Neteco07 Oral (Y.Hayashi)

第3回シンポ 招待講演概要

招待講演1
西部 忠 氏, 北海道大学大学院経済学研究科 教授
題目:地域通貨の流通ネットワーク分析と制度設計
概要: 経済活性化とコミュニティ構築のための統合型コミュニケーション・メディアである地域通貨について, その流通ネットワークの可視化手法や中心性, 互酬性, べき則等のネットワーク特性に関するこれまでの研究成果を紹介し, そうしたネットワーク分析をいかに規範的な制度設計論へ接続しうるかを議論する.

招待講演2
谷澤 俊弘 氏, 高知工業高等専門学校 助教授
題目:ネットワークの機能不全と最適構造
概要: ネットワークは構成要素である「点」(ノード)が「線」(リンク)によって結びつき,全体としての連結性を保ちながら,そのリンク上を物質・エネルギー・情報等が流れることによって機能する. しかし,現実に存在する様々なネットワークにおいては,構成要素であるノードの内のいくつかが,何らかの原因で機能を果たせなくなったり,あるいは,外部からの意図的な「攻撃」によってネットワークから除去されたりすることにより,ノード間のリンクが失われ,ネットワーク全体の連結性が危険に晒されることがある. 生物の個体内の神経回路網,生物種間の捕食関係,人間同士の友人関係,インターネット・トポロジーなと,我々の身のまわりに存在する重要なネットワークの多くは,各ノードの持つリンク数の分布がべき乗則に従うスケール・フリー・ネットワークと呼ばれるものであることがわかってきたが,そのスケール・フリー・ネットワーク構造は,構成ノードのランダムな機能不全に対しては極めて頑丈である一方,ネットワーク内に存在する「ハブ」とよばれる極めて多くのリンク数を持つノードがほんの僅か除去されただけでその連結性がたちどころに失われてしまうという脆さを合わせ持っていることがわかってきた. 従って,ノードのランダムな機能不全,および,ハブの選択的な除去の両方に対してその連結性を最も維持しうるネットワーク構造はどのようなものであるか,という重要な問いが生じてくる. 我々の研究グループは,この問いを解析的手法を用いて考察し,べき乗則のリンク数分布とは全く異なる,ただ二つのピークからなるリンク数分布を持つネットワーク構造が,この場合,最適となることを導き出すことができた. 本講演では,この話題を中心とし,ノード除去に対するネットワーク全体の連結性の維持に関する様々な研究成果を発表する. また,共同研究を行っているボストン大学ネットワーク物理研究グループの活動についても紹介する.

パネルディスカッション
パネラ/所属: 三隅 譲二/福岡県立大, 井庭 崇/慶応大, 辻 竜平/明治学院大, 小島 一浩/産総研, 友知 政樹/中央大ほか.
題目:スモールワールド実験の再考
概要: 1967年に発表されたS.Milgramの"Small World"実験の結果は, 我々に驚きを与え, ネットワークに対する興味を掻立てるものであった. しかし, その実験に対する被験者サンプリングはバイアスが掛ったものであった. 世界は本当に, "Small World"なのか?
本パネルディスカッションでは, "Small World"実験の問題点を再整理, 実験結果について再考しつつ, "人的ネットワーク"の構造や "Navigation"問題について数理社会学者・情報工学者の視点から議論を行う.

第3回シンポ 一般講演概要

安田 雪(東大MMRC)
題目:弱い紐帯の弱さ
概要:My purpose is to (1) examine the determinants of small-world chain stoppers by analyzing a class-room SW experiment and structure of friendship network among 17 students. Findings suggest that bridges efficiently pass messages, but weak do not. Weak ties, especially reciprocal weak ties show tendency to make loops, thus they often stop message delivery. Bridges function to diffuse messages across groups, but weak ties do not as they cut small-world chains by making loops.

金光 淳(NiCT)
題目:東アジア複合社会ネットワークの解析:「東アジア共同体」構築の可能性を探る
概要: 早稲田COE『現代アジア学の創成』では東アジア共同体構築の可能性を探るために周辺関係国を含めた19ヵ国について政治, 経済, 文化, 社会の各分野, 20数種類の分野(人の移動, 留学生の移動, 貿易, SWAP取引, 直接投資, 政治(軍事)首脳の訪問, 通信, インターネット回線, サッカー交流, 科学論文の共著, 映画の輸出など)において1980年代から2005年までの毎5年の交流ネットワークデータ・ベースを作製し, ネットワーク解析を行ってきた. このたび岩波書店より「東アジア共同体の構築」シリーズの第一弾『図説 ネットワーク解析』として12/26に発売される. 講演では, このプロジェクトの成果として得られた結果を発表する.

