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第1回COEアドバイザ−委員会

・辻井 重男  情報セキュリティ大学院大学学長
 
本COEは、現代社会の再構築に不可欠な未踏領域を拓く先駆的学術活動を行っている。

情報・通信技術が大きな要因となって、例えば、放送と通信に見られるように諸分野間の連携・
融合が進展し、またグローバル化が進んでいる。つまり、地球規模の技術的なネットワーク化は、
同時に、社会的なレベルでのネットワーク化を推し進め、国際的規模で社会の構造と機能を連続
化している。その結果、社会基盤としての法律や制度は、至る所で、不整合を生じている。著作
権について一つの例を挙げれば、CATVは放送として扱われているが、他方、実質的には放送
であるIPマルチキャストは、著作権上は通信として扱われるため、同じ著作物であっても異な
る扱いを受け著作物の利用に問題を生じている。

 より大きな問題は、知的財産法、著作権法や個人情報保護法などの例外はあるが、現在の法律
が、刑法をはじめとして有体物を基本に定められており、今後、情報窃盗を始めとする情報に関
する法整備が求められているところである。また、法律の国際的不整合は経済活動に支障をきた
すため、会計法や企業統制法(SOX法)などの国際的標準化が進められており、日本版SOX
法の制定が進められている。

 特に、日本の社会は、これまで、組織の内部に矛盾を抱えながら、法の解釈などで運用されて
きた面が強く、また、建前と実態が乖離してきた傾向が多く見受けられた。今後、IT化の進展
は、好むと好まざるに拘わらず、わが国を内部規範社会から契約型社会に変質させ、必然的に、
法の論理がより貫徹され、倫理観と法の整合性がより求められる社会へ移行させることは疑いな
い。このように、IT社会は、今後、様々な法律や制度を、総合的視点から論理的に、且つ可能
な限り無矛盾に設計するという難しい課題を抱えている。

 この難題は、法律家の個々の専門知識の持ち寄りだけでは解決されず、本COEにより提案さ
れている手法が不可欠である。経済学の分野では、理論経済学や統計経済学などの分野があり、
数学的手法が活用されている。本COEの目指すところは、経済学における理論経済学の構築に
譬えられる壮大なものでなければならないと評者は考えている。尤も、経済については、そのよ
うな手法は現実経済の理解にも政策提言にも有用ではないと佐和隆光氏は述べているが(日本経
済新聞、2006年5月2日朝刊)、法制度の分野に関しては、高度な論理的・数理的手法が有効
に適用できる筈であり、それなしに、今後の法律や諸制度の基盤確立は期しがたい。

そのためには、通常のCOEとは桁違いの陣容と予算が必要であり、国家的規模の社会技術と
して研究すべきであろう。本COEが、そのためのマイルストーンとなる様な基礎的・学術的成
果を挙げられることを期待している。

(注)辻井重男氏は当日ご都合により参加不可能の為、4月28日個別説明に伺いコメントを頂いた。
 
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