技術文書の書き方

駒澤大学 文学部 自然科学教室
上原 隆平
uehara@jaist.ac.jp

このWebページでは,技術文書の書き方を紹介する.ここでいう技術文書とは, 『他人に何らかの情報を伝えるための文書』をさす. 具体的には,論文・レポート・説明書・報告書・料理のレシピなど, 日常生活で目にするほとんどの文書がこれにあたる.なお,このページを書くにあたっては,主に

『仕事文の書き方』
高橋昭男著,岩波新書 No.517,630円
『理科系の作文技術』
木下是雄著,中公新書 No.624,560円

を参考にした.またこのページで紹介している例のほとんどは

で実際に回答もしくは解答として提出されたものから引用した. 構成は以下の通り.

  1. 準備作業
    1. 主題
    2. 目標規定文
    3. 読者
    4. 材料
  2. 文章の組み立て
  3. パラグラフ(段落)
  4. 文の構造と流れ
  5. 文体
  6. 事実と意見
  7. 簡潔・明快な表現
    1. 曖昧でない表現
    2. 明快な表現
    3. 略語
  8. 正しい表現
    1. 正しい文章
      1. ねじれた文章
      2. 先頭と最後が対応していない文章
      3. 冗長な文章
      4. 言葉が不足した文章
    2. 正しい日本語
  9. 具体例
    1. 悪い例
    2. 良い例

1.準備作業

文書にはそれぞれの役割があり,機能がある.論文は自分の完成したオリジナ ルな研究や技術を広く公表することが目標であり,料理のレシピは,料理の手 順を,それを知りたい人に伝えるのが目標である.

1.1.主題

文書には主題が最初から確定している場合もあれば,そうでない場合もある. 料理がすでに決まっていれば,そのレシピの主題は決まっている. しかし卒業論文の主題は,当初はまったく決まっていないのが普通である. 主題が与えられていない場合は,どのような主題を選ぶか,また何が求められ ているのか,をよく吟味する必要がある.

一つの文書では,一つの主題に集中すべきである.複数の主題を混入させると, 読者は混乱し,印象は散漫になり,文書の説得力は低下する.

1.2.目標規定文

文献『理科系の作文技術』では,主題を決めたら,次に

を熟考して,一つの文(目標規定文と名付けている)にまと めて書いてみることを勧めている. 特に初心者のうちは,文書全体のストーリを組み立てたり,集めた材料を取捨 選択したりする基準として,この目標規定文は役にたつ.

これは見方を変えれば,最初に目標規定文を作成することによって,文書全体 の結論を作成しているに等しい.つまり主題を決めたら,文書を書く前に,ま ず文書全体の結論を先に確立して,そこに向かってストーリを組み立てる,と いうアプローチを勧めている.

逆にこうした一貫した目標がない文書は,途中でストーリが紆余曲折し,読み にくく,わかりにくい文書になりやすい.悪い例:

私は今2番か3番か迷っています.何故なら2番は自分のホームページを 自分の色に染められて面白そうだからですが,けど3番のプログラミングも 興味がありやってみたいからです. やっぱり3番はむずかしから2番にします.

これは読者を混乱させる文章である. 書きながら結論を考えていると,読者は混乱する.例えば

私は2番を選びます.何故なら2番は自分のホームページを自分の色に染められ ておもしろそうだからです.3番のプログラミングも興味があり,やってみた いのですが,難しそうなのでやめておきます.

と書けば,ずっと読みやすくなる.また

従来のパソコン通信は,一人のユーザーが一箇所のサーバーを経由して,同じ サーバーを利用しているユーザーと,コミュニケーションをとったり,同じサー バーに接続している情報を提供するものから,情報を得るものであった. しかし,近来でコンピューターの普及から,インターネットが発達した. それは,いままで同じサーバー同士でしか接触できなかったものが,サーバー 同士の接触により,ネットワークが普及し制限のあるもの以外はほぼすべてに, プロバイダというものと契約することにより,アクセスできるようになったの だ.

