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解説:プロジェクトマネジメントにおける知識継承

北陸先端科学技術大学院大学
知識科学研究科
内平直志

1. はじめに

製品やサービス開発および研究開発における知識移転や継承の理論および実証研究は多い.しかし,その多くは開発する対象である技術,製品,サービス,システム自体に関する知識であり,製品・サービスの研究や開発プロジェクトを成功させるためのマネジメントの知識を正面から扱っているものは少ない.それは,プロジェクトマネジメント知識は,技術や製品:サービス自体の知識より属人的かつ暗黙的で扱いが難しいことも理由の1つであろう.しかし,近年プロジェクトマネジャー育成するための組織学習のニーズは拡大しており,プロジェクトマネジメントの知識継承の研究は活発化してきている.本稿では,まず「プロジェクトマネジメントの知識」とその体系やパターンに関して概観し,次に一般的な「プロジェクトマネジメント知識の継承」の先行的な取り組みおよびそれを支援するツールを解説する.

2. プロジェクトマネジメントの知識

2.1. 知識継承とは

まず,本稿における「知識共有」,「知識移転」,「知識継承」の定義を示す.「知識共有」とは,送り手の頭の中にある知識を情報として表出化して共有することである.これに対して,「知識移転」とは,送り手の頭の中にある知識を受け手の頭の中に再構築することである.ここで,知識の再構築とは,単に情報として共有するだけではなく,受け取った知識を具体的行動として実行できるレベルまで内面化することを意味する.「知識継承」は知識移転の特殊形であり,同一組織内の異なる世代間(マネジャーの年齢的な世代だけでなく,先行したプロジェクトと後続のプロジェクトも異なる世代と考える)の知識移転と定義する.本稿では,プロジェクトマネジャー(PM)を育成するための組織学習の視点で知識継承に焦点を絞る.

2.2. プロジェクトマネジメントの知識体系

プロジェクトマネジメントに必要な知識(形式知)や具体的手法はPMBOKやP2Mとして体系化されている.PMBOK (Project Management of Body Of Knowledge)は,1969年に設立された世界最大のプロジェクトマネジメント協会であるPMI (Project Management Institute)が,1987年にPMBOK標準を出版,以降改訂版を出している[PMBOK13].統合プロジェクトマネジメントとして,スコープ,時間,コスト,品質,リスクなどを統合的に調整してプロジェクトを進めるマネジメントであり,これまで軍関係や宇宙開発の大プロジェクトで蓄積された数十年間の知識の集大成といえる.知識の継承に関しては,PMBOK自体が知識の集大成であるが,その分野や組織に固有のプロジェクト知識(問題と対策,良かった点,反省点)の継承に関しては,プロジェクト完了報告書で伝えることが推奨されている.さらに,Royerは,リスクに関する知識移転の視点から,プロジェクト完了時にプロジェクト知識を保管するためのリスク知識データベースの具体的なテーブル構造を例示している[Royer01].

P2M(Program & Project Management)は,1998年から経済産業省とエンジニアリング振興協会のプロジェクトマネジメント導入開発委員会により開発され,日本型のプロジェクトマネジメント知識体系としてまとめられた[PMAJ07].第一世代のプロジェクトマネジメントが「目的を明確にして確実に成果物を獲得する」,第二世代が「プロセスを重視して応用性を高め内部競争力もつける」ということに対し,第3世代であるP2Mは「外部環境の変化を意識したうえで,複雑な使命に問題解決の道を開き,事業価値を向上する」としている.また,P2Mのプログラムとは,「全体使命を実現する複数のプロジェクトが有機的に結合された事業」であり,知識創造動態モデル[野中10]のエッセンスが組み込まれている.特に,P2Mで新しく導入された「バリューマネジメント」の「価値の源泉」に関する考察では,プロジェクトで生み出された様々な知識を蓄積し活用する必要性が言及されている.

