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【開催報告】第9回 JAIST連続セミナー「分断しにくい繋がりと知」

2026年06月17日(水)、コワーキングスクエア金沢香林坊にて、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)未来デザイン研究センター主催の連続セミナー「○○と知~新たな学び」の第9回を開催いたしました。

本セミナーシリーズは、昨年度から引き続き開催しており、最先端の科学技術をテーマに科学技術の最先端を走る講師の方から技術の最新動向を学び、専門用語を使わず参加者同士の対話を通じて「新たな視点」を発見することをコンセプトとしています。

今回のテーマは「分断しにくい繋がりと知:ネットワーク科学から考える、これからの社会のかたち」
当日の様子をご報告いたします。


インプットセミナー:

今回の講師は、ネットワーク科学を専門とする林 幸雄 教授。電力・通信・SNS・企業間取引など現代社会を支える「ネットワーク」を入口に、なぜ私たちの社会は分断に弱いのか、どうすれば分断しにくい繋がりをつくれるのかを、科学と歴史の両面からご紹介いただきました。

講演の出発点は、20世紀末に見つかった分野の違うネットワークが、似た構造をしているという大きな気づきでした。SNSも電力網も生物の代謝も、ほとんどのノードは少しのつながりしか持たず、ごく一部の「ハブ」だけが大量のつながりを抱える不平等な形をしています。この構成は便利で効率的な反面、ハブを狙われると一気にバラバラになる弱さを抱えています。これに対し、林教授の研究グループはノード同士を「輪っか(ループ)」でつなぎ直すことで、より平等で攻撃に強い”竹のようにしなやか”なネットワークに変換できることを世界に先駆けて発見しました。ただし、「内側だけの強い団結」も逆効果だと言います。仲間内で固まりすぎると、その境目を切られた瞬間に分断されてしまうという点も、昨年11月の北陸中日新聞で紹介されています。

講演の後半では、このネットワーク観が広く現代の社会経済とその歴史的な形成過程に重ねられて説明いただきました。中央が地方から利益を吸い上げる現代の構図は、ハブ依存のネットワークと相似形だと指摘したうえで、もともと人類は中世まで助け合いの共同体の中で生きていたこと、近代以降の資本主義・新自由主義によって自己責任化と格差拡大が進んだこと、そしてその流れの中で二宮尊徳の「報徳」(至誠・勤労・分度・推譲)の思想が、渋沢栄一・松下幸之助・稲盛和夫といった日本の近代実業家へと受け継がれてきたことが紹介されました。そして第三の道として、世界各地で広がる「社会的連帯経済」「協同組合企業」の可能性が示されました。

クエスチョン&ディスカッション:ネットワーク・研究への質問

各グループから林教授に対して、ネットワークの仕組みや研究について質問が寄せられ、議論を深めました。

ネットワークについて
Q効率と、攻撃への耐性。どちらが重要?
A攻撃への耐性。いまの電力・通信・経済取引はどれも非常に効率的にできているが、ごくわずかなハブを失うだけで全体がバラバラになる弱さがある。耐性を高めても効率の低下はわずか——乗り換え1駅で行けたところが2駅になる程度で、我慢できる範囲。むしろ多くを中継することで見えるものが増え、心も豊かになる。耐性の強化は効率を犠牲にしない、と科学的にわかっている。
Q「リンクの数の格差」とは、どれくらいのもの?
A現実のネットワークは、大多数が1〜2本しかつながりを持たないのに、ハブは100倍・1000倍ものつながりを持つ。この格差を縮め、全員がほぼ同じ数のつながりを持つ形に近づくほど攻撃に強くなることが、科学的に解明されている。ただし、たとえ平等になっても「内側の団結」が強すぎると、その境目を切られた瞬間にバラバラになる——団結の悪影響のほうが強く、これはほとんど知られていない重要な結果。
Q竹のようにしなやかなネットワークとは、たとえばどんなもの?
Aクッションのように衝撃を吸収するもの、あえて「無駄」や余力を抱えているもの、バックアップに切り替えず全体で働く仕組みなど。たとえばロケットのエンジンを、独立なx-y-zの3方向でなく、「輪っか」を作ってお隣同士が協力することで、一部が壊れても残りで機能を保つ強いネットワークになる。
報徳について
Q報徳が「計画経済」につながる、とはどういうこと?
A至誠・勤労・分度・推譲という考え方を実行する方法を「仕法」と呼ぶ。目の前の飢饉の救済だけでなく、5年先・10年先を見据えて米やお金を蓄え、文字と数字で記録し、計算したうえで計画的に実行した——これはまさに計画経済。世界的に計画経済が登場するのは20世紀だが、日本では18世紀後半にすでに行われていた。

