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モバイル通信エリアを大幅に改善するワイヤレス中継技術を開発

 北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科セキュリティ・ネットワーク領域松本 正教授らの研究グループは、従来から広く研究が進められてきた復号中継モバイルワイヤレス方式の通信エリアを大幅に改善する技術開発に成功しました。この技術によれば、中継局において送信元の情報系列に誤りを検出しても再符号化の後に信号中継を継続し、宛先局で送信元の情報を正しく復元することが可能となります。
 この技術は特にセンサーネットワークや車対車通信、災害後の通信確保など伝搬路特性が時々刻々変動する通信に対して有効で、ヨーロッパユニオン第7次フレームプログラム(FP7)における研究プロジェクト、Links-on-the-fly Technology for Robust, Efficient and Smart Communication in Unpredictable Environments (RESCUEプロジェクト) 注)に採択され、3年間(2013年11月から2016年10月まで)の研究期間を経て、実伝搬環境においてその有効性を実証しました。
 さらに松本教授らの研究グループは、この方式の理論的解析を進め、関連する技術やRESCUEプロジェクトが終了した以降に発見された方式についても解析を進め、将来動向をまとめた論文がIEEE(電気電子学会)のCommunications Survey and Tutorials (COMST: インパクトファクター20.23)に掲載されました。

<研究内容>
 実用的なモバイルワイヤレス中継方式として従来から広く研究が進められてきた復号中継方式では、中継局が復号後に情報系列中に誤りを発見した場合(誤り検出符号という符号化技術を用いる)、中継を中止することによって誤りが伝搬することを防止していた。このために、通信エリアが限定されるという欠点があった。しかし、誤りを含む、復号後の情報には送信された源情報に類似する(相関がある)部分が多くあり、復号過程でこれを有効に利用することで通信エリアを改善できる。
 松本教授らのグループでは、この問題が、情報理論における相関のある複数情報源の情報源符号化問題と類似の問題であることを発見し、この観点から、「誤りを含む情報を再符号化して中継しても、宛先局で受信される2つの系列のジョイント復号を行えば、源情報が正しく復号できる」方式を提案した。従来方式と新方式を図1(A), (B)に示す。宛先局における受信系列間の相関の情報は、誤り訂正のための符号化にターボ符号を用いることで、2つの符号器から得られる対数尤度比(Log Likelihood Ration: LLR)から演算処理することで得られ、これがさらに、2つの復号器間で相関の影響を考慮したLLRを交換する繰り返し復号を行うことでジョイント復号が実現できる。この原理を図2に示す。図3に示すように、この方式によってモバイル通信エリアを大幅に改善されるほか、支援災害などの影響によってワイヤレス通信ネットワークのトポロジーに対する堅牢性が得られる。

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<論文>

掲 載 誌 IEEE Communications Surveys & Tutorials
論文題目 A Tutorial on Lossy Forwarding Cooperative Relaying
著 者 Jiguang He, Student Member, IEEE, Valtteri Tervo, Xiaobo Zhou, Xin He, Members, IEEE, Shen Qian, Student Member, IEEE, Meng Cheng, Markku Juntti, Senior Members, IEEE, Tad Matsumoto, Fellow, IEEE
DOI 10.1109/COMST.2018.2866711
掲 載 日 23 August 2018

この論文は下記のサイトからダウンロードできます。
https://dspace.jaist.ac.jp/dspace/handle/10119/15423

<今後の展開>
 
1948年に発表された情報理論に関するシャノンの論文は、あらゆる情報科学分野の基礎理論を提供し続けているが、シャノン理論自体も、1948年以降、大きく発展してきた。最近活発に議論されている話題の一つはシャノン理論のネットワークへの発展であり、多くの未解決問題が残されている。松本正教授らの研究グループは、これらの未解決問題の解決に挑戦している以外に、新たな理論展開の結果をワイヤレス通信ネットワークへ応用することによって、理論限界に漸近する高性能な中継技術や複数ユーザ通信に関する応用技術を提供してきている。その中で重要なテーマは、End-to-Endの伝送が必ずしも無歪伝送である必要がない場合への拡張にある。(IoTでは、多くのセンサーから中継・伝送されるデータを基に、センターがさらに処理を行い、最終的な判断やアクションを指示する)。この場合、センサーから中継・伝送されるデータは必ずしも無歪である必要はなく、情報圧縮を行うことが可能となる。このことは、所用帯域に空きが生じるので、さらに多くのセンサーや通信ノードの収容が可能となる。

<用語説明>
注)RESCUEは、links-on-the-fly technologies for Robust, Efficient, and Smart Communications in Unpredictable Environment から作成された、その趣旨を表す略語です。その目的は、ネットワークトポロジーの変化や中継誤りに対して堅牢なワイヤレスネットワークを構築することです。松本教授らのグループが中心となって欧州第7次フレームプログラム(後継の研究支援プログラムはHorizon 2020)に応募し、高得点で採択されました。参加組織は本学のSchool of Information Science (当時)の他に、University of Oulu (Finland)、 Dresden University of Technology (Germany), Ilmenau University of Technology (Germany), Surrey University (UK)、AGH University (Poland)、Ubiteck Ltd (UK)、FQS Poland in Fujitsu Group (Poland)、Thales Communications and Security (France)です。欧州委員会からの研究予算規模は4.423ミリオンユーロで、そのほかに、各組織が拠出した予算と合わせると約7ミリオンユーロのプロジェクトです(日本は欧州ユニオンのメンバー国ではないので本学に対する直接的予算配分はありません)。予算は、松本教授の持つ自己資金とオウル大学・JAISTデュアルディグリープログラムに参加する博士課程学生に対する研究員雇用費としてオウル大学側に計上されました。

平成30年10月3日

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