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新たな高分子ネットワーク構築の手法を開発

新たな高分子ネットワーク構築の手法を開発

 北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科/物質化学領域長尾 祐樹准教授らの研究グループは、溶液中の混合分子の特徴を生かし、従来とは異なる構造の高分子ネットワーク(分子どおしのつながり)を作る手法を開発することに成功しました。この成果により、溶液中では合成が難しいとされてきた構造を有する高分子ネットワークの合成に挑戦できるようになりました。本研究は、アメリカ化学会の雑誌Langmuirに近日公開されます。

1. 研究の成果

 人類の夢の一つに二酸化炭素から炭素材料を作り出すことが挙げられます。多くの研究者がこの課題に取り組んでおり、望ましい分子構造についての理解は日々進んでいます。溶液中での合成方法には限界があるために、合成手法自体の多様化が求められていました。
 そこで我々は、構造を設計しその設計した構造を生物の力による合成に頼らずに人の手で如何に合成するかという点に着目し、新しい合成手法を開発するために基板表面を反応の足場として利用することを考案しました。
 まず我々は、コバルトイオンとポルフィリン注1)と呼ばれる分子が基板表面に付き易くするために表面化学修飾を基板に対して行いました。その後、正に帯電するコバルトイオンの溶液と負に帯電するポルフィリンの溶液を別々に用意しました。この2つの溶液に先ほどの化学修飾した基板を交互に浸漬することで、正に帯電したコバルトイオンを糊のように利用して負に帯電するポルフィリン分子を1層ずつ積層しました。
 次に我々は、得られた高分子ネットワーク薄膜を各種装置で評価し、積層回数に対して比例する形で膜厚が増加することを確かめました。また、正に帯電したコバルトイオンは狙った通り糊の役割を果しており、負に帯電したポルフィリン同士をつなぎとめていることを明らかにしました。
 さらに我々は、構造や構造周期性についての情報を得るために、X線注2)を用いて積層回数に対して薄膜の構造や構造周期性を調べてみたところ、5回積層した薄膜では構造周期性が見られなかったのに対して、15層積層した薄膜では構造周期性が見られることを明らかにしました。また、構造の比較のためにコバルトイオンとポルフィリン分子を溶液中で混合して得た粉末状試料の高分子ネットワークについても構造を調べました。その結果、粉末状試料と得られた薄膜の高分子ネットワークの構造は全く異なることを明らかにしました。
 異なる構造が得られたデータを考察した結果、基板が高分子ネットワークの成長のための足場として働いているためであることがわかりました。詳細にデータを検討した結果、化学修飾した基板が反応の足場となっており、そこに一斉に反応したポルフィリン分子がお互いに基板上で詰まった状態が、その後成長する高分子ネットワークの全体の構造を決めていることが明らかとなりました。比較のための粉末状の試料は反応のための足場がない溶液中でコバルトイオンとポルフィリンが混合されることで得られるため、今回得られた薄膜の高分子ネットワークとは異なる構造になることもわかりました。また、基板上への分子の積層により高分子ネットワークが成長すると、薄膜の構造周期性が向上することも明らかにされました。
 本研究によって、基板や材料表面が反応の足場とみなせる場合には、高分子ネットワークの構造はその表面状態に強く依存することがわかり、溶液中で混合して合成した高分子ネットワークと組成が同じであっても、異なる高分子ネットワークの構造が得られることがあることが示されました。

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溶液混合と基板を足場にした積層合成の高分子ネットワーク構造の比較

 なお、本成果は名古屋大学との共同開発成果であり、名古屋大学「分子・物質合成プラットフォーム」事業(文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業)の支援を受けました。

2. 今後の展開

 この成果により、溶液中の合成では得るのが難しい高分子ネットワークの構造を合成するための新しい合成手法を得ることができました。この成果を応用することで将来的には例えば、生物内では合成が可能であることがわかっていても、人の手による合成がまだ難しいとみなされている高分子ネットワークの構造の構築が可能となり、光合成に必要な触媒や燃料電池の触媒の高効率化への応用展開等が期待されます。

3. 用語解説

注1)ポルフィリン:環状構造を有する化合物で、誘導体には体の中で酸素を運搬するヘモグロビン等の多くの化合物が知られている。ポルフィリン誘導体は、有機合成化学の触媒や生体化学反応過程の追究に広く利用されている。
注2)X線:材料の分子構造を知るためによく用いられる分析手法にX線回折という方法がある。原子が周期的に並んでいる場合は、構造情報を得ることが出来る。

4. 論文情報

掲載誌:Langmuir
論文タイトル:Metal-Organic Coordination Network Thin Film by Surface-Induced Assembly(表面誘起集積法による金属-有機配位結合性高分子薄膜)
著者:Salinthip Laokroekkiat(北陸先端科学技術大学院大学大学院生), Mitsuo Hara (名古屋大学助教), Shusaku Nagano (名古屋大学准教授), Yuki Nagao(北陸先端科学技術大学院大学准教授)
掲載日:未定(近日公開)

平成28年6月17日

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