2.3. プロジェクトマネジャーのコンピテンシー

プロジェクトマネジメントの知識が体系化されたとしても,その知識を生かして適切なプロジェクトマネジメントを実践するにはプロジェクトマネジャーの能力(コンピテンシー)が必要である.このコンピテンシーに関する知識・態度・スキル・行動特性などを定義したものがコンピテンシーモデルであり,前述のPMI がPMCDF (Project Manager Competency Development Framework)として体系化している[PMI09].PMCDFでは,プロジェクトマネジャーのコンピテンシーを,「知識」「実践」「人格」の3つの次元で整理した.また,情報処理推進機構(IPA)のPM 育成 ハンドブック[IPA10] では,プロジェクトマネジャーのコンピテンシーを,「難易度の高いプロジェクトをより多く成功に導く優秀なPMに共通してみられる行動特性」と定義し,「コミュニケーティング」,「リーディング」,「マネージング」,「エフェクティブネス」,「認識力」,「プロフェッショナリズム」の6領域で構成されるとしている.知識継承の視点では,プロジェクトマネジャーのコンピテンシーは,自分の経験で得た知識を発信する能力,および受け取った知識を内面化し活用する能力と位置付けることができる.

2.4. プロジェクトマネジメントのパターン

プロジェクトマネジメントのノウハウをパターン集として体系化することで,プロジェクトマネジメントの知識継承を行うアプローチもある.Coplienは,ソフトウェア開発プロジェクトを成功に導くためのノウハウを,42のパターンにまとめた[Coplien98].42のパターンは,プロセスに関するもの(11パターン)と組織に関するもの(31パターン)に分類され,それぞれのパターンは,「問題」「コンテキスト」「影響する事柄」「解決策」「結果として生じるコンテキスト」「論理的根拠」といったテンプレートに基づき記述される.このパターン集は,AT&Tのベル研究所で実施した事例研究に基づいており,実際のプロジェクトマネジャーによって妥当性が検証されている.

井庭らは,プロジェクトを推進するための47のパターンを抽出し,各パターンをパターンマップという形式で整理した[古市07][湯村08].各パターンは,「背景」「問題」「解決」「サポート」「関連図」といったテンプレートに基づき記述される.パターンマップでは,パターンをメインパターン(汎用性の高い基本パターン),メンタルパターン(思考的側面からプロジェクトを推進するパターン),メソッドパターン(手法的側面からプロジェクトを推進するパターン)に分類し,計画時,実践時などプロジェクトの状況に照らし合わせて分類した.Coplienのパターン集も井庭らのパターン集も,Christopher Alexanderが建築の領域で提唱したパターン・ランゲージ[Alexander77]のコンセプトに基づいている.

これらのプロジェクトマネジメントのパターン集は,(1)プロジェクト開始前に今後どのような問題が発生しうるかをあらかじめ確認する,(2)プロジェクト推進中に発生した問題に対してパターンと照合して問題解決の参考にする,ことに活用できる.また,Risingらは,プロジェクトの振り返り分析で抽出した知見を,パターンとして形式知化し,共有することが組織能力の向上に有効であるとし,パターンのテンプレートに振り返り分析で得られた「過去の事例」を取り入れている[Rising03].

3. プロジェクトマネジメントの知識継承手法

PMBOKやパターン集は,プロジェクトマネジメントにおける形式知の体系化である.しかし,プロジェクトマネジメントで重要かつ扱いが難しいのは暗黙知である.本稿では,暗黙知を含むプロジェクトマネジメントの知識継承手法について紹介する.

3.1. 人間を介したプロジェクト知識の継承

青島と延岡は,「プロジェクト知識」という概念を導入し,その継承についての考察を行った[青島97, 青島98].プロジェクト知識とは,プロジェクトの推進に必要な知識で,プロジェクトの推進の中で創造される知識である.青島と延岡は,形式知化が困難であるプロジェクト知識の側面を考える上で,プロジェクト知識を「システム知識」・「過程知識」×「製品・技術」・「組織」の4象限に分類・整理し,各象限における知識継承の難しさを示した.さらに,青島と延岡の自動車産業での実証研究に基づき,プロジェクト知識の継承のためには, の2つが有効であることを示した.暗黙的な知識に関しては,人間を介した知識継承は有効である.しかし,大学などの研究機関や製造業の中央研究所のように,研究開発テーマが多種多様で,高い専門性が要求され,さらにプロジェクトの期間が長い場合は,効果的な人間の移転やオーバーラップは簡単ではない.

