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世界最高の検出感度を示すフッ化物イオンセンシング材料 ポリボロシロキサンの創出に成功

世界最高の検出感度を示すフッ化物イオンセンシング材料
ポリボロシロキサンの創出に成功

ポイント
 デンタルケアなどライフサイエンス分野で高い有用性を有しながら人体に有害なフッ化物イオンのセンシングにおいては、数十年来世界中で活発な研究が進められ、これまで一定以上の検出感度が得られていなかったが、このたび松見研究グループは、新たにポリボロシロキサンを創出し、一般的な商用系(LaF3)センシング材料を用いた検出感度(10-6 Mオーダー)程度を大幅に上回る、世界最高の検出感度(10-10 Mオーダー)を水溶液系において達成することに成功した。
 本材料は、塩化物イオン、臭化物イオン等の負イオンへの検出能力と比較して、フッ化物イオンに対して極めて高い検知能力を示した。
 また、ケイ酸ガラス構造に対応した一次元構造高分子としてポリシロキサンが広く知られているが、本研究ではケイホウ酸ガラスに対応した一次元構造高分子の合成に成功した。

 北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科 /物質化学領域松見紀佳教授、 ラーマン ヴェーダラージャン助教、プーフップ プニート博士らの研究グループでは、世界最高の検出感度を示す フッ化物イオンセンシング材料の創出に成功した。(図1)

 フッ化物イオンはデンタルケアや骨粗鬆症の治療に用いられており、 米国においては水道水に添加されているなど、ライフサイエンス分野において重要な役割を果たしている。 一方で急性毒性などの報告もあり、その毒性からWHOが推奨濃度範囲内での使用を推奨しており環境的モニタリングの必要性が認められている。また、水資源の確保が重要な社会問題となっている南アジアにおいて土壌に含まれるフッ化カルシウムによりフッ化物イオンに汚染されている地下水を判別することへの技術的なニーズも高い。
 フッ化物イオンのセンシングにおいては数十年来世界中で活発な研究が展開されてきた。 フッ化物イオンは水和エンタルピーが高く、水中における効果的なセンシングが難しいことが技術的課題であった。一方で、三級ホウ素化合物とフッ化物イオンとの強い相互作用が水中におけるフッ化物イオンのセンシングを可能にすることが見出されてきた。
 今回報告したポリボロシロキサンにおいては、ポテンショメトリー測定により、10-10 Mの感度のフッ化物イオンをセンシング可能であることが見出された。また、他のアニオン種に対する選択性も極めて高い(塩化物イオンに対して約60倍、臭化物イオンに対して約30倍の選択性)ことが明らかとなった。ポリボロシロキサンのモデル構造のDFT計算によればO-Si-O-B-O-型構造においてはホウ素原子が高分子鎖の外部に突き出たコンフォメーションをとり、フッ化物イオンの攻撃を受けやすい環境にあることが示された(図2)。

 これまでケイ酸ガラス構造に対応した一次元構造高分子としてポリシロキサン[-Si-O-]nが広く知られていたが、ケイホウ酸ガラスに対応した一次元構造高分子であるポリボロシロキサン[-Si-O-B-O-]nはこれまで知られていなかった。本研究では、メシチルボランとジフェニルシランジオールとをロジウムもしくはパラジウム触媒の存在下で脱水素カップリング重合することで、新規高分子であるポリ(ボロシロキサン)を合成することに成功した(図1)。
  さらに、各種のNMRやモデル化合物の構造解析により、得られたポリ(ボロシロキサン)は交互共重合体であることが分かった。また、予想に反してこのポリマーは主鎖中にB-O結合を有しているにも関わらず空気や水に対して高い安定性を示した。モデル化合物についてDFT計算を実施したところ、Si-O結合のpπ-dπ相互作用が隣接のホウ素原子まで影響を与え、B-O結合の電子状態を変化させていることが示唆された。

 成果は米国化学会のACS Sensorsオンライン版(2016年の刊行により、2018年に最初のインパクトファクターが発表される予定)に9/22に公開された。

論文タイトル:Alternating Poly(borosiloxane) for Solid State Ultrasensitivity Toward Fluoride Ions in Aqueous Media (水系メディアにおいて極めて高いフッ化物イオンセンシング能を示す交互共重合型ポリボロシロキサン)
著者:Puhup Puneet, Raman Vedarajan and Noriyoshi Matsumi*