三井 一平, 内田 誠(東大院 工学系研究科), 白山 晋(東大 人工物研)
題目: コミュニティ成長モデルによる社会的なネットワークの分析手法について
概要: 複雑ネットワークに対しては,その特徴を示す多くの統計的指標が示されている.中でも,次数分布から得られる情報は多い.実ネットワークの形成機構を推定するために提案されてきたネトワークモデルにおいても,次数分布の再現性が重要になっている.ほとんどの場合,低次領域と高次領域を打ち切り,残りを指数分布やベキ乗分布のように一つの分布に対応付けるということが行われる.しかしながら,実ネットワークでは区分的に異なる分布が現れることが多い.それぞれの領域(区分)が何かしらの分布に相当し,異なる,あるいは相互作用のある形成機構が存在するものと考えられる.Barberらは,このような区分的に異なる分布を,コミュニティという観点から論じている.  本稿では,Barberらの指摘に従い,区分的分布が再現できるようなコミュニティ成長モデルを提案する.次に,そのモデルに基づき,数十種類の新たなモデルを系統的に派生させる.モデルによって生じる特徴を区間毎に纏め,実ネットワークの次数分布やコミュニティ参加数の分布等における区分的な性質がどのような機構によって生じるのかを検討する.

木村 昌弘(龍谷大理工学部電子情報学科), 斉藤 和巳(NTT-CS研), 中野 良平(名工大情報工学専攻)
題目:社会ネットワーク上の情報伝播における影響最大化問題の近似解法
概要: 社会ネットワーク上の情報伝播の基本モデルとして広く用いられている, independent cascade modelとlinear threshold modelに基づいて, 大規模有向ネットワークから影響力が強いノードを抽出するという最適化問題(影響最大化問題)を考察する. greedy hill-climbing法により得られるこの問題の近似解に関しては, 劣モジュラー関数論による近似性能保証が与えられているとともに, 出次数中心性などの従来の社会ネットワーク分析による素朴な手法に比べ, 実ネットワークにおいて高性能であることが報告されている. ところで, この手法においては, 指定されたノード集合から影響を受けるノード数の期待値(ノード集合の影響度)の周辺増大度を計算する必要がある. 影響度周辺増大度の計算に関しては, 厳密値を効率的に計算する手法は知られておらず, 本手法により実際に近似解を求める際には, 情報伝播モデルを多数回シミュレーションすることによって推定されていた. しかしながら, このような近似解法は, 大規模ネットワーク上では多大な計算量が必要であり実用的ではない. 本論文では, 影響度周辺増大度の推定を, 情報伝播モデルの一般化ボンドパーコレーションモデルへの写像と, 到達可能性分析による強連結成分商グラフ抽出に基づき, 効率的に実行する手法を与えることにより, 影響最大化問題の有効な近似解法を提案する. そして, ブログのトラックバックネットワークやWikipedeiaに基づく人物関係ネットワークなど, 大規模な実社会ネットワークを用いた実験により, 提案法の有効性を実証する.

松林 達史, 山田 武士(NTT-CS研)
題目:大規模ネットワークにおける可視化について
概要: ネットワークの可視の研究は1980年代より盛んに行なわれ,Fruncherman and Reingold(1991) 以降 Force-directed 法が広く利用されている.力の働く方向に座標更新を行い,系の最小エネルギー状態を求めてゆく手法である.本研究では,Force-directed 法に加え,独立固有時間刻み法を用いて局所的に座標更新を変更する方法を提案する.この手法は,天体力学のN体計算において,局所的に密集した領域を精度よく計算する手法として広く用いられており,個々のノードに独立な更新時間を設定することによって計算を高速化することが可能である.本研究おいては従来法よりもより高速で,かつ効果的なアルゴリズムの開発に成功した.発表では従来法の問題点などを交え研究成果の発表を行なう.またさらに,我々は上記の独立固有時間刻み法を並列化することにより,粒子間相互作用専用計算機 MDGRAPE-3 PCI-X に実装し,座標計算をおよそ100倍高速化することに成功した.

