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実験AI哲学研究室

AI×実験哲学による言語と心の探究

実験AI哲学研究室 X-AI-Phi Laboratory
准教授:水本 正晴(MIZUMOTO Masaharu)

E-mail:E-mai
[研究分野]
分析哲学、認識論、実験哲学、心の哲学、言語の哲学
[キーワード]
知識、言語、心、AI、計算、ウィトゲンシュタイン

研究を始めるのに必要な知識・能力

最も必要な資質はただ考えることが好きなこと、また、自分の専門に限らず言語、数、宇宙、意識、自由、幸せなど広く興味を持ち、探究してみたいと思っていること、ある程度の英語力も求められます。

この研究で身につく能力

自分の本当に興味のある問題をアカデミックな仕方で探究する能力、研究する上で必須となる概念的な分析能力および思考を論理的に整理し自分の議論を組み立て、説得的に展開する力、データ収集と分析の能力。

【就職先企業・職種】 雇用支援コンサルティング、伝統産業、人材派遣会社、メーカー

研究内容

本研究室は分析哲学の中でも実験的・経験的アプローチから哲学的問題を探究する「実験哲学」に基づき、言語、心、認識、倫理、あるいはそれらとAIとの関連を研究しています。本当に哲学的な探究が好きであればどのようなテーマでも構いませんが、私の研究との関係で以下のような問題に関心があればなおよいでしょう。

1.AIと規則、意味、言語、計算、心:ウィトゲンシュタインは「規則に従うこと」の考察を通し言語と意味について多くのことを明らかにしましたが、それは彼の数学の基礎の探究とも結びついていました。彼は講義の中でのチューリングとの直接の対決を通し、「チャーチ・チューリングのテーゼ」の意味を問いかけましたが、それはまたチューリングの後の「チューリング・テスト」の考えと密接に結びついていました。近年、LLMの登場などにより再び AIへの関心が高まってきましたが、「機械は考えることができるか」の問いの本質は変わっていません。考えているように単に「見える」だけと「本当に」考えていることの違いとは、そこで重要となる「志向性」とは、あるいは「意味」とは、そしてそれらにとって本質的な規範性とは何なのか、こうした問題の本質を考えてみたい方は歓迎します。

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〈Know howの帰属の違い(Mizumoto(2024)より)〉

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2.実験哲学:21世紀より、哲学者は続々と実験を行うようになり、これまで哲学者の頭の中で行われてきた哲学が、経験的データにより審判を受けることになった。結果として道徳的ジレンマ、自由意志、人格の同一性、など様々な伝統的トピックが実験哲学により科学的な探究へと置き換えられようとしてます。また、「ノーブ効果」のように新たな哲学トピックも実験哲学から生まれています。特に興味深いのは、哲学的に重要な基礎的概念の文化差・言語差です。例えば英語の ʻknowʼ の翻訳は「知っている」の他に「分かっている」がありますが、実験哲学によりこれらの使用および意味に大きな違いがあることが明らかになっています。その他にも ʻknow howʼ や真理述語(「真だ」「本当だ」)、意図(「わざと」)、など我々が普段使っている言語の背後にある概念は、調べてみると意外な特性を持っていることが続々と明らかになっています。そしてこうした概念の他の文化や言語との比較研究は、まだまだ始まったばかりで大きな可能性を秘めています。

3.AIの哲学:近年の急速なAI の発展は、哲学も変えようとしています。実験哲学が哲学の伝統的トピックを経験的探究に変えたように、認識論、心の哲学、言語の哲学といった伝統的トピックをAIの観点から捉え直す動きが始まっています。またこれは、AI技術による社会の変化を概念のレベルで捉えることに繋がります。人類の歴史の中でも「心」「知識」「言語」などの基礎的概念が大きく変化する瞬間を我々は目撃しようとしています。これを捉えるのは実験哲学以外にありません。さらに哲学は、(人間でも解決できないため)AIでも解決できない問題を日々生み出し続けており、将来AGI(一般人工知能)の重要な(最後の?)ベンチマークを提供すると考えられており、AI研究者や開発企業が最後のフロンティアとして真剣に哲学に取り組み始める時代がもう来ています。伝統的哲学も、AIの時代にますます価値が高まっていくでしょう。

以上の基本的な問題関心から、近年、本研究室の学生は、例えば

  • 自動運転車の安全設定の選択と事故の責任
  • 医療現場におけるAIの導入と責任の問題
  • AIのセキュリティー事故に対する原因と責任の帰属

などに実験哲学的アプローチで取り組んでいます。

主な研究業績

  1. 水本正晴『チューリング vs. ウィトゲンシュタイン:計算、AI、ロボットの哲学』勁草書房(2012)
  2. Mizumoto, M., Stephen Stich and Eric McCready (eds.) (2018) Epistemology for the Rest of the World. Oxford University Press.
  3. Mizumoto, M., Shane Ryan and Chienkuo Mi (2025), “The Credit View and AI Testimony: A Cross-Cultural Epistemological Study of Human and AI Testimony” Artificial Intelligence and the Future of Human Relations: Eastern and Western Perspectives, Springer

使用装置

オンラインアンケート調査サービス、統計分析ソフト、LLM

研究室の指導方針

毎週1回ゼミを行います。何が自分にとっての本当に興味ある問題なのか、そしてそれをどう研究していけばいいのかから出発し、それが決まった後はその進捗を発表してもらいます。方法論は、適切であれば経験的手法でも構いません。いつの間にかとても哲学とは言えない研究になったとしても、むしろ歓迎します。あくまで言われるのではなく、自ら研究の方法についても調べ、進め方についても自分で管理できるようなりましょう。具体的な助けであれば、いつでも力になります。この研究室をステップとして世界に羽ばたいていく手助けができればと考えています。

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