3.2. 事例を活用したプロジェクトマネジメント知識の継承

過去の事例を活用した知識継承手法として,ケースメソッド,ベストプラクティス,失敗知識データベース,ストーリーテリングを説明する.

(1)ケースメソッド

事例を用いてマネジメントを教育する手法としては,ケースメソッドが普及している.ケースメソッドにおける「ケース」とは,「経営に関する出来事や状況を記述したもの」であり,「組織に生じたさまざまな出来事やマネジャーの行動を記述したもの」である.ケースメソッドは,ケースを用いた「擬似的な経験を通して,優れた経営者や管理者になるために必要な判断力,意思決定力,問題解決力を身につけるための方法論」である[小樽商大04].ただし,ケースメソッドで得る知識と実体験で得る知識には大きなギャップがあり,ミンツバーグはケースメソッドの限界を指摘している[Mintzberg04].

(2)ベストプラクティスと失敗知識データベース

プロジェクトマネジメントのベストプラクティスの収集と知識継承への活用に関しては,Kerzner が多くの企業事例とともにまとめている[Kerzner14].ベストプラクティス収集では,プロジェクトの成功の定義,成功要因と成功のためのKPI (Key Performance Index)の抽出が重要になる.また,活用に関してはPMO(Project Management Office)が担う場合が多いとしている. 不具合事例集や不具合データベースを使った知識継承も従来から行われてきた.畑村らは,失敗を構造化し,その構造に基づき失敗事例を蓄積・分類・活用する「失敗学」を提唱している[畑村00].具体的な失敗の構造化としては,失敗を「事象」「経過」「原因」「対処」「総括」「知識化」の6項目で整理し,蓄積された失敗の構成要素を分類し,「失敗原因の分類(原因まんだら)」「失敗行動の分類(行動まんだら)」「失敗結果の分類(結果まんだら)」から構成される「失敗まんだら」として体系化した.さらに,失敗知識データベース(あるいは失敗百選)を利用して失敗を予測し,対策を組織の暗黙知として内面化する方法について考察している[中尾05].失敗知識データベースにおけるプロジェクトマネジメントに関する失敗構成要素としては,企画不良(権利構築不良,組織構成不良,戦略・企画不良),価値観不良(異文化,組織文化不良,安全意識不良),組織運営不良(運営の硬直化,管理不良,構成員不良)が対応する.

(3)ストーリーテリング

ストーリーテリングも事例を利用した組織学習の手法である.Denningは,組織におけるストーリーテリングにおけるストーリーの目的別に7つのパターン(行動を引き出す,みずからの人となりを伝える,価値観を伝達する,コラボレーションを育む,噂を管理する,知識を共有する,人々を未来に導く)を示した[Denning04].プロジェクトマネジメントの知識継承におけるストーリーの目的は,「行動を引き出す」と「知識を共有する」が対応する.KleinerとRothは,「ラーニングヒストリ」と呼ぶストーリーテリングに基づく具体的な組織的学習法を提案している[Kleiner97].1つのラーニングヒストリは,20〜100ページで全体が2つの欄で構成されている.下の欄には様々な立場の関係者が語った内容,上の欄には編集者(ラーニングヒストリアン)による分析や注釈が記入される.ラーニングヒストリは,(1)振り返り学習の場の提供,(2)組織間の知識移転,(3)知識の体系化,の効果がある.ストーリーテリングを支援するツールも重要である.赤石は,物語を知識移転の媒介物として,「連想/発想」を支援するシステムを提案した[赤石06].ここでは,物語を移転先の視点で再構成する点が特徴である.