亀山 周明, 内田 誠, 三井 一平(東大院 工学系研究科), 白山 晋(東大 人工物研)
題目:部分グラフ構造からのコミュニティの類型化手法について
概要: ネットワーク型データからコミュニティを抽出するという研究は多い.その抽出法は,部分的なグラフ構造の類似性からノードを分類し,類似のノードを集めるという方法と,コミュニティ内のリンク数とコミュニティ外へのリンク数によってネットワークを分割するという方法に大別される.前者はグルーピング手法といえるもので,グラフ距離の近さを考慮することが難しく,近くにある類似のノードのみを分離するためには工夫が必要になる.後者はクラスタリング手法とみなされ,ある指標に基づいてネットワークをクラスタに分割するが,その指標によってクラスタの構造自体を特徴付けることが難しい.このため,いずれかの方法で抽出されたコミュニティは類型化されているが,不完全であることが多い.抽出したコミュニティの分析や,検索等への利用を考慮すると,類型化の精度を向上させることが望まれる.  本稿では,分類体系的なコミュニティ抽出によって,精度の高い類型化を試みる.具体的には,後者の方法に基づいてコミュニティを抽出し,抽出されたコミュニティが有する部分グラフ構造に対して,前者,あるいは後者のコミュニティ抽出法を適用し,段階的に詳細度を上げるという方法を提案する.また,Wikipediaに対するコミュニティ抽出と分類によって提案手法の有効性を調べる.

鈴木 徳一(日大理工学部)
題目:地震の複雑ネットワークにおける階層構造と次数相関
概要: 南カリフォルニア及び日本における地震データを複雑ネットワークに写像し, その階層構造と次数相関構造を調べた. その結果, 地震のネットワークは, そのクラスター係数が, 結合度に対しベキ則的に減衰するという階層構造を有することが分かった. この振る舞いが地震のマグニチュードの閾値を上げるとともにくずれることから, ネットワークの階層構造に小さな地震が重要な役割を果たしているということが明らかとなった. また, 最近接平均結合度とピアソン相関の解析から, 地震のネットワークはassortativeなミキシング構造を持つことが分かった. これは, 大規模地震を含む頂点同志がお互いに結合しやすい傾向にあることを示している. これらの結論に基づき, 複雑系としてのインターネットとの類似性・相違性や, 理論モデルとの関連についても議論する.

久保 正男(防衛大 情報工学科), 成瀬 継太郎(会津大学)
題目:電子掲示板におけるメッセージ分布とその利用
概要: 本発表の目的は,電子掲示板に集まる人々(BBSコミュニティ)の間には,どのような相互作用が行われているかを明らかにすることである.まず,実証的なアプローチとしてBBSのログを解析した.その結果,大部分のBBSのスレッドにおいて,「一人当たりのメッセージ投稿数とその人数の分布は,対数正規分布に従う」ことが明らかになった.次に,なぜこのような分布が発生するかを明らかにするために,BBSに記事を投稿する心理過程を単純化しモデルを構築した.様々な条件化でモデルをシミュレーションした結果,上述のメッセージ分布数は正規分布から対数正規分布を示すことが明らかになった.メッセージ分布が対数正規分布に従うことが明らかなったため,従来の手法では困難であった,メッセージを1件も投稿しない読者数の推定が可能となる.これは,メッセージ分布において0件のメッセージ投稿数を持つ人数に対応するためである.この手法のよる読者数の推定法を実際のBBSのログに適用した結果,推定された読者数は実際のBBSの閲覧数によく一致することが明らかになった.

内田 誠(東大院 工学系研究科), 白山 晋(東大 人工物研)
題目:複雑ネットワーク上の多数決モデルから生じる固有モード
概要: ネットワークを通じた局所的な相互作用から創発する現象を分析するために,ノードに2もしくは多状態のスピン状態を考え,その局所的な相互作用によって発展する系として現象をモデル化することが行われている.これに対し,著者らは複雑ネットワーク上のあるスピン相互作用系において,ネットワークの構造や初期状態に応じた特徴的な現象を報告している.特に,任意に与えた初期状態に依存して様々な準安定状態が生じることを確認しており,この現象はネットワークの固有値・固有モードと密接な関連があるものと予想される.本研究では,スピン相互作用と同様の性質をもつ多数決モデルに対して,状態の時間発展をいくつかの複雑ネットワークモデルの隣接行列を用いて定式化し,生起する準安定状態と,固有空間との関係を分析する.そして,初期状態と卓越する固有モードとの関連を調べる.

山出 真也, 内田 誠(東大院 工学系研究科), 白山 晋(東大 人工物研)
題目:群れ行動の背後に存在するネットワーク構造について
概要: 群れを形成する個体の移動行動を大域的にみると,隠れたネットワーク構造の存在を示唆するような現象や事象がある.例えば,群集において移動の速い個体を観察すると,ショートカットに相当するような経路が表出する場合がある.本稿では,そのような群れ行動の背後に存在する隠れたネットワーク構造を,ネットワーク上のマルチエージェントシミュレーション(MAS)によって顕在化させる方法について考察する.はじめに,群集シミュレーションを代表とする,エージェントの移動が重要になるいくつかのMASを実施する.次に,シミュレーション結果において,エージェントの移動行動を物理世界から調べ,物理世界の属性とネットワークの属性の対応関係を導く.対応関係から背後にあるネットワーク構造を類推する.

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