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近年、「知識経営」という概念が注目され、これからの企業経営に対する一 つの指針を示すものと受け止められている。この流れに便乗する形で、IT (情報技術)産業からは知識経営を支援する様々なシステムやパッケージが 提案・販売されている。販売されているパッケージは多くの場合、スケジュー ル管理や顧客管理機能を核に、データベース検索機能などを付加したもので あるが、著者らはこのような傾向、すなわち情報や知識を「管理」すること に熱中することは、知識経営の一側面を過度に強調するものであり、望まし いことではないと警鐘を鳴らしている。
「知識に関する、より基礎的な理論」の重要性が産業界で理解されていない のではないかとの危惧から、本書では知識「経営」という、情報や知識の 「管理」を強く連想させる語を取り下げ、Knowledge Enabling という、新 たな聞き慣れない用語を導入している。用語の意図を汲みながら訳するとす れば、「知力活性化」とでも言い換えられるだろうか。
「知識経営」が指向する社会は、「知識創造社会」であるということは 著者らが長年に渡って主張しており、本書でも一貫して流れている主張であ る。本書において重点的に論じられている点は、「では、いかにして我々は 創造的な社会(あるいは会社)を作り上げられるのか?」という問いである。 Enabling Knowledge(知の活性化)とは、その問いを解く上での重要な概念 である。本書の結論を先取りして紹介すると、Knowledge Creation (知識 創造)に向けて、社会(あるいは会社)は三つの局面を経て発展するとされ ている:
本文では、知を活性化する要素として、5つの要素が挙げられている:
野中郁次郎氏と竹内弘高氏による「知識創造企業」(東洋経済新報社 1996)と比較すると、本書は「知識創造社会(会社)」実現へ向けて、より 具体的な指針をまとめたもの、という位置づけができるだろう。また前著 は日本企業の強みを「暗黙知の活用」という観点から分析しており、日本企 業の経営手法分析という一面もあったが、本書では暗黙知の活用が、日本企 業あるいは日本文化に特有のものではなく、欧米の企業においてもなされ、 また有効に働いていることが報告されている。暗黙知の活用が文化や国境を 越えて重要であることを示しており、野中氏らによって提案されている暗黙 知の理論が普遍性を持つことが理解できる。理論的な前進である。