Research

熱電半導体ナノ粒子の合成とエネルギー変換材料の創製

 熱電変換素子とは、ゼーベック効果によって熱を電気エネルギーに変換する(あるいはペルチェ効果によって電圧印加で温度差を生じる)素子である。熱電変換素子によるエネルギー貯蔵や発電に関する技術は近年一躍注目を集めているが、現在実用化されているような熱電変換材料の多くはTeやSeのような毒性が高く希少な元素を用いており、元素戦略面からも環境面からも広範な実用化に難があった。一方、同じカルコゲンの一つである硫黄(S)は、資源的にも豊富であり毒性も低いことから、例えばCIGSやCZTSなどに代表されるような銅硫化物半導体は有望な代替材料として期待されている。しかし、エネルギーハーベスティングでの利用を考える場合、低温領域(e.g. <250℃)でのエネルギー変換効率(η)を向上させる必要がある。

 熱電変換材料のηの改善が困難な理由はηに密接に関連する無次元性能指数ZTを表す式を見るとわかる。ZTは、ZT = S2σT/κS: ゼーベック係数、σ: 電気伝導率、κ: 熱伝導率、T: 温度)で表され、ZT向上のためには高いS、高いσ、低いκを全て同時に満たさなければならないが、通常のバルク結晶では各々を独立に制御することが極めて難しいためである(κを低くしようとするとσも低減されてしまう、σを高くしようとするとSが小さくなってしまう、等々)。しかし、フォノンとキャリアの平均自由行程の中間のサイズのグレインを持った"ナノ構造熱電変換材料"を作ることができれば、電気伝導を阻害せずフォノンを散乱することでκを低減でき、ZT向上が可能である。我々は、様々なカルコゲナイド系熱電半導体ナノ粒子を創製し、これらの熱電半導体ナノ粒子を、一次構造を保存したまま焼結することでナノ構造熱電変換材料を構築し、サステイナブル熱電材料のZT向上を目指す。

金属ナノ粒子を用いたバイオセンシング技術の開発

 金属ナノ粒子はバルク金属とは異なる物理化学特性を有するため、基礎・応用双方の観点から極めて重要な物質であり、様々な分野の研究者から注目を集めている。なかでもAuやAgなどの貴金属のナノ粒子は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)や表面増強ラマン散乱(SERS)といった特異な光学的効果を発現する興味深い物質である。LSPRとは金属ナノ粒子表面において自由電子の集団的振動であるプラズモンと光電場とが相互作用する現象であり、SERSとは近接した金属ナノ粒子同士 の間隙に存在する分子のラマン散乱強度が大幅に増強される現象である。1990年代末頃から、貴金属ナノ粒子のLSPRやSERSを利用した様々なタイプのバイオセンサが提案されており、個別化医療や予防医療の分野で今後益々重要な役割を担っていくと期待されている。

 SERSプローブとしてはAgナノ粒子を用いるのが感度の面では望ましいことが知られている。しかし、Agは化学的に不安定で酸化され易いため実用に適さない。我々は、Agナノ粒子の中心にAuやPtの芯を持たせることでAuやPtからAgへの電子移動を促し、LSPR 特性やSERS特性はAgナノ粒子と同等のまま、Agシェルの耐酸化性を飛躍的に向上させることに成功した。このように、異種金属元素からなるヘテロ構造金属ナノ粒子を精密に設計・制御することによって、単一の元素あるいは合金では得られない相乗的機能を創出することができる。我々は、種々のヘテロ構造金属ナノ粒子を創製し、電子構造および物 性とナノ構造との関係を明らかにするとともに、化学/バイオセンサや触媒としての応用を開拓する。

磁性体ナノ粒子の合成とバイオ医療分野への応用

 難治性疾患医療における予防、診断および治療のそれぞれのフェーズで磁性体ナノ粒子を用いたナノ磁気医療が注目されている。例えば、予防や診断の場面では磁気分離、磁気免疫診断あるいはMRI造影剤など、治療の場面では 磁気温熱療法やドラッグデリバリーシステムなどというように、物質は同じでもそれぞれ異なる物理現象を活用することによって、予防から治療までを一貫して行うことができるという点で、極めて重要かつ有望な技術である。我々は、規則合金系や酸化物系などの超常磁性体ナノ粒子を独自の方法によって合成し、その表面を生体機能化することによって、磁気診断技術や磁気分離技術など様々なナノ磁気医療分野での応用の道を開拓する。

 磁性体ナノ粒子の主な特徴は、外部磁場によってマニピュレートできることであるが、動態イメージングが必要な場合には蛍光やプラズモン散乱などの光学特性が付与されていることが望ましい。そこで我々は、磁性体と半導体を組み合わせた磁性-蛍光ハイブリッドナノ粒子や、磁性体とプラズモニック材料を組み合わせた磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子な どの開発を行っている。 これらの多機能ハイブリッドナノ粒子は、磁場によるマニピュレーションが可能なだけでなく、有機蛍光色素に比べて耐光性が高く、長時間の観測や繰り返し測定にも適しており、バイオ・医療分野での様々な応用が期待される。

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