これもただ思いつくままに書き並べたものであろう. 全体に一貫したストーリーがなく,一つの文章中に本題とは無関係な枝葉が多 い.そのため,何がメインテーマなのか,何が重要な主張なのか,が読み取れ ない.内容の不備も合わせて修正した例を以下に挙げる:

パソコン通信には,中心となるサーバが存在する.そして といったサービスが利用できる. 一方インターネットでは,ネットワーク同士が相互に接続され, こうした中心的役割をはたすサーバに該当するものはない. その結果,こうした特定のサーバの機能に束縛されない情報通信ができる.

1.3.読者

自分の書いている文書が,誰を対象にしているのか, 絶えず意識する必要がある. その文書の主題について,読者にどれくらいの知識を想定して書くか, それは文章全体で一貫していなければならない. その文書を読む対象が一人なのか,複数なのか. その文書はどれくらいの範囲で読まれるものなのか. 場合によっては文書が想定する読者を, かなり早い段階で明確に記述するのもよい方法である.

1.4.材料

ある程度のボリュームの文書を書く場合,主題に対して集めた材料を 『あたためる』期間をおいた方がよい.それによって目標規定文やストーリが 固まることもあり,また考え落としを防いだり,新しい発見が生まれる場合も ある.こうした方法は川喜田二郎氏のKJ法や,ブレーンストーミングが目標と している事柄とも共通している. (KJ法については「『発想法』川喜田二郎著,中公新書136」を参照のこと)

参考にした文献は明記しなければならない.文書・材料・意見など,それが自 分のオリジナルなのか,あるいは既存の文献を参考にしたものなのか,は明確 にしなければならない.著作権に触れるようなことをしてはならない. また,参考文献の情報は,必要なものを正確に提供しなければならない.

2.文章の組み立て

ある程度まとまった文書の場合, 導入部が特に重要である. 例えば論文の場合,はじめの abstract (概要)を読んで, 本文を読むかどうか決める読者が多い.

一般の文書でも,ある程度のボリュームがあれば, 明確かつ簡潔な導入部分を設け,

とするべきである.

『起承転結』や『序破急』は,文章を書く上でよく引用される言葉であるが, 導入部,本論,結論は最低限必要であることが多い. 繰返しになるが,技術文書ではこの中の導入部分が もっとも重要 である.これは伝統的にそうであったわけではなく,最近の流れである. 古典的には結論が重視されていたが,最近では結論らしいもののない文書も多 い.

3.パラグラフ(段落)

パラグラフは,意味的にまとまった部分で,適切に入れる必要がある. パラグラフの分け方がまずいと,読みにくい文章になる. パラグラフを適切に作成するコツは,トピック・センテンス を作成し,それをそのパラグラフの先頭に持ってくることである.

トピックとは小さな主題のことであり,パラグラフとは,それについてのまと まった考えを記述・明言・主張する単位である.トピック・センテンスとは, そのトピックについて,簡潔に端的に述べた文のことである.これをパラグラ フの先頭に持ってくると,文章が読みやすくなることが多い.

一つのパラグラフにトピック・センテンスと関係のない文や,トピック・セン テンスに反する文を書いてはいけない. 例えば

A君はスポーツマンだ.夏は水泳,冬はスキー,春と秋はテニスと,日焼けの さめる間がない.一番年季を入れたのはスキーだという.

という文は独立したパラグラフとして通用する.一方

A君はスポーツマンだ.夏は水泳,冬はスキー,春と秋はテニスと,日焼けの さめる間がない.一番年季を入れたのはスキーだという.しかし最近は長い間 入院して,すっかり色白の文学青年になってしまった.

というパラグラフは,読者は混乱し,いら立ちを感じる.

4.文の構造と流れ

文章は各章,各節ごとに論理構造を持った文章を書く. 著者の考えの変化の履歴は書いてはいけない. 各章は独立して読めるようにする.

