微視的構造に基づくバラ花弁の質感表現に関する研究

北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報処理学専攻
像情報処理学講座  寺戸 育夫  



■ 研究の概要

私は大学で、 『フォトリアルなバラのCGをいかにして描くか』というテーマで研究を進めています。 特に花弁の質感は結構やっかいで、 一般的なCGソフトが備えている PhongモデルやBlinnモデルといったシェーディングモデルでは、 どう頑張っても表現できない光の反射特性を持っています。

花弁の表面を顕微鏡で拡大して見るとドーム形状の細胞がいっぱい並んでいて、


これが花弁の質感に大きく影響しているようなので、 目に見えないくらい小さなスケールまで光の反射や透過をちゃんと考慮する必要があります。 ちなみにドーム形状1つの幅は20μmほど、高さは40μm弱です。 花弁1mmの間に50個ものドーム形状が並ぶ計算になります。

密集しているドーム形状を生成するプラグインを作ったり、 その効果を花弁の表面に貼りつけるシェーダを作ったり、 ということにSoftimage を使っています。



■ CG生成例

同一の撮影・照明条件の元で、 の比較を行ってみました。

花弁表面に白っぽく表れる質感が花弁のどの位置に出ているかが、 特に注目して頂きたいポイントです。


〔バラ花弁全体図〕
写真 従来手法 本手法



〔左下の花弁を拡大し、ハイライト部分を強調した図〕
写真 従来手法 本手法




■ 考察

カメラをバラに対して真正面、 無限遠光源を右斜め上の手前の位置に設定すると、 Softimage 標準のシェーダでは、 従来手法を用いて生成したCGに見られるような部分にハイライトが表れます。 パラメータをどうイジってもハイライトの表れる部分が写真に近くなることはありません。 従来手法では物体の表面がほぼ平坦であると仮定されているためです。

一方、 花弁の表面にドーム形状の細胞が密集していると仮定した本手法により生成したCGでは、 ドームの表面に小さなハイライトが表れ、 それが花弁全体に点在することになり、 ごのような質感を見せます。 写真とかなり似ている質感になっていると思います。

花弁全体図のCGで、 バラがとろけてしまってるような形になってるのはあまり気にしないでください。 これは、レーザーレンジファインダを使って、 実際のバラから取り込んだ立体的な形状データを使っているのですが、 小さくて複雑な形状は苦手なのか、花弁同士がみごとに融合してしまいました。 しくしく。



EQO / eqo@jaist.ac.jp (Terado Ikuo)