
人間の思考はプログラム可能?
※新規の学生受入は行っていません東条研究室 TOJO Laboratory
教授:東条 敏(TOJO Satoshi)
E-mail:
[研究分野]
情報科学、人工知能、自然言語、音楽情報処理、数理論理学
[キーワード]
法律推論、知識と信念の論理、エージェント・コミュニケーション、進化言語学、生成論的音楽理論
研究を始めるのに必要な知識・能力
基礎的な数学、特にグラフ理論やオートマトンなど離散数学に関する知識。英語の文献が読めること。そして何よりも人間の知能について興味を持ち、その不思議さを感じるセンスがあること。
この研究で身につく能力
(1)問題発見力:知能は宇宙や生命と並ぶ科学哲学です。数十億個のニューロンの集まりがなぜ一個の自我を生み、一つの知能を持つのでしょうか。言語や論理と向き合ううちに、科学哲学の本質にある問題発見をしてほしいと思います。(2)問題解決力:知能の研究はいったい何の役に立つのでしょうか。科学哲学からプラクティカルなところへ視点を移せば自分が寄与し解決した問題が見えてきます。(3)文章表現力およびプレゼンテーション能力:すべて研究は他人を説得できてこそ価値が認められます。発見した問題とその解決を他人に訴えるには正しい日本語・英語と視認性の高い資料作りが必要です。(4)周辺学力:おまけとして数理論理学と英語が少しできるようになるはずです。
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研究内容
(1)エージェント・コミュニケーション:
会話によって意図を伝えるとはどういうことでしょうか。人と人、あるいは人とコンピュータが信念を共有できるということを形式的に表現できないものでしょうか。このテーマではコミュニケーションによる知識の増加と無矛盾性の維持について考えます。下図ではφという知識をエージェントaからbに渡すようすです。bはaがφを既に知っていたことも知ります、aはbが新たにφを知ったことも知ります。それではみんなにわかるようにパブリックに告知するとき、一人にそっと告知するとき、一人に告知はするものの告知したこと自体はパブリックに知られてしまうとき、各エージェントが保有する知識はどんなふうに記述できるでしょうか。われわれはこの記述手段としてDynamic Epistemic Logic (DEL)を用います。
(2)法律の論理性を考える:
法律がわれわれの社会を支える根幹となるためには、何より法律文に論理性があることが必要です。このためには法律文の論理表現やその中の用語の概念階層を考える必要があり、それらを組み合わせて論理的一貫性を検証する手法を考える必要があります。特に法律の判断には直観主義論理(intuitionistic logic)がふさわしいようです。例えば「あることを立証できないならば、そのあることは偽である」は間違った法的判断であり、ただまだ証拠がそろわないだけです。このような事態を表現するためには一時的にʻunknownʼな状態を許容する必要があります。また法的判断には因果関係の自覚、事実誤認、回避責任の不履行、予測可能性など実にさまざまな込み入った概念が現れます。このような概念を論理で表現するためには非古典論理が必要です。
(3)言語の進化と獲得:
赤ちゃんは賢い知能を持っています。親の発したことばから共通部分を抜き出して変数化し、構成的な文法規則を組み立てることができます。次の図においては赤ちゃんは「ママは酒飲みなのよ」という、聞いてもいない文を構成できることになります。この赤ちゃんが次の世代に親になり、またその子に文を多数発し、その子がまた文法化を行い…というプロセスを繰り返したら、表現可能な文はどんどん増えていきますが世代間でどのくらい言語は共有されるでしょうか。この研究はこのような繰り返し学習モデルの効率化と言語間距離を考えます。
(4)楽譜の文法化:
音楽と言語は起源を記共有するものであり、同じ咽喉と耳を使って伝達します。するとレナード・バーンスタインも指摘したように言語と同じようなチョムスキー的な句構造が構成できるはずです。この研究では楽譜に木構造を付与し、そこから音楽の骨格構造の認識し、さらに楽曲間の距離を較べたり、骨格にもとと異なる音を付与して計算機による自動編曲を実現します。
主な研究業績
- Dynamic Epistemic Logic for Channel-Based Agent Communication, Katsuhiko Sano and Satoshi Tojo, Fifth Indian Conference on Logic and its Applications, Springer 7750, 109-120, 2013
- Computational Reconstruction of Cognitive Music Theory,Satoshi Tojo, Keiji Hirata, Masatoshi Hamanaka,New Generation Computing,vol. 31,No. 2,pp. 89-113,2013.
- 進化言語学の構築「われらの脳の言語認識システムが生み出す音楽」,東条 敏 他,ひつじ書房,2011
使用装置
学内の並列高速計算機
研究室の指導方針
(1) マイル・ストーンを立てよ。人間は欲望に勝てないもの、外から与えられた〆切を自分に課そう。(2)数式を愛でよ。そこには著者が主張したいことが凝縮されて洗練されて書かれてある。(3)急がば読め。文章を書かなければならなくて、かつ文章が浮かんでこないならば、それは頭の中に書くコンテンツがないからである。急いでいるときこそ文献にあたり知識を仕入れよ。(4)記号は正しく。正書法はマナーでありモラルであり、読者に対する礼儀である。(5)英語!英語をサボったところで損するのは自分である。あきらめて英語を身につけよう。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/is/labs/tojo-lab/