一つ一つの文は『そこまで読んだことだけで理解できる』ように書 かなければならない.また,ある文と次の文の関係は, 『読めば即座にわかる』ように書かなければならない.

その章の主流から外れてわき道に入るときには,わき道に入るところでそれを 明記しなければならない.つまりわき道の話を読み終わってから,その話と主 流の話の関係がわかるようではいけない.特に日本語の場合,下図左の構造に なりやすい,と『理科系の作文技術』でも指摘されている.これは下図右の構 造に書き換えなければならない.読者が主流にいるのかわき道にいるのか が即座にわかるようでなければならない.

tree and reverse tree

(例1) 以下は1977年の国公立大学共通一次試験の試行テストの問題であるが, これは悪文である:

次の金属のうち,その4.0gを希塩酸の中に入れたとき,金属が反応して完全 に溶け,その際発生する気体の体積が,0°C, 1atm で1600cm3に なるものを選べ.

これは

ある金属4.0gを希塩酸の中に入れたら,反応して完全に溶けた. このとき発生した気体の体積が0°C, 1atm で1600cm3であった. ある金属とは何か.次から選べ.(上原改作)

と書けば,はるかに読みやすくなる.

(例2) 以下は1999年度の駒澤大学の2回目 の課題への解答である. ここでは URL の説明を行っている.内容は悪くないが, 文章の組み立てが悪く,一つの文章が長すぎる:

Uniform Resource Locatorの略で,WWWに公開されたファイルを参照する ために,そのファイルがどこにあり,どういう形でやり取りされているも のかということを特定するもので,http(プロトコル:データをやり取り する時の言語),特定のマシン名,そのマシン上のデレクトリ名,ファイ ル名の順に連ねて書き,このような統一された形式によってWWW上に公開 された世界中のどこの,どういう形式でやり取りされているファイルをも 特定できるものである.

これを

URL(Uniform Resource Locator)とは, WWWで世界中に公開されたファイルを特定するための統一された記法である. そのためにはそのファイルが,どこにどういう形式で公開されているか, を記述する必要がある. 具体的には「プロトコル」「マシン名」 「ドメイン名(上原追加)」 「ディレクトリ名」「ファイル名」の順に書く. プロトコルとはデータをやりとりする時の言語であり,通常は http が指定される.

と書けば,かなり読みやすくなる.

(例3) 以下は2003年10月15日の日本経済新聞に載っていた, 「テレビも見られる携帯電話」の記事の抜粋である. この文章の前半部分は『〜は』が3つも続いていて,非常にわかりにくい.

映像は動画は録画はできないが,静止画として保存可能.

これは

映像は静止画として保存可能.動画は録画できない.

と書けば,かなり読みやすくなるし,全体の文字数も短くなる.

5.文体

文体は全体で一貫していなければならない.特に『です・ます』調 と『だ・である』調は全体で一貫していなければならない.通常は『だ・であ る』調の方が文章が簡潔になる.したがって特に論文など,簡潔さが重視され る場合は『だ・である』調の方がよい.逆に読者に与える印象を重視する場合 など『です・ます』調の方がよい場合もある.悪い例:

ハードウェアとは,CPU,I/O,記憶装置の基本的な三つの 構成要素から成り立っている. CPUですべての計算が行われている. I/Oは,コンピュータが人間に対してデータの入出力を行 う部分です. 記憶装置とは情報を記録しておく部分であり,電気的, 磁気的,物理的,光学的にデジタルデータを記録できる ものはすべて記録装置として利用できる.

それぞれの文は,主張をはっきりいいきるようにする. 例えば『であろう』『と言ってもよいのではないかと思われる』『と見てもよ い』などといった語尾は主張を曖昧にする.『であろう』は『である』に変更 し,後の二つは削除すべきである.