<今後の展開>
 本材料系を用いたセンシングデバイスを最適化することにより、汎用のフッ化物イオンセンシングデバイスを代替する系の構築につながると期待できる。ヘルスケア分野において有用なセンシングデバイスとしてのみならず、南アジア諸国における水資源の問題にも資することが期待される。

図1 出発物質(左)と合成したポリボロシロキサンの化学構造(右) pre20160928-1.jpg

図2 SiOB型モデル化合物のDFT計算結果pre20160928-2.jpg

【参考】

<開発の背景と経緯>
 3級ホウ素原子は空のp軌道の存在を活用して様々な機能材料の創出研究に用いられてきた。ユニークな軌道間相互作用を利用した新規共役系高分子の創出のほか、ホウ素の高いアニオントラップ能を活用して高いリチウムイオン輸送選択性を有するリチウムイオン2次電池用電解質材料の創出にも結び付いてきた。ホウ素の高いアニオン受容能はイオンセンシング分野においても期待を集め、とりわけフッ化物イオンやシアン化物イオンなどの環境的に有害なアニオンの検出能の向上のための分子設計が望まれてきた。
 3級ホウ素原子を主鎖に有する機能性高分子材料の合成法として、ヒドロボラン種をモノマーとしたヒドロボレーション重合や脱水素カップリング重合が有効であることが知られているが、本系においてはロジウムまたはパラジウム触媒を用いてジフェニルシランジオールとメシチルボランとの脱水素カップリング重合を行うことにより、目的の新規ポリボロシロキサンの合成を試みることとした。

<合成方法・評価方法>
 合成はTHF溶液中、ロジウムもしくはパラジウム触媒存在下で等モル量のメシチルボランとジフェニルシランジオールを48時間反応させることにより行われた。重合物をヘキサンで抽出して精製し、数平均分子量40000を超えるポリマーが80%の収率で得られた。構造は1H-, 11B-, 29Si-NMRにより決定した。また、重合の交互性に関してはモデル化合物の生成挙動から明らかにした。
 フッ化物イオンセンシング能はポテンショメトリー法により評価した。ポリボロシロキサンをTHF溶液からグラッシーカーボン電極上にキャストし、これを作用極とした。Ag/AgClを参照極、白金を対極、Na2HPO4 0.1 M水溶液を電解液として室温で測定を行った。

<今回の成果>
 生成ポリマー及びモデル化合物のNMR構造解析により、交互共重合型ポリシロキサンが生成していることが支持された。ポリマーとモデルのいずれにおいても11B-NMR、29Si-NMRは単一のピークを示したほか、メシチルボランとトリフェニルシラノールとの反応では、両化合物間の縮合生成物が93%の収率で得られた。
 ポテンショメトリー測定においては、10-10 Mのフッ化物イオンをセンシング可能であることに加え(図3)、フッ化物イオンの10倍の濃度変化に対して-23 mVの勾配で系の開放電圧が広範囲で変化し、フッ化物イオン検出の良好な検量線を与えることが分かった(図4)。
 また、他のアニオン種に対する選択性も極めて高い(塩化物イオンに対して約60倍、臭化物イオンに対して約30倍の選択性)ことが選択性係数の算出結果(KF,ClSSM = 0.0161, KF,BrSSM = 0.0376)から明らかとなった(図4)。

【用語】
ポテンショメトリー測定・・・ボルタンメトリー、クーロメトリーと同様に電気化学の主たる測定法の1つで、一定電流(もしくは電流なし)の条件下で電位を測定する手法

DFT計算・・・電子系のエネルギーなどの物性を電子密度から計算する理論(密度汎関数理論)に基づく計算法

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図3.フッ化物イオンの滴定におけるポテンショメトリー測定結果
  (Disodium Hydrogen Phosphate, RE: Ag/AgCl, WE: GC, CE: Pt)

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図4.様々なアニオンの滴定におけるポテンショメトリー測定結果
  (Disodium Hydrogen Phosphate (pH=8), RE: Ag/AgCl, WE: GC, CE: Pt)

平成28年9月28日

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