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2次元sp2炭素高分子材料の開拓に成功

jaist-logo-mini.jpg pr20170804-1.png 国立大学法人
北陸先端科学技術大学院大学
大学共同利用機関法人
分子科学研究所

2次元sp2炭素高分子材料の開拓に成功

 北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科/環境・エネルギー領域江 東林教授らの研究グループと分子科学研究所の物質分子科学研究領域の中村 敏和准教授らの研究グループは、sp2炭素からなる2次元共役有機骨格構造体の開拓に成功した。
 炭素材料は様々な機能を発現するプラットホームとして注目されている。その中でも、2次元炭素材料はその特異な化学・電子構造を有するため、近年各国で熾烈な研究開発が行われている。特に、グラフェンは、sp2炭素原子が2次元的に繋がって原子層を形成し、特異な電気伝導特性を示すことで、様々な分野で幅広く応用されている。しかしながら、化学的な手法でsp2炭素原子(あるいはsp2炭素ユニット)を規則正しく繋げてsp2炭素シートをつくりあげることが極めて困難で、2次元炭素材料はグラフェンに限られているのが現状である。
 これに対して、本研究では、sp2炭素ユニットから2次元炭素材料を設計する原理を明らかにし、さらに、sp2炭素ユニットを規則正しく連結して2次元炭素材料を合成する手法を開拓した。この手法は従来不可能な2次元炭素材料の化学合成を可能にし、分子構造を思ったままに設計して2次元炭素をテーラーメイドで合成することを可能とする。今回合成された2次元炭素材料は、規則正しい分子配列構造を有し、拡張された2次元sp2炭素骨格構造を有し、π共役が2次元的に広がっている特徴を示す。高い結晶性と安定性を有するとともに、2ナノメートルサイズの1次元チャンネルが規則正しく内蔵されている。この2次元炭素材料は、ヨウ素でドーピングすると、電気伝導度は12桁も高くなり、室温で優れた半導体特性示した。興味深いことに、この2次元炭素材料は、極めて高い濃度の有機ラジカル種を共存させることができ、さらに、低温において、これらのラジカルスピンが同じ方向に配列するように転移し、強磁性体になることを突き止めた。今後は、様々な2次元炭素材料の設計と合成が可能となるに加え、その特異なπ電子構造に由来する新奇な機能の開発がより一層促進される。
 本研究は、Scienceに2017年8月18日に公開された。

1.研究の成果
 今回研究開発された2次元炭素高分子材料は2次元高分子注1)である。2次元高分子は、規則正しい分子骨格構造を有し、無数の細孔が並んでいるため、二酸化炭素吸着、触媒、エネルギー変換、半導体、エネルギー貯蔵など様々な分野で活躍し、新しい機能性材料として大いに注目されている。江教授らは、世界に先駆けて基礎から応用まで幅広い研究を展開し、この分野を先導してきた。
 これまでの2次元合成高分子は、分子骨格に他の元素(例えば、ホウ素、酸素、窒素などの原子)が入っていて、sp2炭素からなる2次元炭素高分子は合成できなかった。これまでの合成手法では、sp2炭素ユニットからなる高分子を合成できるものの、アモルファス系の無秩序構造を与え、規則正しい2次元原子層及び積層構造をつくることはできなかった。今回、江教授らは、可逆的なC=C結合反応を開発し、C=C結合でsp2炭素ユニットを規則正しく繋げて、結晶性の高い2次元sp2炭素高分子の合成に成功した(図1A)。この原理は様々なトポロジーを有する2次元sp2炭素高分子を設計することができる点が特徴的である。今回合成されたsp2c-COFは、2次元sp2炭素原子層を有し(図1B)、積層することによって頂点に位置するピレンπ-カラムアレイと規則正しく並んだ1次元ナノチャンネルが生成される(図1C)。2次元sp2炭素原子層の中では、xとy方向に沿ってπ電子共役が伸びており、拡張された2次元電子系を形成する(図1D)。また、積層構造では、ピレン(丸い点)ユニットが縦方向でスタックして特異なπカラムアレイ構造と1次元ナノチャンネル構造を形成している(図1E)。X線構造解析から、2次元sp2炭素高分子は、規則正しい配列構造を有することが明らかになった。