また『と思われる』『と考えられる』という受け身の表現は使わない. これらは根拠に乏しい文を科学的事実であるかのように言い換えているにすぎ ない.これらを『と思う』『と考える』と書き換えると,それが非常に曖昧な 内容であることがはっきりわかる.

こうしたはっきりいいきる姿勢は,多くの人にとって,非常な困難を伴う.し かしこれは文章を引き締める大切な作業である.仕事の文章の中では『ほぼ』 『約』『ほど』『ぐらい』『たぶん』『ような』『らしい』のたぐいをできる だけ削るように心掛けておいた方がよい.例えば

作業の手順は次のようにする.

は悪い文で,

作業の手順を次に示す.

は良い文である.悪い例:

CPUとI/O間,あるいはCPUと記憶装置間はBusという信号線で 密に接続されているが, I/Oと記憶装置の間は基本的に接続されていない らしい

6.事実と意見

まず事実と意見を明確に区別することが大切である. 以下の例は『理科系の作文技術』から引用(一部編集)した, アメリカの教材の一部である.

どこまでが事実で,どこまでが意見なのか,は明確ではない場合もある. 通常は

事実
自然に起こる事象や自然法則,あるいは人間の関与した 事件の記述で,しかるべきテストや調査によって, 真偽が客観的に確認できるもの
意見
上記以外のもの

と定義できる.しかし「歴史的事実」「心理的事実」「法律的な事実」など, こうした定義にあてはまらない事実もある.

このページで扱っている文書では, 主体をなすものは「事実」であって「意見」ではない. したがって事実と意見は明確に区別できるように書かなければならない. ある事柄が事実である,として記述する場合は,それがどのような観点から事 実である,と裏打ちされているのか,その根拠を明確に示さなければならない. 特に仮定をおいて話を進める場合は「何を仮定したか」「なぜその仮定を採用 したか」を明確に記述する.

7.簡潔・明快な表現

特に書きたい事柄がたくさんある場合,一つ一つの文が長くなりやすい. 文章はなるべく短くし,それぞれの文章のつながりを明確にしながら書く方が 読みやすい.つねに「もっと短くできないか」を考える.多少ぶっきらぼうに なってもよい.文学的に「味わいのある文章」「凝った文章」は,むしろ読み やすさを損ねることが多いので,必要ない.

7.1.曖昧でない表現

曖昧な文章にならないように気をつけなければならない.例えば 『アマチュア野球評論家』は『アマチュア野球の評論家』なのか, 『アマチュアの野球評論家』なのか,曖昧である. 形容詞が多い長い文章は曖昧になりやすい.曖昧な文章は

ことで曖昧さをなくすことができる.例えば

黒いめの小さい女の子

という点が曖昧である.内容に応じて以下の書き換えが考えられる.

悪い例1:

インターネットとパソコン通信の違いは,サービスの量,誰かが管理している かしていないかという事と,ネットワークに中心があるかないかという点に なります.

上記の文は「比較の対象」と「比較の観点」はわかるが,どちらがどのような 特徴を持っているのかが明確ではない.例えばネットワークに中心があるのは どちらで,ないのはどちらなのか,を明記する必要がある.

悪い例2:1999年9月22日付の日本経済新聞に掲載されていた宝くじの広告には,

平成10年度,すべての宝くじで100万円以上当たった人が, なんと23814人.22分に一人の割合です.スゴイッ!

と記載されている.これは字面だけを見ると, 『宝くじが発売されるたびに毎回必ず購入し,それらすべてで毎回毎回100万 円以上当たった人』が23814人いる,と解釈するのが自然である. また同じ広告の中には,

いま,1等100万円がその場で当たるインスタントくじ 「タテ・ヨコ・ナナメ」好評発売中!

という記載もある.これは『購入した人には,すべてその場でもれなく100万 円当たる』と読むことができるので,悪文である. どのように悪意を持ってしても,誤読できない文章 を書かなければならない. ()

7.2.明快な表現

一つの文にあまりたくさんの情報を盛り込むと, 情報の間の関係が不明確になる. 箇条書きを適切に使用して,明快な表現を心掛ける. 箇条書は列挙する内容のレベルをそろえる.