「災害の専門家とネットワーク科学者は分野が違うので、お互いの知見が知られていない。学術の分断がまさにここにもある」という、研究者ならではの言葉も印象的でした。


クエスチョン&ディスカッション:
近代実業家は「報徳」から何を学んだか

後半のグループディスカッションでは、林教授から2つのお題(A:競争原理が広まるはるか以前の人々が望んだ社会とは何か、それはあなた自身の望みでもあるか/B:日本の近代実業家は報徳から何を学び、現代の考え方とはどこが違うか)が提示され、参加者の多数決で「B」を選んで議論が行われました。各グループから、異なる切り口の答えが共有されました。

グループ① 「4つの指針の優先順位」に注目
日本の近代実業家が報徳から学んだのは、至誠・勤労・分度・推譲という4つの指針そのもの。ただし現代では、この4つの優先順位が時代とともに変わってきているのではないか、という視点。

グループ② 「経済と道徳の一体化」に注目
講演で紹介されたイーロン・マスクなど現代の言葉は、自分の成果だけを求めるもので、経済と道徳が分離している。一方、松下幸之助の「企業は社会の公器」に代表されるように、日本の近代実業家は、社会の中で会社や一人ひとりの働きが持つ意味を大切にしており、経済と道徳が重なっていた。報徳から学んだのは「長期的な視点で、みんなのために何かをするという使命」であり、だからこそ一生懸命働くことが、しんどい苦行ではなく自分を満たすものになっていたのではないか、という視点。

グループ③ 「ネットワークの広がり」に注目
近代の実業家が生きたのは狭いネットワークの時代。その中で生きていくために、報徳のような助け合いの考え方が理にかなっていた。一方で現代はネットワークが広すぎて、誰でも巨大な富を得る道が開けてしまった。またメンバー自身が働く介護の現場は、国のルールの中で運営される、資本主義とも社会主義とも言い切れない難しい世界——と、身近な仕事に重ねた発表となりました。これを受けて林教授からは「介護・医療・教育のような分野は営利企業とは別のカテゴリーで、本来は人々の”共有物”として捉えるべきではないか」との応答がありました。

グループ④ 「お客様に愛されるための行動」に注目
近代実業家の名言からは「至誠」の考え方や人間性が読み取れる。最近の石油価格の高騰の中でのユニクロを例に挙げると、「うちのものを買ってください」と強く押し出すのではなく、仕入れ先もお客様も含めて、みんなが幸せでいられる姿勢を取っている。「お客様に愛されるための行動」のかたちは時代によって変わってきているのではないか、という視点。


林教授からの総括

林教授からは、「皆さん短い時間で一生懸命まとめていただきありがとうございました」との言葉とともに、講評として次のようなメッセージが寄せられました。「中世まで人類はずっと助け合いの社会だった。近世以降、投資家が自身の利益を追求するために労働者に競争を強いる資本主義の仕組みが、数百年にわたって構築されてきた。私たちは幼少期からその中で育っているので、競争する時代に何ら疑問を感じずに過ごしてきた——まるで弱肉強食が最も自然な習わしであるかのように。ところが、19世紀の社会学者・生物学者クロポトキンは、膨大な野外観測から、太古から人類はもちろん野生動物ですら群れをなして助け合って生きていると結論づけている。競争は決して人類の”自然な姿”ではない——そんな問いかけとともに、参加者と研究者が共に未来の社会の繋がり方を考える時間となりました。

Future Writer:吉羽


CONTINUOUS SEMINAR

連続セミナーのご案内

本セミナー「○○と知〜新たな学び」は、2026年度も毎月第3水曜日に定期開催します(8月は休講)。議論を交えながら新たな視点を養うべく、毎回異なるテーマで最先端の研究者が話題を提供します。

開催概要

日時毎月第3水曜日 18:00〜19:40
対象高校生以上(新しいこと・話すこと・考えることが好きな方)
参加費無料
今後のラインナップ
7/15

対人コミュニケーションと知

JAIST 岡田 将吾 教授

9/16

生命と知

JAIST 栗澤 元一 教授

8月は休講です。9月から再開いたします。
これまでの開催レポート

科学技術と私たちの未来について、肩肘張らずに語り合える場として、皆様の継続的なご参加を心よりお待ちしております。

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