
実験と理論の融合による
新しい熱電材料の創製
小矢野研究室 KOYANO Laboratory
講師:宮田 全展(MIYATA Masanobu)
E-mail:
[研究分野]
熱電変換、固体物理
[キーワード]
実験、第一原理計算、熱電変換材料、電子・フォノン輸送現象
研究を始めるのに必要な知識・能力
研究活動においては固体物理がメインとなりますが、生物・化学・物理等どの分野からも歓迎します。 基本的な体調管理能力はもちろん、研究活動では、固体物理学、量子力学、応用物性数学、Linuxの基礎知識が必要となるため、入学後に勉強することになります。
この研究で身につく能力
私どもの研究室では、計算科学と実験を協奏的に活用することで、環境負荷の少ない新しい熱電材料の創製を目指しています。これら研究活動の成果を、毎週のミーティングでディスカッションし、応用物理学会・日本熱電学会や国際学会で発表することで (1)実験・理論計算を絡めた固体物理の基礎力,(2)研究者として必要な思考力・研究推進力,(3)自身の成果を外部へアウトプットするプレゼンテーション能力,が身につきます。
【就職先企業・職種】 製造業
研究内容

Bi-Te熱電材料が指の体温と室温の温度差で発電する様子
SDGs(Sustainable Development Goals)に始まり、持続可能な社会の構築を目標として省エネルギー、カーボンニュートラル、ゼロエミッションへ向けた取り組みが世界的に行われています。熱電変換は熱エネルギーと電気エネルギーを直接相互変換できる唯一の物理現象であり、非常に小さな温度差でも発電が可能、かつ温室効果ガスが発生しないため、新しい再生可能エネルギーとして注目を集めています。
現在、最も広く応用されている熱電材料はBi-Te熱電材料ですが、テルルTeは白金Pt並みの地殻埋蔵量と希少のため、量産する上で問題となります。我々の研究室では主に、希少元素をなるべく含まないTeフリー熱電材料として、硫化物、リン化物熱電材料に注目して新規熱電材料の創製の研究を行っています。
- 計算科学を活用した環境調和型熱電材料の探索
近年、コンピューターの計算能力の向上に伴い、計算科学が目覚ましい発展を遂げています。熱電材料の探索や物性解析においても、計算科学は非常に強力なツールです。我々は、熱電材料に特化した計算スキームにより、第一原理計算による電子・フォノン輸送計算から、大量の結晶構造の熱電性能を予測するハイスループット計算により、候補となる熱電材料の探索を行っています。 - 実験による熱電材料の合成・構造解析・物性評価
計算によって選定した候補材料を、実際に実験で合成し、構造評価・物性測定まで自分達で行います。石英封管を用いた溶融法、化学気相輸送法、フラックス法等に加えて、メカニカルアロイ法による非平衡合成等、様々な合成方法を駆使して材料の合成を行っています。合成した試料は、粉末X線回折装置や走査型電子顕微鏡等の装置を用いて構造評価を行います。物性評価は約-270~+400℃までの広い温度領域で行い、低温物性における熱電材料の電子・フォノン輸送現象の学術的研究から、応用で最も活用される室温以上での熱電性能の研究まで幅広く手掛けています。 - 実験と計算の融合による電子・フォノン輸送メカニズムの解明とマテリアルデザイン
実際には、計算から予測された熱電性能が実験値と異なるケースが多々あります。それは、計算で仮定したモデルが実験と異なるため、実験で合成した試料に欠陥・不純物や粒界が存在するため、など様々な要因があります。こうした計算と実験の差を詳細に解析することで、計算または実験の一方だけでは分からなかった新たな物理的起源を明らかにし、実験と理論の融合による新規熱電材料の材料設計指針の確立を行っています。
左:硫化物のハイスループット計算
中央:リン化物の電子バンド構造、右:合成した単結晶の写真
主な研究業績
- Transport properties of binary phosphide AgP2 denoting high Hall mobility and low lattice thermal conductivity, M. Miyata and M. Koyano, Materials Research Express 9(5), 055901-055914 (2022).
- Anharmonic vibration of Ag atom in low lattice thermal conductivity chain structure phosphide Ag3SnP7, M. Miyata, Journal of Applied Physics 130, 035104-035112 (2021). [Editor’s pick]
- High-Throughput Screening of Sulfide Thermoelectric Materials Using Electron Transport Calculations with OpenMX and BoltzTraP, M. Miyata, T. Ozaki, T. Takeuchi, S. Nishino, M. Inukai, and M. Koyano, Journal of Electronic Materials, 47(6), 3254-3259, 2018.
使用装置
スーパーコンピューター KAGAYAKI(電子・フォノン輸送計算)
小型ワークステーション (電子輸送計算) 物理特性測定装置 PPMS (熱電物性、ホール効果の測定)
高温熱電物性評価装置 RZ2001i
高エネルギーボールミル装置(メカニカルアロイ法による合成)
研究室の指導方針
本研究室では、熱電変換を中心に実験から理論に至るまで、総合的に研究を推進し、将来的にリーダーとして研究・開発プロジェクトを牽引していくのに必要な能力の習得を目指しています。同時に、おろそかになりがちな体調管理・心身のバランスを自身で取れるよう、定期的なミーティングを開催し、規則正しい生活ができるようサポートします。
実験、計算、または実験も計算もやってみたい欲張りな方、歓迎します!
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/kotai/koyano/index.html