まず箇条書を使用すると明快になる例を次に挙げる:

ソフトウェアは,複雑なマシンの仕組みを, ユーザが,意識することなく, マウスでアイコンをクリックするだけで, アイコンに応じた動作をする機能,ネットワークを通じて, 他のマシンと情報をやり取りする機能などをもつ 「オペレーティングシステム」と, 「アプリケーション」という, オペレーティングシステム上で実際に利用するソフトウェアで, ワープロ,表計算などがある.

この例は,どの部分がどの部分にかかっているのか,非常に曖昧である. ソフトウェアなどの用語を知らない人が読んだ場合は,確実に誤解する. 書き換えた例は以下の通り.

ソフトウェアは「オペレーティングシステム(OS)」と「アプリケーション」に 分類することができる.OSは という特徴や機能をもつ.一方アプリケーションとはOS上で実際に利用するソ フトウェアで,ワープロや表計算がある.

また箇条書きにするときには,列挙されるもののレベルをそろえる. レベルが揃っていない例を以下に挙げる:

コンピュータはハードウェアとソフトウェアという部分で成 り立っている.ハードウェアには,I/O,メモリ,CPU,ハー ドディスク等がある.

ここで列挙されている,I/O, メモリ,CPU,ハードディスクは, 抽象度がバラバラである.例えば

ハードウェアには,I/O,記憶装置,CPUがある.

または

ハードウェアには,キーボード,マウス,メモリ,CPU,ハードディスク等が ある.

とする.

7.3.略語・用語

略語を使用するときは,初出の時に必ずスペルアウトする.悪い例:

4 ハードウェアーとソフトウェアー: ハードは全ての計算を行うCPU(中央演算回路)と外部とデータのやりとり を(以下略)

これは例えば

4 ハードウェア(以下ハードと略記)とソフトウェア(同ソフト): ハードは全ての計算を行うCPU(中央演算回路)と外部とデータのやりとり を(以下略)

と書くべきである. 略語が誰にでも通じると思ってはならない.特に意味の曖昧な略語に注意する. 例えば[HP]という略語は私家版fj用語集では,

○HP
ヒューレット・パッカード (Hewlett-Packard) ,あるいは馬力 (horse power) の略など.「ホームページ」の略としては一般的ではなく,断りなく使うの は混乱の元である.

と書かれている.また研究社の新英和中辞典では

hp, h.p., HP, H.P.
《略》high pressure; hire purchase; horsepower.

と書かれている.『ホームページ』のつもり で[HP]と言っても通じるとは限 らない.

略語をスペルアウトするときは,相手に通じるように書く.悪い例:

WWWとは欧州核物理学研究所(europian center for nuclear research cern)で開発されたドキュメントシステムで(以下略)

この場合は例えば

WWW(World Wide Web)とは欧州核物理学研究所 (CERN: European Center for Nuclear Research)で開発されたドキュメ ントシステムで(以下略)

と書けばよい.(余談: 今は CERN の正式名称は European Organization for Nuclear Research である.)

括弧を使うときは,括弧を取り除いても文章として完結するようにする. 悪い例:

URLは(Uniform Resource Locator)というが,WWWと密接に絡んでくる.

この場合は

URLは Uniform Resource Locator というが,WWWと密接に絡んでくる.

または

URL(Uniform Resource Locator)はWWWと密接に絡んでくる.

とする.後者の方が簡潔でよい.

特定の用語を使う場合は,その「正しい意味」にも注意する.例えば [ホームページ]という用語は 私家版fj用語集では,

○ホームページ
"Home Page". 拠点のページ.起点のページ.単にホームページ,また はブラウザのホームページといえば,ブラウザで最初に表示されるページの ことを指す.WWW上のページすべてをホームページと呼ぶのは(おそらく日本 だけの) 誤用である.ホームページに限定しないでWWW上のページを指す場 合,"Web page"あるいは「ウェブページ」などと呼ぶことが多い.

