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研究

教員紹介

村田英幸教授

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村田英幸教授

マテリアルサイエンス研究科 村田英幸教授

九州大学博士(工学)
三井石油化学工業機能材料研究所研究員、米国海軍研究所研究員、ロンドン大学インペリアルカレッジ化学科シニアレクチャラーを経て2002年より本学勤務。科学技術振興機構さきがけ研究者(2002〜2005年)。2009年より現職。
専門は半導体を用いた有機エレクトロニクス(有機エレクトロルミネッセント素子・太陽電池・有機メモリーおよび有機センサー)に関する研究。

有機半導体をベースとしたエレクトロニクスは、日本が世界をリードしてきた研究分野のひとつであり、近未来のユビキタス社会で重要な位置を占めることが期待されています。
マテリアルサイエンス研究科の村田教授は、常に産業応用を意識しつつ、有機エレクトロニクスの化学や物理の基礎研究を進めています。

薄く、軽く、柔らかい 有機ELの可能性を広げる「耐久性」を検証

もともと電気絶縁体である有機物質の電気伝導性に関する基礎研究は、世界に先駆けて日本で始まりました。従来、有機材料を使ったデバイスはコピー機の感光 体ドラムなど用途が極めて限られていましたが、ここ30年でディスプレイや照明などの「有機ELデバイス」を中心に目覚ましく研究が発展しています。
有機ELとは“エレクトロ・ルミネッセンス”、すなわち、有機物に電圧をかけることで有機物自体が発光する現象のことです。すでに有機ELテレビが実用化 されているほか、スマートフォンのパネルにも採用され、認知度が高まっています。米アップルも2018年度に発売するiPhoneの新モデルに有機ELパ ネルを搭載すると報道され、話題になっています。
有機ELのディスプレイは、バックライトでディスプレイを光らせる液晶とは異なり、素子一つひとつが自己発光するため鮮明な画像が得られ、かつ消費電力が 少ないというメリットがあります。また軽くてフレキシブルなプラスチック等を基板として利用できることから、壁に貼ったり、紙のように丸めて持ち運びでき るディスプレイを製造することも可能です。

ただし、液晶に比べた際の弱点は耐久性です。有機ELの場合、画素を発光させる発光材料によって耐久性は異なりますが、高効率の青色りん光材料では、2万 時間程度で明るさが半分になることが問題になっています。私たちの研究室では、「有機ELの耐久性はどこまで上がるのか」という課題について基礎研究の観 点から検討しています。
具体的には超高真空蒸着装置を駆使して厳密に制御した環境下で有機EL素子を作製し、その劣化過程をさまざまな条件下で測定しています。これまでに蒸着中 の水分が有機層に混入することで有機EL素子の長期的な劣化が進行することを明らかにしています。この研究で得られる知見は、有機ELだけでなく、有機太 陽電池や有機トランジスタを含めた有機エレクトロニクス分野全体の基盤技術となります。

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研究室で作製した有機ELデバイス

塗って作れる「有機薄膜太陽電池」で変換効率10%を達成

有機ELは電気を流して光を出しますが、有機太陽電池はこれと逆で、光を当てて電気に変える技術です。現在の太陽電池の主流はシリコンを使ったものです が、シリコン太陽電池は20%を超える高い光エネルギー変換効率を誇る一方で、ガラス基板を使うためにパネルが厚く重くなるという点が課題になっています。そこで世界中で進んでいるのが、有機半導体ポリマーを塗布して作製する、紙のように薄くて曲げられる太陽電池です。
シリコン太陽電池は通常、住宅の屋根の上に設置しますが、有機太陽電池は壁を覆ったり、透明にして窓ガラスに張ったりということが可能です。登山用のバックパックやテントに搭載するというアプローチで開発を進めているベンチャー企業もありますし、発展途上国の電力網が整備されていない地域に安価な有機太陽 電池を普及させて電気の光を届けるプロジェクトも行われています。有機太陽電池は、新しい産業や社会貢献を生む可能性を秘めているのです。
有機太陽電池の実用化にあたって重要なポイントとなるのは、シリコン半導体太陽電池に比べて劣る変換効率をどう向上させるかということです。
私たちは理化学研究所との共同研究で、有機薄膜太陽電池の変換効率を10%まで向上させることに成功しました。この値は半導体ポリマーを用いた有機太陽電池の世界最高値11.5%に肉迫するものです。
また大型放射光施設「SPring-8」において、改善した発電層のX線構造解析を行ったところ、素子の上部電極と下部電極付近で半導体ポリマーの分子配 向が異なり、素子の上下方向で電荷の流れやすさが異なることが分かりました。さらにこの構造の素子では、光吸収により発生した電荷が流れやすいように陽極 と陰極が配置されており、これが変換効率向上のカギになっていることが判明しました。この研究成果は2015年5月、国際的に評価が高い学術誌 『Nature Photonics』に掲載されました。今後はこうした観点を踏まえて材料や素子構造の研究・開発に取り組み、さらなる変換効率の向上を目指します。
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発電層の概念図

医療介護分野に、地場産業振興に幅広い分野への貢献を意識

大学の使命は新しい現象や原理を探求することにありますが、同時にそれが社会に役立つことが重要であると私は考えています。
私たちの知見や技術は電機業界に限らず、幅広い分野に役立てることができます。最近では医療介護分野での活用を想定し、助教の酒井先生と共同して、圧力を検知する大面積の有機センサーシートの作製に取り組んでいます。たとえば介護施設の廊下などに敷いておけば、誰がいつどのように歩いているかが分かり、入居者の安全確保につながります。ここには本学知識科学研究科の藤波先生にも関わってもらっており、遠隔見守りシステムの構築や、センサーで読み取った入居 者の行動パターンの変化を転倒事故の予知に結び付けることに挑戦していきます。
有機薄膜太陽電池についても地場産業の振興に貢献する糸口が掴めつつあります。有機薄膜太陽電池は、プラスチック基板に有機半導体ポリマーを塗り、真空蒸着装置で金の電極を付着するなどして作製します。私たちは真空蒸着で金の電極をつくる代わりに、金沢市が国内生産の99%以上を占める「金箔」が電極に使用できることを突き止め、論文にまとめました。2015年5月にこの成果が新聞に掲載されたことがきっかけで石川県箔商工業協同組合との接点が生まれ、真空蒸着装置を使わず、大気中で金箔を貼り合わせて太陽電池を作製する技術の開発を連携して進めることになりました。伝統工芸である金沢箔を最先端技術に使うという、インパクトのある用途開発です。

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金沢箔は1万分の1ミリと薄く、均一な質の高い膜であるためきれいに密着する(写真提供:金沢市)

向学心に燃える留学生と切磋琢磨できる環境

当研究室を含め、JAISTは発展著しいアジア諸国から大勢の留学生を迎えています。国をつくっていくのは自分たちだという気概に燃える彼らの存在が、日本人学生に与える影響は非常に大きいと思います。“同じ釜の飯を食う”仲間は、将来のビジネスに役立つ人脈ともなります。 自分がぶつかった困難を自分で乗り越えたときに人は成長します。そのためにも新しいことに果敢にチャレンジしていく姿勢が大切です。学生の皆さんには、JAISTで過ごす限られた日々の間に、自分がどこまでやれるか試してみてほしいと思います。

平成28年2月掲載

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