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極めて低い白金担持量で高酸素還元反応性触媒の開発に成功

極めて低い白金担持量で高酸素還元反応性触媒の開発に成功

ポイント
 商用の酸素還元反応性触媒よりも大幅に低い白金担持量で商用系に匹敵する性能を示す酸素還元反応触媒の開発に成功した。本研究は、アルコール類などの犠牲試薬を一切用いない光還元法により白金ナノ粒子を炭素/TiO2上に析出させた最初の例であり、白金ナノ粒子系酸素還元反応触媒のグリーンな合成法としても特色を有している。今回作製した材料は、商用系の1/15から1/20ほどの白金担持量であるにもかかわらず、特定反応比活性(specific activity)※1 において商用系を上回る電気化学触媒活性を示した。

 北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科/物質化学領域松見紀佳教授ラーマン ヴェーダラージャン助教、ラージャシェーカル バダム博士、及び田中貴金属工業株式会社(岡谷一輝氏、松谷耕一氏)の共同研究グループは極めて低い白金担持量で商用系触媒に匹敵する高酸素還元性を示す低コスト型電気化学触媒の開発に成功した。

 酸素還元反応は燃料電池などのエネルギーデバイス内における反応律速段階であり、その効率はデバイスのパフォーマンスに直接的に影響することが広く知られている。本研究では比較対象の商用触媒において50wt%近く含まれている白金を1/15から1/20まで低減しつつ従来系の最善の性能を示す触媒に匹敵する性能を示す材料を作製することに成功した。
 従来の炭素材料/白金ナノ粒子系マトリックスの典型的な作製手法としては、アルコールなどの犠牲試薬の存在下において前駆体の塩化白金酸を還元する手法が広く適用されてきた。本研究では水系メディアにおいて犠牲試薬を用いることなく、疑似太陽光を光源としたグリーンな手法で各種炭素材料/TiO2/白金ナノ粒子コンポジットを作製した。
 作製した各コンポジット材料を、回転ディスク電極を用いたサイクリックボルタンメトリーと直線走査ボルタンメトリーにより酸素還元反応性を評価し、商用材料(TEC10E50E)と比較した。図1Aは典型的なH2の吸脱着に相当するピークを示している。図1BはTEC10E50E、カーボンナノチューブを含むPhoto-Pt-CNT-TiO2 、グラファイトを含むPhoto-Pt-Graphite-TiO2 各系のECSA(電気化学有効表面積)※2を示しており、Photo-Pt-CNT-TiO2は商用系にほぼ匹敵するECSA値を示した。また、今回の材料系の酸素還元反応の反応開始電位は0.93Vであった(図1C)。これらの材料群の質量比活性(mass activity)※3と特定反応比活性(specific activity)に関して評価を行ったところ(図1D)、特定反応比活性はPhoto-Pt-Graphite-TiO2 (6.6A/m2) > Photo-Pt-CNT-TiO2 (4.8A/m2) > TEC10E50E (4.6A/m2)の順となり、本研究の材料系の極めて高い電気化学触媒活性が明らかとなった。

 成果はNature Publishing GroupのScientific Reports(2016インパクトファクター 5.228)オンライン版に11月15日19時(日本時間)に掲載される。

論文タイトル:Sacrificial Reducing Agent Free Photo-Generation of Platinum Nano Particle over Carbon/TiO2 for Highly Efficient Oxygen Reduction Reaction
(高効率酸素還元反応を目的とした犠牲試薬を用いない炭素/二酸化チタン上への白金ナノ粒子の光化学的析出)
著者:Rajashekar Badam, Raman Vedarajan, Kazuki Okaya, Koichi Matsutani and Noriyoshi Matsumi*

<今後の展開>
 本材料系を用いた燃料電池、リチウム―空気電池等のエネルギーデバイスの構築、評価により、低コスト型のエネルギーデバイスの開発につながると考えられ、環境対応自動車、家庭用定置型電源等への展開が期待される。

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図1. (A)Photo-Pt- Graphite-TiO2、Photo-Pt-CNT-TiO2 のサイクリックボルタモグラム 
(B)サイクリックボルタモグラムから算出したECSA(電気化学有効表面積)値と商用材料との比較 
(C)Photo-Pt-Graphite-TiO2、Photo-Pt-CNT-TiO2 の直線走査ボルタモグラムと商用材料との比較 
(D)各材料系の質量比活性(mass activity)及び特定反応比活性(specific activity)