3.3. コーチングによるプロジェクトマネジメント知識の継承

LeonardとSwapは,起業に関するマネジメント知識の継承について論じている[Leonard05].起業に関する知識は,簡単には継承できない経験的知識(deep smart)であり,継承するためにはコーチングと指導のもとで実際に経験するプロセスが重要であると指摘している.さらにコーチングの具体的方法として以下の5つを提示した.ここで,知識の受け手にとっては,1に近いほど受動的であり,5に近いほど主体的である.端的な指示や経験則は,経験を通じて学ぶための受容体(receptor)を形成するには必要であるが,表層的な知識の継承に留まってしまう.しかし,現状では多くの組織の知識継承の試みは1,2に留まっているとしている.
  1. 端的な指示/説明/レクチャー:具体的に指導する.
  2. 経験則:コーチのノウハウをルール(チェックリスト)化して伝える.
  3. 体験談:ストーリーテリング手法を用いて伝える.
  4. ソクラテスメソッド:質問して答えさせる対話形式で教育する.
  5. 実践を通じた学習(指導のもとでの経験):指導のもとで練習し,観察し,問題解決し,実験(仮説検証および探索)することで,知識を継承する.
「製品・サービス開発」と「起業」では,そのフェーズは前後するものの,プロジェクトを最終的に成功するための経験的知識としては共通部分が多い.実際,製品・サービス開発プロジェクトマネジメントの知識継承においても,コーチングと指導のもとでのOJT (On the Job Training)による知識継承は重要な役割を果たしている.課題は,これらの知識が体系だって教育されておらず,その必要性に関する認識も一般には低い点であろう.

3.4. ポストプロジェクトレビュー

プロジェクトマネジメントの知識継承の具体的手法の1つに,ポストプロジェクトレビュー(Post-project Review,以下PPRと呼ぶ)がある.PPRは,振り返り分析,Project Postmortem Analysis,Post-project Appraisalとも呼ばれることもある.PPRは,プロジェクトの終結時に実施される振り返りのレビューであり,学ぶべき内容を確認し,将来のプロジェクトで役立てることを目的とする.

Williamsは,PPRの詳細な先行研究レビューを行うとともに,プロジェクトマネジャーへのアンケートによる実態調査を行った[Williams07].アンケートに回答した496人のうち,約40%が何らかの形でPPRを行っている.特に,ソフトウェア開発プロジェクトに関しては,PPRの有効性が広く認識されており,前述のPMBOKやP2Mでも言及されている.Collierらは,ソフトウェア開発プロジェクトのPPRの5段階ステップおよびPPRの結果の活用法を提案している[Collier96].また,LillyとPorterは,16の企業の新製品開発プロジェクトへのインタビューから,利用目的を明確化したフォーマルなレビュープロセス,複眼的な視点,柔軟なレビューのタイミング,を持つPPRが有効であると述べている[Lilly03].ShindlerとEpperは,PPRに関する7つの手法(Project Review/Project Audit,Postcontrol,Post-project Appraisal,After Action Review,Micro Articles,Learning Histories,RECALL)を比較し,PPRによる組織学習が成功する要因として,PPRおよびPPRの活用を組織ルーチンに埋め込むことや組織ルーチンを推進するファシリテータの重要性を指摘している[Schindler03].

プロジェクトマネジメントの知識継承手法としてPPRが活用されているが,研究開発部門では,PPRの有効性は理解されていても,様々な阻害要因により,組織ルーチンとして実施されていない,あるいは実施されていてもPPRの結果が知識継承に活用されていない場合が多い.Zedtwitzは,幅広い分野の研究開発のマネジャー27人にインタビューを行い,研究開発部門におけるPPRに関する実態調査を行った[Zedtwitz02].その結果,約80%はPPRを行っておらず,残りの20%のほとんども体系化されたレビューを行っていないことを示し,PPRによる組織学習へのバリアとして,4つの要因(心理的,チーム的,組織的,管理的)を示した.さらに,PPRを用いた組織学習の5段階の成熟度モデルを提唱した.研究開発プロジェクトマネジメントで,PPRを実施・活用するためには,これらの阻害要因を減少させる必要がある.

