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「知っている」と「分かっている」の違い、知って/分かっていますか? -知識マネジメント領域の水本准教授が「実験哲学」で明らかに-

 知識マネジメント領域水本正晴准教授の研究成果("Know"and Its Japanese Counterparts, Shitte-iru and Wakatte-iru)が、論文集 Epistemology for the Rest of the World の中の一遍として、オックスフォード大学出版より出版されます。

■論文概要
 「今雨が降っていると知っている」と「今雨が降っていると分かっている」の違いは?と聞かれたら、多くの人は返答に困るはず。事実についての(命題的)知識を表す動詞は「知っている」だけでなく「分かっている」もあることに、我々は普段気づきませんが、命題的知識を表す文脈での英語のknow は通常その両方で訳すことができます。
 哲学の一分野である認識論では「知識とは何か」が2千年以上議論されてきましたが、20世紀より、知識概念を分析するには日常言語の("know" や「知っている」など)の知識動詞がどのように使われているかの観察を通して行われるべきではないか、という考えが広まりました(「言語論的転回」)。さらに、21世紀になると、その使用の観察は哲学者が自分の直観を頼りに頭の中で行うのでは(専門家のバイアスを排除できないため)不十分で、経験的な調査が必要だということになり、哲学者が自ら経験的調査を行う「実験哲学」という分野が登場してきました。ところが、そこでの調査や議論は西洋の言語(特に英語)でなされてきたため、その言語の語彙(ここでは"know")に特有の諸特徴が気づかれないまま前提されてきました。
 そこで、2000年より独自に実験哲学の研究を行ってきた本学の水本准教授は、日本語の「知っている」と「分かっている」の一般人の使用を経験的に調査することを通じ、英語の"know"の表す概念と日本語に内在的な二つの知識概念の違いを明らかにしました。

例1:
花子はあるパズルの解き方を知っていましたが、もう何年も前なので、今では解けなくなっています。

 花子は今、そのパズルの解き方を知っている/分かっている

info20180123-1.jpg
(p < 0.0001, two-sided Fisher, Cohen's φ = 0.49)

例2:
 ある日、太郎は落ちてきた石が頭に当たって意識を失い、その結果彼の脳が変化し、今や温度を推測すると常に当たるようになりました。太郎は、自分のこの能力に全く気付いていません。先日、彼は寝室が22度であると何気なしに思いました。彼には自分の推測以外に寝室が22度であると思うどんな理由もありません。それでもやはり、寝室は実際に22度です[問題文は紹介用のため簡略化されています]。

 太郎は寝室が22度であると知っている/分かっている

info20180123-2.jpg
(p < 0.0001, two-sided Fisher, Cohen's φ = 0.64)

*これらは両方、被験者内計画の実験結果ですが、被験者間計画の実験でも同様の結果が得られています。

 上の結果に見られるように、「知っている」と「分かっている」には認識論的に重要な文脈で極めて大きな違いがあり、それゆえこれまで哲学で前提されてきたような唯一の普遍的な知識概念という前提はもはや維持できない、ということになります。また、他の例の結果も含め、英語の"know"の使用との比較を通し、「知っている」よりは「分かっている」の方が一般的に英語の"know" に近い、それゆえ英語の翻訳としてより適切である(場合が多い)、ということも明らかになりました。
 結果として、英語の"know" と日本語の「知っている」の表す知識概念は大きく異なることになります。このことは、哲学者がもはや自分の直観のみを頼りに哲学ができないばかりか、世界の言語を幅広く探究せねばならないということを示唆し、2千年以上の哲学の議論の様相を一変させることになる可能性を秘めています。またこれは、哲学外の認知科学や言語学の研究者にとっても興味深い示唆を与える研究でもあると言えるでしょう。

 水本准教授自身も編者として企画・編集に携わった論文集 Epistemology for the Rest of the World は、今年5月頃出版予定です。

※今回の論文集は、オックスフォード大学出版という哲学では世界で最も権威ある出版社から、3人の匿名の査読者の審査を経て出版が決まっており、学術雑誌に掲載されるのと同等以上の価値を認めることができるでしょう。

平成30年1月23日

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