文化と経済を整合させた、日本独自の国際貢献の実現を

−−東京芸術大学・平山郁夫学長の基調講演

引き続き、「国際赤十字」と同じ精神で、人類の文化遺産を守ろうと国際協力を呼び 掛け、「美」の国際赤十字構想を提唱する芸術研究振興財団の理事長でもある平山学 長による、「わが国のアイデンティティと世界への文化発信」というテーマで基調講 演が行われた。その内容を要約すると次の通り。
「50年前、日本は戦争で主要都市のほとんどが空襲でやられ、食べるものもなく、 国民は飢えと貧困というどん底におりました。いつしか豊かになりたいと一生懸命 働き、高度経済成長を経て、今日、確かに物質的には豊かになりました。ところが、 オウム事件に象徴されるように、戦後50年を振り返ってみますと日本人は知性と心の バランスが取れていなかったと痛感します。


日本人の顔が見えないと海外から痛烈な批判

あらゆる面で国際化が進む中、海外からは『日本人の顔が見えない』という声をよく 耳にします。アメリカは独立戦争で、フランスは革命で、人権と自由を獲得し、世界 にその思想を広げていきました。日本では国際貢献といっても、現状では憲法の制約 もあり、人的な貢献がしにくい面があります。そんな中で、日本を守るのは日本人が 長い間培ってきた文化だと思っています。経済と文化の整合が必要なんじゃないかと 思うわけです。


“和”の心と最先端のマルチメディアが融合して
新たな文化が生まれる

では、その日本文化とは何かというと、仏教が伝来する以前の、われわれの先祖が 培った価値観というのは、自然とともにその恩恵を感じながら生きるということだと 思います。
自然の恵みという地理的な条件は、いくら科学が発達しても変わりません。自然を 克服したつもりでも、地震や台風といった自然災害などで一瞬のうちに消え失せてし まうことを、改めて阪神大震災で思い知らされました。
何もないところから造り上げることより、一度潰されたものを再建することのほう が、ずっとお金がかかりますし、技術的にも大変なことです。自然の恵みや自然条件 を土台に自然災害に対する対策の理念を持って都市計画や建造物をたてているのかと いうと、残念ながらそうでもありません。


日本古来の“和”の心が大切

日本の独自の文化が今日まで継承されてきた背景には、自然に生きるという日本人の 心があったと思います。たとえば、正倉院の宝物は、すでにペルシア本国にも残って いないのに、今でも当時のササン調ペルシアの隆盛を忍ばせる姿のまま今日に残って います。また、法隆寺は20年毎に解体・修理することで、木造建築でありながら美し い姿を保つことができましたし、これからも千年でも二千年でも美しいまま後世に伝 えることができます。
文化財はそのまま放置すれば、やがて劣化が進みます。文化財の保護・修復には文化 財を守ってきた先人たちの“和”の心を持ち、さらに、その時代時代で使われた素材 や材質、道具類などを科学的に考察する必要があります。そこに現代の優れた技術で あるコンピュータを駆使したマルチメディアが必要なのです。このように“和魂洋 才”を持って文化遺産を守ろうとするなら、繊細な心のこもった思いやりが映像に出 てくるように思います。そのようなソフトを作るために、みなさんの叡知が必要なの です。その叡知を世界に向けて発信していくこと、それが国際貢献に役立つと信じて います」 



【全体報告】

【東京会場:第一部パネルディスカッション】

【石川会場:第一部パネルディスカッション】

【第二部パネルディスカッション】