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最高水準のリチウムイオン輸率を示す液状電解質の開発に成功 ― 次世代高容量電極への活用に期待 ―

最高水準のリチウムイオン輸率を示す液状電解質の開発に成功
― 次世代高容量電極への活用に期待 ―

ポイント

  • 高イオン伝導度と0.9以上の高リチウムイオン輸率を併せ持つ高性能リチウムイオン輸送性電解質の開発に成功した。
  • 本電解質は電気化学的安定性においても優れ、実際にハーフセル(Li/電解質/Si)を構築し充放電試験を行ったところ、可逆的な充放電挙動と共に非常に高い放電容量(>2500mAh/g)を示した。
  • 安全志向の高性能電解液として、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が期待される。

 北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) (学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科物質化学領域松見紀佳教授ラーマン ヴェーダラージャン助教らはリチウムイオンを90%以上高選択的に輸送する液状電解質の開発に成功した。

 リチウムイオン2次電池は商用として一般的なエネルギーデバイスの中で最も高いエネルギー密度を有し、広範に活発な研究が展開されている。リチウムイオン2次電池の特性を左右する重要な部材としては、正極・負極以外にも電解質、バインダー、セパレータ等の様々な材料の特性が重要性を有するが、電解質のリチウムイオン輸送特性とその重要性は数十年来の課題として国内外で研究が続けられている。
 電解質に求められる特性としてはイオン伝導度、リチウムイオン輸率、電気化学的安定性等が主要なファクターとして挙げられる。中でも有機電解質は一般にリチウムイオン輸率が非常に低く、多年にわたり高分子固体電解質として研究されてきたポリエーテル誘導体では室温で0.1~0.2程度、新型電解質として期待されているイオン液体においても0.2~0.3にすぎず、大半はエネルギーの貯蔵に寄与しないアニオンが主に系内を移動していた。しかし、理想的にはリチウムイオンのみが系内を移動するシングルイオン伝導体を構築することができれば、デバイスの安定動作上最も望ましい。
 電解質のリチウムイオン輸率を向上させる手法としては、高分子電解質の場合には高分子構造中にアニオン構造やアニオンレセプター構造を導入することが試みられてきたが、液状電解質においてリチウムイオン輸率を向上させる手法は極めて限定されていた。
 本研究においては、従来相溶しなかったイオン液体とホウ酸エステル化合物の相溶性を体系的に調べることにより、一部のTFSI[bis(trifuloromethanesulfonyl)imide]アニオン/FSI[bis(fluorosulfonyl)imide]アニオンを有するイオン液体がメシチルジメトキシボランと均一相溶することを見出した。これらの組み合わせにおいて、混合電解液はイオン液体自身よりも低い粘度を示した。また、いずれの電解液も非常に高いリチウムイオン輸率を示し、とりわけFSI系イオン液体とメシチルジメトキシボランが体積比1/2(v/v)で相溶した混合電解液は0.93という異常に高いリチウムイオン輸率を示した(図1(a))。
 一般的にリチウムイオン輸率を向上させた系では、イオン伝導度とのトレードオフが問題となるケースが多いが、本系では系が低粘度であることにより、イオン液体系特有の高イオン伝導度を維持したままリチウムイオン輸率を大幅に向上させることに成功した。
 FSI系イオン液体/メシチルジメトキシボラン系は電気化学的安定性においても5V程度の電位窓を有し(図1(b))、高電圧型の電極材料の使用にも耐える特性を示した。この混合電解液を用いてLi/電解液/Si型ハーフセルを構築し、0.3Cの充放電レートで充放電試験を行ったところ、可逆的な充放電挙動と共に2500 mAh/g以上の放電容量が観測された(図1(c)、(d))。

成果はElectrochemistry Communications (Elsevier; IF = 4.396)オンライン版に7/1に掲載。
題目:Ionic Liquid/Boric Ester Binary Electrolytes with Unusually High Lithium Transference Number
著者:Raman Vedarajan1, Kento Matsui1, Emari Tamaru1, Jyoti Dhankhar1, Toshihiro Takekawa2 and Noriyoshi Matsumi1 *
1:JAIST
2:日産自動車株式会社

<今後の展開>
 セル構成や充放電条件を最適化し、最も優れた特性を有する蓄電デバイスの創出に結びつける。
 安全志向の高性能電解液として、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイス(リチウムイオンキャパシタ、マグネシウム電池、金属―空気電池等)への応用が見込まれる。

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図1.
(a) イオン液体/メシチルジメトキシボラン体積比とリチウムイオン輸率の関係
(b) イオン液体/メシチルジメトキシボラン系(v/v = 1/2)の直線走査ボルタモグラム
(c) Li/電解質/Si型セル[1-アリル-3メチルイミダゾリウム FSI/メシチルジメトキシボラン(v/v = 1/2)]の充放電曲線 (0.3 C)
(d) Li/電解質/Si型セル[1-アリル-3メチルイミダゾリウム FSI/メシチルジメトキシボラン(v/v = 1/2)]の充放電における各サイクルのクーロン効率

<用語説明>
リチウムイオン2次電池:
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。

リチウムイオン輸率:
系内におけるすべてのイオン種の移動において、リチウムイオンが移動する割合。系内を移動するイオンがすべてリチウムイオンである場合には1となる。

電位窓:
電解質材料を安定に使用可能な電位の範囲。電池の作動電圧よりも広い電位窓を有する電解質が求められる。高電圧の電極系の発達に伴い、より広い電位窓を示す電解質材料が求められつつある。

平成29年7月4日

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