4. プロジェクトマネジメントの知識継承の取り組み

4.1. プラント建設プロジェクトにおける知識継承の取り組み

丹羽らは,大規模プラント建設プロジェクトをモチーフにしたプロジェクトマネジメントの知識継承支援システムの研究を行った.具体的には,大規模プラント建設プロジェクトにおけるリスクマネジメントの知識を構造化プロダクションルールとして表現し,前向き推論と後向き推論を使って対象プロジェクトのリスクの抽出を支援するエキスパートシステムを構築した[Niwa82][Niwa83].さらに,従来型のエキスパートシステムでは,型にはまった推論しかできない,経験的な知識は悪構造(ill-structure)なものが多く形式知化が難しい,という課題に対して,人間の連想(直感的な気付き)をエキスパートシステムに取り込んだ「人間−コンピュータ共同システム」を提案した[Niwa86].この人間−コンピュータ共同システムは,プロジェクトのリスクマネジメントに関する知識継承支援システムであり,知識の整理にプロジェクトマネジメントで標準的に使われるフレームワーク(WBS,PERT)を利用する点で興味深い.ただし,人間の連想を取り込むとしても,ベースになる知識は構造化プロダクションルールとして記述する必要がある.

4.2. 情報システム開発プロジェクトにおける知識継承の取り組み

企業のシステム開発プロジェクトにおける知識継承の実践的な取り組みとして,内田らは過去の事例からの経験知識の表出化とケースメソッドによる知識の内面化の仕組みを提案し,企業内で運用している[内田10][内田13].具体的には,ポストプロジェクトレビューにおいて,様々な阻害要因を排除し,本質的な知識を抽出するための原因分析手法を提案し,活用できる形式にした知識化様式を定義した.また,事例から抽出された知識に基づくケースメソッドを設計し,知識の受け手が実践で使える知恵とするための内面化を支援している.内田らの手法は,情報システムだけでなくプラントなどのシステム開発にも適用実績がある.

4.3. 研究開発プロジェクトにおける知識継承の取り組み

研究開発プロジェクトは,情報システムのプロジェクトに比べると期間が長く,マネジャー個人が経験できるプロジェクトも限られるため,知識継承がより重要となる.内平らは,研究開発プロジェクトのマネジメント知識を組織内・世代間で継承するための知識継承フレームワークを示している[Uchihira05][内平10][Uchihira12].知識継承フレームワークは,終了したプロジェクトのマネジャー(知識の送り手)による知識の表出化と,現在進行中のプロジェクトのマネジャー(知識の受け手)による知識の内面化から構成される.具体的には,(1)ポストプロジェクトレビューにおいて,研究開発マネジメントに固有の知識構造(フェーズレビューのチェックポイント)を用いて終了プロジェクトを分析し,ケースとして表出化する「構造化プロジェクト分析手法」,(2)進行中のプロジェクトのフェーズレビューにおいて,ケースを活用して将来のチャンスとリスクを創出する「内面化ワークショップ」を提案した.

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO: New Energy and Industrial Technology Development Organization)は,NEDOで実施した中長期・ハイリスクの研究開発プロジェクトの振り返り分析を行い,各フェーズレビューのポイントをチェックリストとして体系的に明確化するとともに,チェックリストの論拠として事例(成功に導くマネジメント例,教訓とすべきマネジメント例)をチェックリストに紐づけしている.この体系は,「NEDO研究開発マネジメントガイドライン」としてまとめられ,活用されている[齋藤09].

5. 今後の展望

プロジェクトマネジメントの知識体系は成熟・浸透しつつあるが,プロジェクトマネジャーにとってその知識を実践するのは容易ではなく,各組織において知識の実践を支援するための組織学習や知識継承の取り組みへのニーズは大きい.本稿で紹介したように知識継承のモデル,手法,ツールの整備に関する先行的な研究と実践が行われているが,人間の労力に依存する部分が非常に大きい.今後は,事例の自動分析による気づきの支援など,最新の人工知能の技術を活用した効率的で効果的な知識継承のための更なる研究・実践が期待される.

[参考文献]