<開発の背景と経緯>
 燃料電池などのエネルギーデバイスのカソード電極材料において、現状では不可欠となっている白金/炭素系材料の作製においては、ポリオール系犠牲試薬や界面活性剤の使用、高温反応条件の適用など、比較的環境的負荷の大きな手法の適用が一般的となっている。これらの状況を踏まえて、水をメディアとしたグリーンな手法でこれらの材料群を作製する手法の開発は工業的に魅力的である。
 加えて、商用系には一般に相当量の白金が含有されており、白金を担持させる炭素材料種を検討することにより白金の導入量を低減させることが検討されてきた。
 本研究では光還元的析出法を検討することで、水中において疑似太陽光のみを光源として炭素/TiO2上への白金ナノ粒子の析出が可能であることが見出された。犠牲試薬や界面活性剤を利用しない本手法は白金ナノ粒子本来の高い電気化学触媒活性を発現させ、少量の白金担持量において高酸素還元反応性が達成された。

<合成方法・評価方法>
 まず、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェンオキシド等の各炭素材料を脱イオン水中で約2時間超音波照射し、均一分散液を調整した。分散液に市販のアナターゼ型TiO2を加え、さらに15分間超音波照射した。その後、塩化白金酸水溶液を加え、攪拌条件下で疑似太陽光を5時間照射した。得られた分散液を濾過した後、脱イオン水で洗浄して常温下で真空乾燥した。
 作製した各コンポジット材料における白金含有量をICP-MSにより測定したところ、1.6-4.3wt%であった。また、各材料の透過型電子顕微鏡(TEM)による分析により、各系において白金ナノ粒子が均一に分散していることが示唆された。炭素材料として伝導度の高いカーボンナノチューブを用いた場合には白金ナノ粒子の平均サイズは1nmほどであり、特にサイズの小さい白金ナノ粒子がTiO2部位から遠距離の部分まで分布することが分かった。一方、官能基密度が高く伝導度が低いグラフェンオキシドが炭素材料として用いられた場合には、白金ナノ粒子はほぼTiO2上にのみ分布し、その粒径も比較的大きかった (2-6nm)。
 得られた各材料をXPSにより分析したところ、とりわけTiO2/カーボンナノチューブ系に白金ナノ粒子を析出させた系においてPt 4fピークの顕著なシフトが観測され、強い金属―基盤間の相互作用が存在していることが示唆された。
 電気化学評価は回転ディスク電極を用いたサイクリックボルタンメトリー※4、直線走査ボルタンメトリー※5により行った。0.1M HClO4 aq.を電解液とし、グラッシーカーボン電極上に作製した電気化学触媒をコートしたものを作用極、白金を対極、RHE (reversible hydrogen electrode)電極を参照極とした。窒素雰囲気下において 50mVs-1の掃引速度で測定を行い、回転ディスク電極の回転速度は400-3600rpmの範囲とした。

<今回の成果>
 本系では水をメディアとし、疑似太陽光照射により炭素/二酸化チタン上に犠牲試薬を用いずに簡便に白金ナノ粒子を析出させる新手法の開発に成功した。本手法では水系反応メディアのpH調整も必要なく、常温での短時間の反応により作製が可能であり、工業的に魅力的である。また、炭素材料系の伝導性に応じて白金が析出し分布する基礎的に興味深い知見を得ることができた。
 本材料系で達成された電気化学触媒活性は、特定反応比活性(specific activity)において比較対象の商用材料を上回るなど、トータルな特性として既存の最善の商用材料に匹敵する性能を示した。このような特性が商用系の1/15~1/20の白金含有量で達成されたことは特筆に値し、低コスト型エネルギーデバイスの開発にとって意義深い成果であると考えられる。

※1 特定反応比活性:Pt単位面積あたりの酸素還元電流密度。
※2 ECSA(電気化学有効表面積):水素吸着によるピークの積算電荷量を白金の単位活性面積当たりの吸着電荷量で除するこ とで活性白金表面積を求め算出する。
※3 質量比活性:Pt単位重量あたりの酸素還元電流密度。
※4 サイクリックボルタンメトリー(サイクリックボルタモグラム):電極電位を直線的に掃引し、系内における酸化・還元による応答電流を測定する手法である。電気化学分野における汎用的な測定手法である。また、測定により得られるプロファイルをサイクリックボルタモグラムと呼ぶ。
※5 直線走査ボルタンメトリー:電極電位を連続的に変化させ、流れる電流値を測定する。サイクリックボルタンメトリーのような電位の往復を伴わない測定法。

平成28年11月15日

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