と書かれている.自分が思っている「意味」と他人が思っている「意味」が一 致しているかどうか,気をつける.心許ない用語は必ず意味を確認する.

8.正しい表現

8.1.正しい文章

一つ一つの文は正しくなくてはならない.ここでは

という観点から見る. 一つ一つの文章がきちんと完結するように心掛ける.

8.1.1.ねじれた文章

ねじれた文章の例をあげる.

ハードウェアに対しコンピュータに命令して処理を行うプログラムやデータ, 仕様,手順,文章類などを総称してソフトウェアと呼ばれる.

この文は,主語が省略されているので,ねじれが目立たなくなっているが, 『などを…呼ばれる』という文章構造は間違っている.正しくは,

ハードウェアに対しコンピュータに命令して処理を行うプログラムやデータ, 仕様,手順,文章類などを総称してソフトウェアと呼ぶ.

あるいは

ハードウェアに対し,コンピュータに命令して処理を行うプログラムやデータ, 仕様,手順,文章類などは,総称してソフトウェアと呼ばれる.

である.主語のはっきりしない受け身の文章は読みにくいので, 前者の方がよい.

8.1.2.先頭と最後が対応してない文章

文章の最初と最後が対応していない例をあげる.

インターネットと,パソコン通信の違いは,パソコン通信は,NIFTY Serveな どのパソコン通信ネットワークには,それぞれ管理する会社がある.しかし, インターネットには,その管理する会社というものがない.

始めの文の主語は「インターネットと,パソコン通信の違いは」であるが,述 語は「管理する会社がある」である.つまり「二つの違いは,会社がある」と いう文章になっていて,先頭の部分と最後の部分の対応がとれていない. またこの文の内容は「違い」ではない. この例の場合は例えば

NIFTY Serveなどのパソコン通信ネットワークには,それぞれ管理する会社が ある.しかし,インターネットには,その管理する会社というものがない. つまりインターネットとパソコン通信の違いは,管理する会社があるかないか, という点である.

と修正する.こうした間違いは

  1. 「とりあえず」の目標を記述して,その詳細が二つ以上の文に別れて しまった場合
  2. 本来二つ以上の文に分けるべき文をつないでしまった場合

に起こりやすい.上記の例は1である.

1の例:

インターネットとパソコン通信の違いについて,パソコン通信は中央 にホストマシンというものがあって,それに対して個々のマシンが電話回線等 を利用して接続して利用するというものであった. パソコン通信では中央のホストマシンの管理者がいて全体を把握することがで きるのに対して,インターネットでは,全体を把握することは不可能である. また,最近では,パソコン通信のホストマシン自体もインターネットに接続さ れているものがほとんどになっている.

この例では『インターネットとパソコン通信の違いについて,』という一節を 取り除けばよい.

2の例:

WWWは,公開している情報をネットワークを通じてどこからでも見るこ とができ,文字だけでなく,画像,動画,音声,プログラムなどを含んだ さまざまな種類の情報を総括して保持しているコンピュータをWWWサーバとい います.

この文章は「WWWは…見ることができ,…WWWサーバといいます.」という構造 になっていて「WWWは…WWWサーバといいます.」は正しい文章になっていな い.この場合は

WWWは,公開している情報をネットワークを通じてどこからでも見るこ とができます.文字だけでなく,画像,動画,音声,プログラムなどを含んだ さまざまな種類の情報を総括して保持しているコンピュータをWWWサーバとい います.

とするだけでよい.

8.1.3.冗長な文章

冗長な文章の例をあげる.

ソフトウェアは,ハードウェア上で実行されるプログラム,つまりコ ンピュータ上で実行される手順をハードウェアに対してソフトウェ アと呼ばれる.

