本文へジャンプ
ナノ物性顕微探索研究室

リチウムイオン電池の動作実態をナノスケールで可視化する:データ科学と電子顕微鏡の融合

ナノ物性顕微探索研究室 
Laboratory on Microscopic Nano-Characterization
講師:麻生 浩平(ASO Kohei)

E-mail:E-mai
[研究分野]
AI駆動ナノ物性顕微解析
[キーワード]
リチウムイオン電池、固体物性、ナノ物質、ナノ計測、計測技術、データ科学、電子顕微鏡

研究を始めるのに必要な知識・能力

研究テーマと真剣に粘り強く向き合う意志、自律して考え手を動かす主体性、課題解決に向けて他者と協働する力――これらを重視し、身につけたい学生を歓迎します。研究活動の一部にでも面白さを見いだし、前向きに取り組める姿勢が望まれます。データ科学、電子顕微鏡、固体物性のいずれかに興味があると望ましいですが、入室時点での専門知識は必須ではありません。

この研究で身につく能力

機能性材料のナノスケール構造・物性解析に必要な知識と技能を、分野横断的に修得します。走査透過電子顕微鏡(STEM)像や電子回折図形について、観察条件が結果に与える影響を意識しながら解釈し、得られたデータと明らかにしたい材料情報との対応関係を整理します。その上で、目的に応じた画像処理・解析手法を選択して試行し、妥当性を点検したうえで結論を導く力を養います。さらに、観察・解析結果を結晶構造や物性と結びつけて位置づけ、解釈を深めます。
技術面では、STEMの基本操作とデータ取得、Pythonによるデータ科学(画像処理・計算・可視化)を習得します。研究を通して、文献読解・要約、他者に伝わりやすい文章・図・発表スライドの作成、議論の進め方を訓練します。

【就職先企業・職種】 電気・材料メーカー、材料分析会社、大学の研究者や技術職員など

研究内容

aso1-e.jpg
図1: a. 層状正極(LiCoO2)の結晶構造モデル。b. SNEDの模式図。実験(c)と計算(d)の電子回折図形。実験(e)と計算(f)のケプストラム;中心以外の明るいスポットが結晶構造に由来する。(g)結晶構造マップ。青、緑、赤色が強いほど、それぞれ層状、岩塩、スピネル構造であることを示す。

 機能と結びつくナノスケールでの材料の実態を解明するために、データ科学と電子顕微鏡を融合した手法開発を進めています。具体的な研究テーマの例は以下の通りです。

  1. 全固体リチウムイオン電池材料の動作下ナノ解析
  2. 結晶構造・イオン伝導を可視化するナノ解析手法の開発
  3. 2次元材料などがもつ原子スケール観察および欠陥・ひずみのAI駆動定量解析

以下では、2の一部を紹介します。

結晶構造を可視化するナノ解析手法の開発

 リチウムイオン電池(LIB)は生活に欠かせない蓄電デバイスです。正極には層状構造をもつ材料が広く用いられます(図1a)。近年、LIBのさらなる性能向上を目指して、正極で起こるナノスケールの構造変化を理解する重要性が高まっていますが、未解明な点も多く残されています。
 私たちは、STEM手法のひとつである走査ナノビーム電子回折(SNED)に注目しました(図1b)。SNEDは、約1 nmに絞った電子線を試料の各位置に照射し、回折図形を取得する手法です。しかし、回折図形には、試料の厚みや傾斜など、結晶構造に由来しない成分も重なります(図1c,d)。そこで、回折強度を対数変換してフーリエ変換したケプストラムを用いることで、結晶構造に由来する成分を強調でき、実験と計算を直接比較できるようになりました(図1e,f)。
 結晶構造マップ(図1g)を得た結果、正極の大部分はもとの層状構造を保持していました。一方、電解質との界面から正極側へ約3 nmの領域では、電池性能低下に関わるスピネル・岩塩構造を見出しました。約1 nmの高空間分解能、約300 nm四方の広視野、観察中の試料損傷の抑制を両立して、結晶構造を可視化することに成功しました。
 現在は、イオン伝導の可視化、充放電中の全固体LIBの動作下観察へと研究を展開しています。LIBの設計・合成に貢献しうる新たな知見の獲得を目指します。

主な研究業績

  1. K. Aso, T. Kakeya, T. Tsuchida, H. Ito, S. Asano, K. Watanabe, K. Mitsuishi, K. Kimoto, K. Shinoda, T. Masuda, M. Hirayama, and Y. Oshima,  “Low-Dose Nanoscale Visualization of Crystal Phases in Epitaxial Cathodes via Cepstral Matching of Scanning Nanobeam Electron Diffraction”, Nano Letters 25 (2025) 15840
  2. K. Aso, K. Higashimine, M. Miyata, H. Kamio, and Y. Oshima, “Three-dimensional atomic-scale characterization of titanium oxyhydroxide nanoparticles by data-driven lattice correlation analysis”, Communications Chemistry 8 (2025) 122
  3. K. Aso and Y. Oshima, “Precise positional alignment of atom-resolved HAADF images of heteroepitaxial interface with low signal-to-noise ratio”, Microscopy 74 (2025) 57

使用装置

走査透過電子顕微鏡、解析用ワークステーションPC、集束イオンビームつき走査電子顕微鏡、電子顕微鏡用特殊ホルダー、電気化学測定装置、グローブボックス

研究室の指導方針

 具体的な研究テーマは、学生各自の関心を踏まえて相談のうえで設定します。相談しやすい雰囲気のなか、週1回程度の個別面談を実施します。実験は共同研究先とともに進める場合が多く、主導的に共同研究を進める経験を積みます。研究室内ミーティングでは論文紹介や進捗報告を行い、質疑応答を通して理解不足や論理の飛躍を修正します。生成AIの活用は推奨しますが、一次情報の確認と出典の明示を徹底し、最終的な責任は発信者が負うことが前提です。成果は外部に通用する水準の論文としてまとめることを目指します。学生が教員と密に連携して先進的な研究に取り組み、高い専門性を獲得して卒業していくことを到達目標とします。

[研究室HP] URL:https://www.jaist-oshima-labo.com/

ページの先頭へもどる