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本書の目的は、知識創造の段階を整理し、その上で知識の創造に重要な 役割を果たす要素を洗い出すことであった。新たな知識は以下の5段階を経 て創造される:
活性化要素 | 暗黙知の共有 | 概念化 | 概念の正当化 | プロトタイプ | 知識の組織的学習 |
---|---|---|---|---|---|
展望の醸成 | * | ** | * | ** | |
対話の促進 | ** | ** | ** | ** | ** |
活動家の活用 | * | * | * | ** | |
適切な場の設定 | * | * | ** | * | ** |
知識の伝達 | ** |
「場」については、本書で詳細な分析が加えられているので、ここで試しに 知識創造の5段階と関連づけて整理してみた。「プロトタイプの開発」とい う段階が、「新製品開発」という項目と整合しないので、「製品開発・生産」 に変更し、その変更に合わせてさらに、「概念の正当化」と「製品開発・生 産」の関連を切り分けてみた。すなわち、知識やビジネス、活動の特徴、組 織形態といった観点では、「暗黙知の概念化」から「正当化」に至る過程は 連続的である。しかし、行為の主体と相互作用のあり方という観点からは、 大きな変化がある。逆に、「暗黙知の正当化」から「製品開発・生産」に至 る過程では、主体や相互作用のあり方は変わらないが、知識は既存ものとな り、また活動の特徴や組織の形態が変化する。
暗黙知の共有 | 概念化 | 概念の正当化 | 製品開発・生産 | 組織的学習 | |
---|---|---|---|---|---|
主体 | 個人 | 集団 | 組織 | 同左 | 個人 |
相互作用 | 直接的 | 直接的 | 間接的 | 同左 | 間接的 |
知識 | 新 | 新 | 同左 | 既存 | 既存 |
ビジネス | 新 | 既存 | 同左 | 既存 | 新 |
活動の特徴 | 戦略的重要性 | 新製品開発 | 同左 | 効率重視 | 提携 |
組織形態 | 部署横断的小集団 | タスクフォース | 同左 | 特定部署 | ネットワーク |
野中氏が共著者で加わっている前著、「知識創造企業」Knowledge Creating Company では、知識創造の段階に焦点が当てられていたが、本書 では知識創造を可能にしているさまざまな要素を洗い出し、その役割と効果 を批判的に検討している。中でも「場」に関する考察は本書の中心を成すも のであり、刺激的なアイデアが含まれている。ここで描かれている図が、よ り具体的にはどのように実現されているのか、あるいは実現されうるのか、 大変興味のあるところである。組織のより良い、適切な形態を考える上で、 多くの示唆が含まれており、情報処理技術を援用して知識経営を押し進めて いく上で考慮すべき重要な指摘がなされている。
以上、足早に内容を解説してきたが、短い文章で原著の魅力を伝えるの は不可能である。様々な事例を元に、含蓄のある考察がされており、是非原 著を手にとって、個々の事例を検討することをお薦めしたい。(了)
文責:藤波 努 (2000.7.6)