これは「ソフトウェア」が前後に出てきているので,冗長である.

ハードウェア上で実行されるプログラム,つまりコンピュータ上で実 行される手順をハードウェアに対してソフトウェアと呼ぶ.

または

ソフトウェアとは,ハードウェア上で実行されるプログラム, つまりコンピュータ上で実行される手順をいう.

とする.また

ハードウェアは3つの分類に分けられる.

も冗長である.これは

ハードウェアは3つに分類できる.

または

ハードウェアは3種類に分けられる.

と直した方がよい.

8.1.4.言葉が不足した文章

文章は正しい構造で記述し,必要な主語,述語,目的語を必ず書く.

例1:

ハードウェアとは金物,つまり,コンピューターの機器のこと.目に見え ない全てのものをソフトウェアという.「ハードウェア」と「ソフトウェ ア」を比較して使われる言葉で,ソフトウェアは修正や変更が簡単で, 「柔らかい(ソフト)」のに対して,修正や変更が難しい「固い(ハード)」 ものを指して言う.

この文章では,

という欠点がある.これを直すと,

ハードウェアとは金物,つまり,コンピューターの機器のこと. 一方,ソフトウェアとは目に見えない全てのものをいう. 「ハードウェア」と「ソフトウェア」は,互いに比較して使われる言葉で, 修正や変更が難しい「固い(ハード)」ものをハードウェアといい, 修正や変更が簡単な「柔らかい(ソフト)」ものをソフトウェアという.

例2:

WWWは,文字,画像,音声,動画などのさまざまな情報を簡単な操作 で行えるという特徴をもっている.

この文章構造では,「簡単な操作で『何が』行えるのか」が欠落している.

WWWは,文字,画像,音声,動画などのさまざまな情報を簡単に操作 できる,という特徴をもっている.

と書けば正しい文章になる.

8.2.正しい日本語

文の日本語は正しくなければならない. うろ覚えの単語は必ず調べてから使う. 『てにをは』に気をつける.口語は使わない. 何度も推敲する. コンピュータを使って入力しているときに, 漢字に変換できなかったら,間違っているかもしれない. 特にコンピュータを使って入力すると,推敲がおろそかになるので,注意する. 悪い例を列挙する.

コンピューターは,ハードウェアの部分とソフトウェア 部分に大別される. ハードウェアとは機械そのものであり,データ 入力を行ったり する物理的な装置をいう.
インターネットは,相手と直接データをやりとりできる. ネットワークが, 互いに接続されているから,電話回線で. 世界規模のネットワークだから あちこちに回線があるので,とてもスムーズにデータをやりとりできる.
ハードウェアとは,コンピュータの 中心(脳)みたいな所でその基本的な 構成内容は,CPU(MPU)や,I/O,記憶装置の3つから構成されている. (注意: 「みたいな」は口語であり,また,記述も曖昧になるので使ってはいけな い)
CPU,I/O,記憶装置とかがあげられる.
CPUとゆうのは, 中央演算回路ですべての計算はここでします.
特定のコンピュータに手じかのパソコンを…
URLとは Uniform Resource Locator の略で, いはゆるインターネット上の…
だけサア〜ビス受けらあれるものです.
プロトコル(どうゆう形式でやり取りされるか を示す)
記憶装置は文字どうり, 情報を記憶しておく部分のことである. (おまけ)
それで,さようなら.

9.具体例

9.1.悪い例

ここでは3つの例をとりあげ,実際に書き直してみる.

例1:

WWW(World Wide Web)はハイパーテキスト(その文章の中で他の文章を参照 できるようにしたもの)を実現していて,参照する際に,ネットワークを通じ て遠くの情報を参照でき公開している情報を,ネットワークを通じてどこから でも見ることができて,文章だけでなく,画像,動画,プログラムなど,さま ざまな種類の情報を利用することができる.

内容はそれほど悪くないが,以下の二つの欠点を直すと,ずっと良くなる.

