が的確で面白かった。 学術的な見地と、講演者としての特徴があって、 後者のほうでは(彼は困惑するかもしれないが、許してもらうとして)、 などなど。 参加された方は「なるほど」と思うはず。 では、一体私はどのように評されているのだろうか?とても不安。
その2:
Responseは非常に早い。特に参加する(yes)の場合はこちらが指定した期日より前にきちんと返事が来ます。 少なくとも念押しすると即日返事が来るという感じ。
その3:
Yesの確率は、知り合いであればあるほど高い。「国際会議で話した事がある」レベルだと、 20%程度の確率。まじめにResearchの話をしたことがある、 あるいは1日以上付き合った場合は、スケジュールさえ合えば大体OK。 断られる理由は、 「既に他の会議が入っている(例えばバルバドスで計算理論のワークショップがあった)」というのと 「もうこれ以上授業がサボれない」がほとんど。 Actionが遅いともっと沢山断られたかもしれないし、 これは典型的な断り文句なのかも知れない。 会議のObjectiveを詳しく教えてくれという要請もかなりあった。
その4:
会議の案内を見てから「自分も話したい(このトピックをObjectiveに入れるべきだ)」 という売り込みも(アメリカの優秀な研究者から)ありました。失礼のないようにお断りいたしました。
その5:
私はいいかげんな性格なので、招待者たちの名前のスペルを頻繁に間違えて、 マグナスにその都度訂正されました。名前だけは間違えないようにしましょう。 スペルだけでなくて、会場で、Uriel Feigeにセッションチェアを頼んだら、 “OK. At least I can pronounce names correctly”と皮肉を言われた。 私はずっと彼の名前の発音がファイゲだと思っていた… ウリとしか呼んだことがないので。 まあ、彼も一度FOCSの講演で私と玉木さんを間違えたことがあるから、おあいこかなあ。

以上。マグナスと一緒だったからかも知れませんが、楽しいお仕事でした。 再来年は仙台で開催予定のISAACのPC Chairをやらしていただけそう(?)ですが、 皆様、よろしくご協力お願いいたします。


Back to Table of Contents
Last modified: Thu Jul 21 08:19:40 JST 2005
modified/maintained by R.Uehara (uehara@jaist.ac.jp)
Valid HTML 4.0!