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図1.A)sp2炭素ユニットからなる2次元炭素高分子の合成。B) 2次元炭素原子層の構造。C)積層された2次元炭素構造。D)2次元炭素の網目モデル構造、xとy方向にπ共役が広がっている。E) 積層された2次元炭素の網目モデル構造。

 この2次元sp2炭素高分子は空気中、様々な有機溶媒、水、酸、および塩基下においても安定である。また、熱的にも極めて安定であり、窒素下で400°Cまで加熱しても分解しない。この2次元sp2炭素高分子は酸化還元活性であり、有機半導体の特性を示す。エネルギーギャップは1.9 eVであり、ヨウ素でドーピングすると、電気伝導度が12桁も向上する。
 電子スピン共鳴スペクトルを用いて、ヨウ素でのドーピング過程を追跡したところ、有機ラジカル種がドーピング時間とともに増えてくることが分かった。これらのラジカル種はピレンに位置し、互いに会合してバイポラロンを形成することができない。したがって、2次元炭素高分子系内では、極めて高いラジカル密度を保つことができる。超電導量子干渉計を用いた測定から、ピレンあたりのラジカル種は0.7個であることが分かった。これに対して、類似構造を有する1次元高分子および3次元アモルファス高分子系では、ラジカル密度が極めて低かった。すなわち、2次元 sp2炭素高分子はバルクの磁石であることが示唆された。
 磁化率と磁場強度との関係を検討したところ、温度を下げていくと、これらのラジカル種が同じ方向に向くようになり、2次元炭素高分子は強磁性体注2)に転移することを見いだした。すなわち、隣り合うラジカル種のスピンが同じ方向に揃うことによって、スピン間のコヒーレンスが生まれる。これらの特異なスピン挙動は1次元や3次元アモルファス炭素材料には見られない。
 本研究成果は、このような高度なスピンアレイを用いた超高密度データー貯蔵システムや超高密度エネルギー貯蔵システムの開拓に新しい道を開くものである。

2.今後の展開
 今回の研究成果は、化学合成から2次元炭素高分子材料の新しい設計原理を確立した。また、合成アプローチも確保されており、様々な2次元炭素高分子材料の誕生に繋がるものと期待される。今後、これらの特異な2次元炭素構造をベースに、様々な革新的な材料の開発がより一層促進される。

3.用語解説
注1)2次元高分子
共有結合で有機ユニットを連結し、2次元に規定して成長した多孔性高分子シートの結晶化により積層される共有結合性有機構造体。

注2)強磁性体
隣り合うスピンが同一の方向を向いて整列し、全体として大きな磁気モーメントを持つ物質を指す。そのため、外部磁場が無くても自発磁化を示す。

4.論文情報
掲載誌:Science
論文タイトル:Two-dimensional sp2 carbon-conjugated covalent organic frameworks(2次元sp2炭素共役共有結合性有機骨格構造体)
著者:金 恩泉(北陸先端科学技術大学院大学研究員)、浅田 瑞枝(分子科学研究所特任助教)、徐 慶(北陸先端科学技術大学院大学特別研究学生)、Sasanka Dalapati(北陸先端科学技術大学院大学研究員、日本学術振興会外国人特別研究員)、Matthew A. Addicoat (イギリス ノッティンガム・トレント大学助教)、 Michael A. Brady(アメリカ ローレンス・バークレー国立研究所 研究員)、徐 宏(北陸先端科学技術大学院大学研究員)、中村 敏和(分子科学研究所准教授)、Thomas Heine (ドイツ ライプツィヒ大学教授)、陳 秋紅(北陸先端科学技術大学院大学研究員)、江 東林(北陸先端科学技術大学院大学教授)
掲載日:8月18日にオンライン掲載。 DOI: 10.1126/science.aan0202.

5.研究助成
 この研究は科学研究費助成金 基盤研究(A)(17H01218)、ENEOS水素信託基金、および小笠原科学技術振興財団によって助成された。

平成29年8月21日

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