これに注意して書き直してみる.

WWW(World Wide Web)は,文章だけでなく,画像,動画,プログラムなど,さ まざまな種類の情報を利用することができるサービスである.特に,他の文章 を参照できる,ハイパーテキストを実現している点が特徴である. さらにWWWでは,ネットワークを通じて遠くの公開情報も参照できる.

こうして見ると,WWWの特徴を3つ列挙していることに気がつく.さらにそれを 明確にすると,

WWW(World Wide Web)は,以下の3つの特徴をもつサービスである.

と書ける.

例2:

wwwは,ハイパーテキストをネットワーク上に拡張したものであり,www が受け入れられた理由として,ハイパーテキストが実現していたこと ネットワークを通じて遠くの情報をどこからでも見ることができること, 文章,画像,動画,音声,プログラムなどがある.

これも内容はよくできているが,以下の点で改善の余地がある.

これを書き直すと,

WWW(World Wide Web)は,ハイパーテキストをネットワーク上に拡張したもの である.WWWが受け入れられた理由としては, ハイパーテキストを実現していたこと, ネットワークを通じて遠くの情報をどこからでも見ることができること, 文章,画像,動画,音声,プログラムなどの多彩なデータを扱うことができる こと,があげられる.

となる.ここでは理由が3つであることを最初に明記して,箇条書きを活用す ると,

WWW(World Wide Web)は,ハイパーテキストをネットワーク上に拡張したもの である.WWWが受け入れられた理由は以下の3つである.

とすれば,非常に読みやすくなる.

9.2.良い例

ここでは1998年度の駒沢大学での授業の レポート課題(3)に対する回答として,良い例を2つ示す.

例1:

1.コンピュータの構造

ハードウェアとはコンピュータを構成しているもので,CPU,I/O, 記憶装置,の3つに分類することができる. CPUとは,日本語では中央演算回路などと呼ばれ,すべての計算を行う 場である. I/Oとは,コンピュータが人間に対してデータの入出力を行う部分で, 代表的なものとしてモニタテレビ,キーボードが上げられる. 記憶装置とは,情報を記録しておく部分で,フロッピーディスクやCD などがある.

ハードウェアに対して,ソフトウェアとはコンピュータ上で実行される 手順のことであり,オペレーティングシステム(OS)とアプリケーション に大別することができる. OSの例としてはWindows,UNIXなどがあり,ユーザが低い レベルのマシン構成を意識せずに使えるような機能が装備されている. アプリケーションとはOS上で実際に利用するソフトウェアで,ワープロ, 表計算などがある.

例2:

コンピュータの構成要素は基本的に次の3つに分類することが できる.CPU,記憶装置,I/Oである.これをハードウェアと呼ぶ. それぞれを解説すると,
CPU
CPU(Central Processing Unit)もしくはMPU(Micro Processing Unit)と呼ばれる.日本語に訳すと中央演算回路となる. 全ての計算はここで行われる.(IntelハイッテルのPentiumなど が有名)
I/O
Input/Outputの略で,要するにコンピュータが人間に対して データの入出力を行う部分である.モニタやキーボードなどが 代表的なI/Oである.
記憶装置
情報を記録しておく部分である.いにしえの時代は真空管(見た ことないが)や紙テープなど,現在はフロッピーディスク,CD, CD-R,MO,MD,DAT,8mmテープなどがある.本体に内蔵さ れたハードディスクや半導体メモリももちろん記憶装置である. 通常はCPUの中にもレジスタと呼ばれる記憶装置がある.

(注意)もとのメールではテキストで適宜字下げなどが行われていた. Web のページに書き直すにあたって体裁をやや変えたが, 「明確な箇条書き」といった工夫が非常に読みやすい説明となっている点に注 意したい.


Last modified: Wed Oct 15 08:57:07 JST 2003
by R.Uehara (uehara@jaist.ac.jp)
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