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研究

教員インタビュー(この人に聞く)

中森義輝教授

システミックな知識の創造や伝達に対するシステマティックなアプローチ

中森義輝教授

知識科学研究科 中森義輝教授

京都大学工学博士。甲南大学理学部応用数学科勤務を経て1998年より現職。知識の全体論的構成法に関する研究に従事。応用として、地域社会の活性化、環境の評価、感性情報の伝達技術の開発などに取り組んでいる。

2012年11月19日~20日、石川県能美市の石川ハイテク交流センターにおいて、国際シンポジウムInternational Symposium for Knowledge and Systems Scienceが開催されます。これは2000年から毎年開催されているもので、2003年に広州で開催されたシンポにおいて国際学会 International Society for Knowledge and Systems Scienceが発足しました。背景にはハードなシステムアプローチとソフトなシステムアプローチの接着剤の役割を果たす知識マネジメントへの期待の高まりがあります。
同シンポを主宰する中森義輝教授に、システム科学を基盤とした知識構成法の研究についてうかがいました。

システム科学を基盤としたシステミックな知識構成

新しい知識は、文書化された「形式知」と、言葉で表しにくい「暗黙知」との相互作用によって創造されると言われています。しかしこれは自然に起こる現象ではなく、さまざまな情報や知識が脳内で融合し創発を引き起こす現象です。
知識科学研究科では、情報技術や芸術的技術、経営学や組織論、数理科学や認知科学などのあらゆる分野から知識創造の研究を推し進め、「知識科学」という新しい学問の創成にチャレンジしています。
その中にあって、私自身はシステム科学を基盤とした全体論的知識構成論の研究に取り組んでいます。システム科学は元来、さまざまな知識・知見を総合化して複雑な問題を解決するための学問であり、私たちが探求している知識科学とその目的を共有します。
私の研究方針をひとことで表すと、「システミックな知識の創造や伝達に対するシステマティックなアプローチ」ということになります。システミックとは全体論的であるということです。個々の知識を足し算していくだけでは、知識を整理してみただけのことで、直面する問題を解決する新しい知識が生まれたとは言えません。個々の知識の相互作用を引き起こし、創発を誘引することによって、単なる寄せ集め以上の新しい知識が創造されなければなりません。そこで、システミックな(全体論的な)知識を創造するシステマティックな(系統的な、計画的な)メカニズムを探求する必要があるのです。
新しい知識の創造は、個人や組織の問題解決能力を含んだ経験的知識の蓄積度合に依存します。そういった人材育成論や組織論も重要ですが、知識創造は人々のひらめきによるところが大きく、学問として認知されるまでには、まだ時間と努力が必要です。そこで、システマティックに知識構成活動を実行すれば、システミックな知識が創出できるという「知識構成方法論」の開発が重要であると考えています。

知識構成システム論

現在私たちは、システム方法論と知識マネジメントの融合を目指した「知識構成システム論」を研究開発中です。私たちが提案しているのは「知の五角形」と呼ぶ知識の連続再構成モデルです。

知識の連続再構成モデル(知の五角形)※「知の五角形」はIntelligence(客観的知識)、Involvement(社会的モチベーション)、Imagination(創造性のひとつの側面)、Intervention(問題を解決しようとする意志)、そして Integration(システミックな知識)の5つの要素から成る。

研究のメインテーマはこの方法論の開発と応用事例の収集です。知識の統合レベルを「専門的統合」「学際的統合」「文化横断的統合」の3つに分類し、その各々に対応した応用事例を収集しており、これまでに技術革新の専門的知識基盤(アーカイブ)を作成する方法や、システム工学と知識マネジメントを融合した学際的アプローチによる需要予測問題への応用、さらにはバイオマスタウンを構想・推進するために文化的に異なる様々な人々の知識や思いを統合するプロセスを分析しています。
また応用事例を収集する一方で、知識は進化的にそして構成的に創造されるものであるという認識に基づき、新しい知識をどのように客観的に正当化するかという認識論の確立に力を注いでいます。

システミックな知識の伝達技術の開発と伝統産業活性化への貢献

形式知の代表的なものは「科学的知識」です。一方、言葉に出して伝達しにくい暗黙知の代表的なものは、いわゆる「職人技」です。たとえば自転車に乗るという行為は、自分がすれば難なくできるのに、言葉にして他人に教えることはできません。ビジネスにおける営業的なノウハウも暗黙知の部分が大きいと考えられます。一見同じような対応をしているのに、売り上げ成績に差が出るのはなぜでしょうか。有能な営業マンは、論理的な話し合いだけではない、感性に訴える何かを持っていると考えられます。
感性に訴えるということでは、現代社会においてすでに必需品ではなくなっている伝統工芸品についてもいえることです。
伝統工芸は石川県の重要な文化的・経済的資産です。その販売のあり方として、消費者の感性に訴えて、あるいは消費者の感性を理解して販売を促進するというかたちが考えられます。私たちは、総務省の戦略的情報通信研究開発推進制度による「石川県伝統産業振興を目指した感性情報伝達技術の研究開発」において、顧客の感性を感知した商品提供が行える推薦システムを開発しました。これはたとえば、「現代的で、可愛らしく、若者向きの九谷焼の壺を見せてください」という消費者に対して「ではこれはどうですか」とすぐに対応できるコンピュータシステムです。これを実現するためには、感性知識の体系化と感性情報の伝達技術に加えて、複数の要望をいかに統合するかという意思決定分析手法の研究開発が必要です。
開発したシステムはすでにいくつかの伝統工芸販売店の販売サイトにリンクされており、感性を伝達する言葉を用いて希望の伝統工芸品を検索することができます。今回開発した技術は、将来的には、個人の感じる感覚・感性の計測評価技術の開発、個人の嗜好・能力・性格に応じて感覚・感性情報を取捨選択、検索・抽出して提供・伝達する技術につながると期待しています。

地域社会の持続的発展のための知識の創造と活用

伝統工芸もその一例ですが、日本の地域には、それぞれが立地する地域の特性やさまざまな資源を生かし、地域の活力を再生していくことが求められています。本学では地域社会への貢献も大学の使命であると考えており、知識科学研究科でも地域社会の持続的発展のための知識の創造と活用に積極的に取り組んでいます。
平成18年から始まった「地域活性化システム論」は、毎年10月~12月の隔週土曜日に実施される社会人の聴講も可能な講義で、中央・地方行政、民間企業、地域コミュニティ、住民など地域活性化に関わる各主体が、どのような手法を用い、どのように協働することによって、効果的な地域活性化が行われるか、知識科学の各種手法を用いて分析・検討を行います。講義では最終的にグループに分かれて具体的なまちづくりの計画を作成し、この成果をもとに国や県への活性化のための補助金や研究費の申請を行っています。
並行して「伝統工芸イノベータ講座」も実施しています。これは国の「石川伝統工芸イノベータ養成ユニット事業」の後継事業として継続している公開講座で、伝統工芸関係者を中心に10~20名の社会人に加え、本学の学生も参加します。
こうした取り組みを通じて、知識科学が石川県の地域社会の活性化に資することができればこの上ない喜びです。

平成24年10月掲載

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